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「研究長と話があるのですから返してください!」

「ああ、すぐ終わる、少し黙ってろ」


 その研究長がよく使う部屋の近くにアルベルトの研究室がある。だからこそ行くついでに直したらよいだろうとアルベルトは思って提案していた。娘にそれを伝えていないことは彼にとってはどうでもよい事らしい。

 狭い廊下を抜けて学園の少し広い廊下に出る。


「わ、あっと、おっととと」

「何してんだよ」

「眼鏡が無いから見えないんですよ!」

「こんな眼鏡で何を見るんだよ、馬鹿だな」

「はぁ?!」


 前がかすんで見えない娘は足を躓いて何度も転びそうになっていたのをアルベルトは呆れた顔で見ていた。

 眼鏡をだめにしたのは自分がぶつかってきたせいだろうと思いつつ、アルベルトは娘の手を取って歩き出す。


「ひぃ!ちょっと!なに!」



 娘の方は突然取られた手に驚いて退こうとするもののアルベルトの力が強いためか全く無意味に叫んでいるだけになってしまった。


 訓練所同様木材で出来ている学園内は研究所よりは目に優しい作りになっている。その廊下をすたすたと進んでいく。

 アルベルトはどうやったら眼鏡を正確に直せるのかを頭に魔計算を浮かべながら考えつつ、娘をぎりぎりエスコートして歩いた。


 魔法は頭に浮かべるだけで直るなどそんな簡単にできている訳ではない。

 この国の魔術は、体内の魔力を専用のペンによって書き出し、その式を完成させたり、公式を書き込んだりすることによって発動させている。

 ただ木でできた棒を振り、呪文を唱えれば魔術が発動するということはないのだ。

 今回の場合は頭に素材を浮かべながらその物体を生み出す式を書き、溶かしこむような魔術式を描きながら直していく。細かい作業は少しのミスも許されないため高度な技術を要する。

 普通に考えてヒビが入って少し欠けている眼鏡を直すことは至難の業なのだ。



「ここだ、お前も入るか?」

「お前ではなく、私にはエリーという名前があるのですが」

「ああ、じゃあエリー。入るのか、入らないのか」

「な、は、入らせていだだきます!」



 名前を呼び捨てで呼ばれたからなのか顔を赤くしたその娘エリーはアルベルトが開けた扉の中に足を踏み入れた。


「わ……すごい」


 その中は本と、機材であふれていた。

 そんなに大きくはない部屋ではあるが、壁は全て本棚になっており、その全てに本が仕舞われている。

 更にその前に置かれているテーブルの上にはフラスコなどの容器はもちろん、顕微鏡のような機械や様々な色の魔石、エリーの知らない不思議な機材までたくさん置いてあるのだった。


「そこに居ろ」


 扉の近くに簡易な椅子を置くと、アルベルトは眼鏡を持って奥まで進んでいってしまった。


「近くで見ちゃだめですか?」

「だめだ」


 用意してもらった椅子に座ってみたものの、どんな魔法を使うのか見てみたいエリーはとてもうずうずしている。アルベルトはいつも使う魔道具の筆ペンを取り出して紙に何か書いているようだった。


「何書いているんですか」

「このガラスの式を書き出している」

「え!見ただけで分かるんですか!」

「触れば大抵の物は分かるだろう」

「普通分かりませんよ!!」

「そうか、悪いが少し黙っててくれないか」


 興奮したように話し始めたエリーを横目で睨みながらアルベルトは空中に式を書き始める。

 邪魔をしてしまったかも、と黙るエリーの目はそれでも爛々と輝き、今から始まるであろう魔術に期待していた。


 アルベルトが眼鏡を片手で持ちながら、慎重にガラスを注いでいく、細く細く落とし、今ある眼鏡のガラスの隙間に綺麗に入るように圧をかける。流し込む箇所のガラスには流し込む液体と馴染むように熱を発生させ、しかし形は変わらないほどの時間で冷ます。

 いらないガラスはすぐに風化するような術にしてあるようで、落ちていくガラスは空中で消滅して消えた。

 形状を記憶させる魔術もかけながら慎重に慎重に。



「できたぞ、ほら」

「わぁ!!わぁぁー!すごい!」


 見えない目でもすごいことをしている事が分かったと思いながら、エリーは眼鏡をかけてみる。


「見えます!」

「そうか。それは良かったな。ほら、研究長のいる部屋はそこの廊下を少し進んだ先だ、早くいけ」

「ありがとうございます!!!」


 エリーが眼鏡をかけると同時に背を向けて顔をそむけたアルベルトは彼女を早く出るように促して奥まで進み、時間が危なかったエリーも慌てて飛び出していった。

 先ほどシリスを呼び捨てで呼んで怒っていたのがウソのように素直にお礼を言いながら出で言った彼女に少々呆れながら、アルベルトはこれから訓練に向かおうかどうかを悩んだのであった。




お読みいただきましてありがとうございます。

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