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その日アルベルトは学園の廊下を歩いていた。
授業を終えていつものように訓練場に向かう為だ。
全体的に木材で建築されたこの学園の訓練場は敷地全体に防御の魔法が張られ、木材で出来た建物であっても風化はもちろん火事などの災害についても完全に防ぐことができる構造をしている。
この素材を選んだのはシリスであり、アルベルトがより安全に訓練ができるように考えられた施設になっていることをアルベルトは知っていた。だからこそ、ここでの訓練は毎日欠かすことなく行っていたし、シリスがたまに見に来るこの場所に同じ時間に来るよう心掛けている。
不意に、彼は目の前から走ってくる人物がいることに気が付いた。輝くような金色の髪をなびかせ、一目散に走っている。
廊下は訓練所への近道でしか使われることが無いような狭い廊下だ、そんなど真ん中を走って来られたらぶつかってしまう。
「おい、そこの」
「!!!」
顔を上げたその娘は突然かけられた声に驚いたようだった。バランスを崩しそのままアルベルトに突っ込んだ。
「おい!!!」
____ドサッ
「いったぁ…………」
「いっつ……」
2人は重なるようにして倒れていた、アルベルトは完全にその娘の下敷きにされ、胸に顔をうずめた彼女の肩を支えた状態だ。突然突っ込んできた娘に少しの苛立ちを向けながらアルベルトは声をかける。
「大丈夫かよ」
「ん………、あ、ご、ご、ごめんなさい!」
慌てて上から退こうとした娘は思い出したかのように彼の体をペタペタと触る。
「なにしてんだ……?」
「あ、こ、これは」
退く気配がない彼女に黒い空気をまといながらアルベルトは問いかける。早く退けというニュアンスを含むそれは彼女をより慌てさせる。
「め、眼鏡がなくて」
「眼鏡?」
眉間にしわを寄せながら訝し気に問いかける。さっき倒れた時にでも落ちたのだろうか。
アルベルトが廊下の周りを見渡すと少し離れた場所に眼鏡が落ちているのが見える。恐らくあれだろう。
「おい、どけ、あっちにある」
「は、はい」
娘が退くとアルベルトは起き上がり眼鏡も場所まで歩く。床から持ち上げたその眼鏡はレンズにヒビが入っており、恐らくかけてもよく見えないだろう。
もしかしたら面倒な事になるかもしれない、そう思いながらアルベルトはその眼鏡をぶつかってきたその娘に手渡した。
「その眼鏡、ヒビが入っている」
「あ……本当だ……どうしよう、この後研究長と話す約束してるのに」
「研究長?」
「はい、隣の研究施設の研究長です」
「ああ、シリスか」
アルベルトがシリスを呼び捨てにするとその娘はとても不服そうな顔しながら彼の事を見た。
「研究長を呼び捨てとは、あなた、なんです?先ほどは助けていただきましたが素直にありがとうと言うに相応しい人物か分からなくなります」
「はぁ?」
彼にとってシリス・グラントは父親だ、確かに迂闊に呼び捨てにしてしまったことは良い事ではなかったのかもしれないが、ここの学園また研究施設に通う者たちはアルベルトがシリスの息子であることは周知の事実であると思っていた。
しかし、この娘は知らないようだ、そもそも顔が見えていないのかもしれないが。
珍しい人物がいたものだとアルベルトは改めてその娘の顔を見た。
澄んだ空のような綺麗な水色の瞳をして自分をにらむその姿は、恐らく綺麗な顔立ちをしている。
無造作に伸ばされたその髪も、絹のように艶めいて触ってみたくなるほどだ。
「ふぅん」
「なんです」
「いや、別に、珍しい娘がいたものだと思っただけだ」
「は!?」
娘の方は目が悪くてすでに睨むかのようなのに怒りですごい顔している。そんな娘を見下ろしながらアルベルトが言う。
「直してやろうか」
「なんですって?」
「その眼鏡、直してやるよ、ついてこい」
「あ、ちょ、ちょっと!」
娘の静止を聞かず、彼女の眼鏡を取り上げてアルベルトは歩き出してしまった。
彼女は呆れたかおで「一体何するつもり」と言いながら追いかけて歩き出す。
アルベルトは、この後この娘と話す予定が入っていたならシリスは訓練場に来なかっただろうと考え、この学園に備えてある自分の研究室へと向かった。
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