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よろしくお願いいたします。

 その男はとても大きな魔力量を所持していた。

 また、『あれ』による魔力増量できる幅も通常の人間の約4倍以上存在すると予想される。

 そのため、彼を婚約者として迎えたい家が後を絶たず幼少期から大量の女攻めにあった少年は、大の女嫌いの青年として成長し、現在はこの国の学園に通ってた。


 彼の名前はアルベルト・グラント。

 グラント子爵家嫡男、サラサラの黒髪に灰色の瞳、鼻立ちはすっとしており、黙っていると彫刻かのようなその顔は、長身でスラっとした体とあいまって人間ではないのではないかと言われるほど美しい外見をしてる。


 今は不満そうな顔をしながら国の研究機関に向かっている最中のようだった。



 この国では『あれ』をすることによって今ある力以上の力を発揮できるだけではなく、その魔力量すら増量することはすでに研究として分かっていた。そのために昔から婚約者と長くともに過ごさせたり、たくさんの男女交流を持たせたり、学園の間もパーティーや男女混合のお茶会などの催しをたくさん設けている場所が多くある。


 その『あれ』の説明の前にこの世界の説明をしよう。



 この世界は人間の国と魔族の国の2つが存在してる。人間の国には王という席が存在し、国をまとめ、魔族にはあまり関わらないような流れを作る法を掲げるなど、堅く国をとりまとめていた。しかし、魔族も魔王というものが存在しておりその国をまとめていることにはなっているが、知能の低い魔族たちも多数存在する国をまとめ切れていないのが現状であった。

 その知能の低い魔族が人間の街を襲うことが後を絶たないため、襲ってくる魔族たちを根絶させたいと立ち上がる人間と、その魔族たちの小競り合いが大きくなって戦争に発展することが多々ある為冷戦期間を含めるとほぼ200年近くこの両国は戦争の状態を維持している。


 魔族というのは文字のごとく魔力を多く保持している物体が形を形成してできている存在で、どれだけ知能が低い魔族であろうとその強さは人間よりは上回る。人間も頭を使うことによって勝つ場合もあるだけで、もし一対一で争う場面になってしまうとほとんどの確率で負けてしまうだろう。

 そう、ほとんどの確率。それは、『愛の力』を引き出していない状態の時に戦えば、ということ。



「アルベルト只今参りました、」


 研究室の前についたアルベルトは黒い学園の制服をきっちりと着込み、扉の前に立っていた。

 いつもは無造作に放置されている髪もしっかりとセットされている。


「ああ、入ってくれ」


 中から聞こえてきた声に「失礼いたします」と声をかけて扉を開ける。


 今までの廊下もそうだったが、真っ白な壁に真っ白な天井、床や、家具などもすべて白で揃えられているこの部屋はある意味異質な空間であるとアルベルトは感じている。

 その真ん中の机に座る一人の男性。


「やぁ、アルベルト、彼女はできたか?」


 その男こそ彼の父親シリス・グラント。この研究機関最高責任者にしてここの創設者でもある人物。ここでの功績が認められ子爵の爵位を陛下から授かった経緯がある。


「失礼ですが、私はあなたとは違って女性が苦手なのです。知っておいでかと思っていたのですが」


「そうだったね、女性の1人や2人作っておくのも悪くないと思うのだけれど」


 まぁ座りなよと言いながら自らの机の前に横向きにおいてあるソファにアルベルトを座らせると、シリスは話し始めた。


「研究によって人に対する恋愛感情が体内の底に眠る力を呼び起こすことができることは、お前はもう知っているね?」


 そう。この世界で100年前に発見された力。その名も『愛の力』

 恋愛感情を持った相手からの恋愛表現をうけることによって、力が発揮される現象のことを言う。

 それは魔力に大きく表れ、すごい者だと10倍以上の魔力量になる者まで発見されている。

 効果は人によって異なるが、大体恋愛表現をされて1日くらいは魔力量が増えたままだったという結果が多数出ている為、なるべく愛する人物と一緒に住むことでその増えた魔力量を保つ人間が多い。



「ええ、そのくだらない名前の力の事でしたら存じております」


「はは、アルベルトには困ったものだ」


「その力に何かあったのでしょうか」


「ああ」


 シリスは少しだけ神妙な顔もちで机の上の両肘をつき手に顎をついて話し始めた。


「最近の研究結果で、その『愛の力』について新たな発見があった」


「…………」


「22歳までに『愛の力』を受けることができないと、魔力が、減少するというものだ」









「一体どういう事です父上」


 アルベルトは眉をひそめて腕を組んだ。

 そんな話は聞いたことが無い。今でも独身で力を発揮している魔導士はいくらでもいる。そもそも22歳という明確な数値はどこから出てきた数値なのかなど多くの疑問が彼の中で反芻した。

 そもそも、自分はその気持ちが悪い名前の『それ』をやったことがない。


「そうイライラするな、今のこの社会で恋愛をすることが義務のようになっている現状の中22歳までに全くそういった行動をしないという人間のほうが少ないんだ」


 分かるだろうというかのように言ってくるシリスは少しだけ苦笑いをしている。それもそうだ。目の前にいるアルベルトは20歳であり、あと数か月で21歳という年齢になるのだ。

 苦虫を嚙み潰したような顔でアルベルトは黙っている。


「いくら独身の魔導士だって学生の頃に恋愛をしている者は多く存在するよ。そもそも本当に小さい時に母親から受けた口づけでもよかったという結果も残っているんだよ」


 口から息を吐きだしてアルベルトは下を向いた。彼には母親がいない。彼を産んだ直後に死んでしまったからだ。その後シリスは再婚しているがそれはアルベルトが13歳になってからであり、そもそもその母親はアルベルトの事を好いていない。

 それは既に女性が苦手だったアルベルトが彼女の事を無視し続けたことが原因なのだが、今はそんなことは後でいい。


「私のせいだろうな」


「は?」


「私が色々な場所にお前を連れ出したりしていたのが原因だろうからさ」


「父上が原因ではないでしょう。周りの人間が良くなかっただけで」


 彼は直接的な原因ではない。彼は小さかったアルベルトを家に1人残しておくのが嫌で行く場所に連れて行ってくれていただけだ。そこにいた令嬢たちが勝手に群がり、べたべたと触ってきたり気持ちの悪い視線を投げてきただけなのだ。


 国の発展に大きく関わっていく可能性がある研究機関の責任者であり、子爵の地位を授けられたシリスの周りには今まで見向きもしなかったような貴族の集団がたくさん押し寄せていたのを知っていた。それにいつも1人で対応していたことも。

 あいつらのせいでシリスが責任を感じる必要はないのだ。


「だが、そのせいでアルベルトの魔力に影響がでるかもしれないなんて大変だろう」


「まぁ、そうですが」


 今のアルベルトには恋愛感情を感じるということ自体が欠けている状態だ。これでは『自分が恋愛感情を抱いている相手』から何かをされる事自体が難しくなってしまう。今だこの情報が本物なのかを疑っている時点で恋愛をするという事柄から逃げている可能性が高い自分に思う。これでは22歳までに恋愛をするなんて無理だ。

 しかし、魔力が低下するなんてあってはならない。今この国から注目されている状態の自分にミスがあってはならない。


「父上が私に話してきたという事は、この現象はほぼ確定事項なのですね」


「ああ、22歳という数字も、何千件という数字から出しているからね」


「そうですか………」


 何が何でも恋愛をしなければいけないらしい。これはまず女性と話すことから始めなければならない。

 話を終えたアルベルトはソファから腰を上げるとシリスを見ながら失礼しても?と言う。


「ああ、なぁアルベルト、たまには家に帰ってこないか、ネネも心配していた」


 ネネとは今の母親の名前だ。


「いえ、今の家は自分にとっては居心地が良い環境とはいいがたいのです。父上の事は尊敬しておりますが仕事上の上だけです。もうよいでしょうか」


「……私にとってアルベルトはいつでも可愛い子供なのだけど、分かったよ。もう行って構わない」


 寂しそうな顔をしたシリスに背を向けて扉を閉める。

 家に帰ると父上と、母上と、2人の子供たちが3人居る。自分がいると母上は辛そうな顔をするし子供たちは怖がって近寄って来ない。


「…………」


 自分がいないあの屋敷のほうがよほど暖かい環境だろう。

 アルベルトはそう思いながらまたこの白い空間を歩き、学園にある寮に戻るのだった。






お読みいただきありがとうございます。

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