入河ちゃん ~27~
入河ちゃんの話です!
「じゃあ、みんな気をつけて帰るんだぞ!!」
上機嫌になった先生はお迎えに来てくれた彼女さんと一緒に帰る。
「じゃあ、送ってくださいね。」
私は柊先輩に家まで送ってもらう約束をしていた。
松田先輩と城田先輩には2人にさせてもらいたいと言って・・・
「やっぱり大学ではやめちゃうんですね?」
「やめるよー。」
「むむむ、何か軽いな~。こっちは真剣なんですよ!!」
「俺だって真剣だよ・・・。今日の試合で分かったじゃん?
たぶん手術をしても同じようにどこかでかばってしまうんだと思うよ。」
「・・・。」
今日の試合を観ていて、その不安はあった。
手術をしても100%の柊先輩に戻るのかという不安が・・・
だけど・・・
「私は・・・柊先輩に憧れて陸上部入りました・・。
「そう言ってたね。」
「そうなんですよ!!
柊先輩のハードルの姿に一気に釘付けになったんです。」
「それで終わった時に
『私も先輩みたいに飛べるようになりますか?』
って聞いてきたんだよね。」
「・・・その言葉を覚えていてくれてホントに嬉しかったんです・・・。」
「そっか・・・。」
「だから、そんな人が辞めるって言うのに納得できないんです!」
「・・・。」
「だけど、柊先輩の言ってることは分かるんです。
不安もあるのも分かりますしね・・・。
もう一度同じようにハードルを飛べるのかって・・・。」
「・・・ありがとう。」
「べ、別に感謝されたいとかじゃないんですよ!
ただ、私が同じ状況下にあったら、どう思うかをしっかり考えたんですよ。
そしたら、私は柊先輩の選択もありだと思って・・・。」
「・・・どれが正解なんだろうね・・・。」
「・・・分かんないです・・・。」
「俺も同じだよ。」
「そうなんですか?
しっかりと考えて結論を出されてるじゃないですか?」
「そう?だけど、今回はインターハイ予選を考えての決断ってのがあったからね。
これからを考えると手術ってのもありなんだろうけどね。」
「手術は受けないんですよね?」
「うん・・・。運動はここまでだ。っと思ってるよ。」
「どうしてですか?」
「・・・それは・・・俺の昔の知り合いが俺には頭の才能があるって言ってくれたんだよ。」
「頭の・・・ですか?」
「そう。まあ、陸上の俺を良く知らなかったからかもしれないけど、
そいつとは勉強で接点があったから、頭がっていったのかもしれないけどね。」
「頭も・・・柊先輩は才能があると思います。」
「ははは、ありがとう。
そいつはさあ、俺にさ、才能がある人間はない人間のために使わなくちゃいけないんだって
言ってくれたんだ。」
「・・・。」
「自分で言うのもなんだけど、柄も悪い俺のことをね。
凡小な俺を天才と信じてくれたあいつのためにも・・・。
俺はあいつが夢見ていた・・・
研究者になろうと思うんだ。」
「・・・。」
「あいつの夢を俺が叶えてやるって思っててね。
だから、これからはしっかりと勉強して、
何の研究者になるか、決めていこうと思ってね。」
「・・・その人は何の研究者になるかは決めてないんですか?」
「あれこれ言ってたけどね・・・結局決める前に・・・。」
「・・・もしかして、その人って・・・。」
「そう・・・亡くなったんだ・・・。」
「そう・・・なんですか・・・。」
「うん。だから、ここからは・・・しっかりと自分の未来を決めて頑張っていこうと思う。」
「そうですか・・・。」
何だか、私には柊先輩がまぶしく見えてきた。
私はただ漠然と両親が歯科医師であるから、家が歯科医院だから
私は歯科医師になるって決めてたけど・・・。
「なんだか楽しそうですね。」
「そうだね。あいつの夢でもあるけど、選択するのは俺だからね。
楽しくないと言ったらうそになるかな。」
いつもの柊先輩の笑顔がそこにはあった。
きっと柊先輩は後悔していないんだろうな・・・
陸上を今日で引退したとしても・・・
もう次の目標をしっかりと見つけてるのだから・・・
「その夢に私は入っちゃ駄目ですか?」
「え?」
「私が柊先輩の傍で一緒に支えるってのは駄目ですか?」
「・・・。」
一瞬、柊先輩の顔が悩んだかと思ったら、
「それは歯科医院を継がないってことになるよ?それでもいいの?」
一緒に支えるっと言ってしまえば当然私も研究者としての道をとなってしまう・・・
それは・・・
「入河ちゃんは本当にイイ子だね。そして責任感が凄く強いね。」
「・・・・。」
「ありがとう、そう言ってくれて。だけど、それが答えだと思うよ。
俺は大学を出て、ここに戻って来る可能性は極端に少ない。
だから、一緒には入れないから、入河ちゃんの申し出は憂いしいけど・・・
応えることはできないよ。」
「・・・。」
私は・・・やっぱり自分の両親が大事だ・・・
それをマジマジと自覚してしまって、柊先輩の言葉に返すことは出来なかった。
その後も一瞬無言になってしまったのだが、
「そう言えば、夏の大会はリレーメンバーに入ったんだよね?」
「え?それは・・・。」
意地悪だ・・・
私は現在4,5番手であり、インターハイ予選では何とかリレーメンバーに入れたけど、
夏の大会ではまだ決まってないのだ。
「・・・知ってていってますね~?」
「入河ちゃんならきっとやってくれるはずだと知ってるよ。
はぁ~、俺は信じてるのにな・・・。」
わざとらしいほどのため息と、頭を下げる柊先輩・・・
「わ、分かりました!!頑張ります!頑張ってリレーメンバー入りしますよ!!」
「さっすがは入河ちゃん。」
くぅ~!さっきまでのショックを受けていたような顔が一転、笑みへと変わった。
分かってはいたけど・・・分かってはいたけど・・・なんだか腹が立つな~!!!
結局、無言にはならずに笑いながら、怒りなら帰宅できた。
「じゃあ、また月曜日に!」
「あ!柊先輩!」
「うん?」
「うちの母が・・・
歯科医師にならない?うちの婿にするわよ?って言ってましたよ。」
「な!?」
「やっと柊先輩を驚かせれましたね。」
「く・・・卑怯な・・・。」
「それも考えておいてくださいね~。それでは月曜日に!」
「おやすみ。」
「はい、おやすみなさい。」
柊先輩のバイバイをして私は自分の家の中に入っていくのであった。
この日はショックを受けたこともあったけど、
それ以上に自分の思いが両親に、そして歯科医師に注がれていることを理解した。
ただ、それが私にも正しいのかは分からなかった。
世襲というか、義務と思っているのか・・・それとも自分でその道を望んでいるのか・・・
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




