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エリーが起きると研究室の端においてあるソファで寝ていた。
昨日から研究と徹夜でやっていたため途中でとても眠くなったことを思い出す。
そういえば、アルベルトが来る前に仮眠を取っておこうとソファまで足を運ぼうを思ったのだ。
途中で倒れたかと思っていたがちゃんとソファまでたどり着いていたのか、と思いながら体を起こすと体にブランケットがかけられていた。
これは、絶対にアルベルトがかけてくれた物だろう。
寝ている私を見てかけてくれたに違いない。
やはりアルベルトは優しい人物だなと思いながら眼鏡を直してくれたあの青年を思い出してみる。
そういえばちょっと強引なところなどがアルベルトに似ている気がする。
シルエットでしかアルベルトの事を見なことが無いので確認はできないが、実際目で確認したら本人なのかもしれない。そんな淡い期待を持ってみる。
だたその確認をする勇気はエリーには無かった。
徹夜で完成させた研究結果には魔族に関してとても重要な結果を出すことが出来ていた。
それをアルベルトに話すことをとても楽しみにしていたため、彼が研究室にいないことにとてもがっかりする。
この部屋には来ていたはずなのにそのタイミングを逃してしまったことが残念で仕方がない。
ただ、この部屋を訪れない事が無かったアルベルトは今日も顔を出すだろうとエリーはソファに座ったまま足を揺らして待った。
しかしその日、アルベルトが顔を出すことは無かった。
エリーの研究で良い結果が出てからというもの、アルベルトと研究室で会うことが無くなってしまった。
どうやらエリーが授業の最中のみ研究を行っているようで、そこに居た形跡のみが残されている状態だ。
既に4日以上経っている。
「そろそろ、話したいのだけど……」
どうしても結果報告を行いたいエリーは、アルベルトを捕まえるべく資料を持って研究室から飛び出した。
アルベルトは悩んでいた。
あの素顔を見てしまったエリーをフード越しでも直視することが出来なくなってしまった。
さらに、研究室にいるだけで彼女の気配が残っていて研究に集中できない。
これは一大事だ。
そもそも任されている任務はとても重要なものであるし、このままでは絶対にいけないのだが
アルベルト自身が気持ちを制御できず、それが外に出ている状態が初めてのことであるためどうしたらよいのかが全く分からない。
「困った……」
流石にこの状況にエリーの方も良くは思わないだろう。
そろそろ研究結果について報告もしたい。
そんな時近づいてくる存在がいた。
エリーが廊下の角を曲がると、50メートルほど先にある庭のベンチにアルベルトが座っているのが見えた。
声をかけるために近づこうとしたとき、アルベルトの横にある女性が立っているのが見える。
その女性は、銀の輝く絹のようなさらさらの長い髪を肩にかけ、透き通るような白い肌をした美しい女性だった。
アルベルトに声かけながら座ってそのまま話している。
胸の奥がざわざわとし、黒い靄がかかったようだった。
こんな気持ち、初めてで分からない。
そんな時、耳の奥で誰かのささやき声が聞こえてきた。
『ああ、ほら、お前なんかが人に好意を向けようとするからこんな汚い気持ちを抱く』
ゾッとするほど冷たいその声に驚いて持っていた本を落としてしまう。
_____バサッ
その瞬間、遠くにいるはずのアルベルトがこちらを振り返った。
驚いた顔をしてエリーを見たかと思うと立ち上がって彼女に向けて走り出す。
反射的にエリーは反対方向に逃げ出した。
やめて、やめて、きもちわるい、こないで。
こんな気持ち、きらい、全部、いなくなって。
そんな気持ちと共に耳の奥でささやく声が大きくなる。
『こちらに来たら、もうそんな気持ちをいだかない、おいで』
「!!!!」
得体の知れないその声に、今までに感じたことのないような恐怖が体を支配する。
その気配からも逃げるかのように自分の部屋に逃げ込んだエリーは、勝手に流れて来る涙の止める方法が分からないままベットに潜り込んできつく目を閉じた。




