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「魔女……」
もう一度アルベルトが呟くとエリーは目を開けてアルベルトの方を向いた。
「エ……」
「きゃあ!!近寄らないで!!」
アルベルトの方を向いた瞬間、エリーは叫びながら耳を塞いだ。またあの声が自分を襲ってくるのではないかと恐怖で体が震えているようだ。
アルベルトはこんなにも自らを拒絶する何かがあるのかと言葉を失った。魔族の関係であったとしてもアルベルトの姿でこんなにも怯えてしまっているのはとても可哀想だと感じたようだ。
叫んだエリーも、だんだんと誰に対して叫んでしまったのかを認識し、慌ててアルベルトの方を向いた。
「……あ、アルベルト……」
「はは……起きたようで何よりだ。俺はもう行くから安心していい」
「ち、違う、アルベルト!」
「魔女、まだ顔が真っ青だ、落ち着くまで寝ていろ」
エリーの制止の声は聞かず、アルベルトは足早に部屋を出て行った。
残されたエリーの顔は先程やりも青くなっているようにも見える。彼女は泣きそうな顔で、アルベルトが出て行った扉を見つめた。
「エリー」
「あっ……研究長……」
「大丈夫かい?」
「えっと、す、すみませんご迷惑を」
「それは平気だよ、それよりも何があった?」
「…………研究長、実はお話ししなければいけない事があります」
魔族の討伐には『愛の力』が長期間で発揮される者が多く選ばれた、更には短期間でも大きな力を発揮する者はその相手も共に向かうらしい。
アルベルトは訓練所で無心に剣を振っていた。
頭の中にある鈍った神経を研ぎ澄ませなければいけないような気がした。
今訓練所にはアルベルト1人しか居ない。
他の者たちは殆ど魔王討伐に選ばれ、それの準備に当たっているらしい。
いつもなら周りから聞こえる剣を振る音も、掛け声も、今訓練所には響いていなかった。
「……アルベルト」
「なんでしょうか、父上」
目をつぶって剣を振っていても足音で誰が近づいてきたのか分かるアルベルトにとって、今のこの状況では当たり前のように誰が声をかけたのかを判別することができた。
剣をしまってその人物へと体を向ける。
「……魔王討伐について話したいことがあってね」
「行きませんと、先ほどお伝えしたばかりですが」
「ああ、わかっているよ」
アルベルトはシリスに、魔王討伐には同行しない事を伝えていた。
あの『例の力』を発揮したことが無いアルベルトは、近々規定の年齢に達してしまう。
万が一、魔王との戦いの間に魔力の減少などが起きたなどがあっては周りに多大な被害が出てしまう恐れもあった。
だからこそアルベルトは、期待されては困るという意味合いも込めて断っていたのだ。
その時、シリスは仕方がないねと言ってくれていたはずだった。
それなのに今またその話をされるとは、余程の事らしい。
「……ひとつ、伝えていないことがあったんだ、アルベルト」
「なんでしょうか」
「エリーについてだ」
「…………私には関係のない事では?」
「ああ、そうかもしれない」
「…………では」
アルベルトは急いでその場から去ろうとしたのだろう、訓練所の出口へと足を進めようとした。
しかし、シリスの言葉で足が止まった。
「……彼女に今、魔王の手が掛かっている」
「な、それはどういう意味です!」
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