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「クソッ……」
アルベルトはつい、舌打ちをしていた。
少しおかしいと思っていたのだ。
ここまで来る途中に誰ともすれ違わなかった。
この状況は、この女によって仕組まれていた可能性が高い。アルベルトがエリーを助けるにしろ助けないにしろ、どちらに転んでもこの女の手の内だったという事だ。
このままでは確実に自分はやられると、アルベルトは感じていた。
左手で魔法を構築しつつ右手に剣を構えてみるも相手の行動がまるで読めず、先程から流れている冷や汗が体からどんどんと熱を奪っていく。
「優しいからもう一度聞いてあげるわ。私の物に、なりなさい」
「………」
女から放たれた魔力によってアルベルトの体に負荷がかかる。ただ立っていることもままならず、荒く呼吸が乱れた。
「さぁ………」
女が徐々に距離を詰め、ゆっくりと近づいてくる。周りの景色が回り始め、アルベルトは自身の意識が朦朧としているのが分かった。
必死に呼吸をしているのに酸素が頭に入っていかないのだ。
「……!!」
ふと思い出したある式に、今の状況に合致したものがあった。
書きかけていた魔法を消し、水中に潜る際に使用する魔術式を瞬時に完成させ、そして加速の式を脚にかけると一気に女の横を抜けた。
後ろから舌打ちをする女の声が聞こえてくる。
自分が使用する魔法の内容がバレた事が悔しいのだろう。
呼吸を整えながらある部屋を目指した。
今使われていたのは空気の中の酸素濃度を減らす術、以前アルベルトは禁術として見た事があった。無くすのではなく減らす事により、知らないうちに息が乱れ意識を飛ばさせる。
思考能力も低下する為、拷問をする際にも使用されていると聞いた。
そんな術を何も描かず唱えず使用してくるなど恐ろしいものだ。そして、他の人間であれば通常禁術には触れる事がないために、抜け出す方法を見つけられずにあっさりと屈服していたに違いない。
「許せないわ、こんなにも簡単に抜け出すなんて」
油断していた相手を出し抜く事が出来るのは一度までだろう。これが唯一の、チャンスだ。
大きな体を回転させるために時間をかけていた女はこちらを追いかけ始めたらしい。
最大限の加速をかけているはずなのに、徐々に足音が大きくなってくる。
追いつかれる。
そう思った直後、アルベルトは思いきり真横に引っ張られた。
「アルベルト!」
「エリー!?」
今まさにエリーがいる場所へ向かおうとしていたアルベルトは、自分の腕を引いた人物に驚きを隠せなかった。
その場所はエリーが寝ている病室であり、普通に扉からエリー自身に引っ張られていたのだった。
「魔法で繋いだの、最近作った式だから心配だったけど…」
俯きながらそう伝えてくるエリーに、アルベルトは手を伸ばした。
頬に触れてゆっくりと顔を上げさせる。
そこには顔を真っ赤にさせたエリーが、心配そうな顔をしてアルベルトを見つめていた。
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