入河ちゃん ~24~
入河ちゃんの話です!
年が明けてのことだった。
柊先輩が膝を怪我したのであった。
部活中にのことであった。
“膝の靭帯損傷で、4週間の固定”
それが柊先輩に下された診断だった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫!・・・とは言い難いけど、大丈夫だよ。」
松葉杖をついて歩く柊先輩を見ていると
余りに痛々しくて、心が苦しくなってしまう。
「手術はしないんですか?」
「うん、まあ、しばらく固定して、その後リハビリするって手法もあるらしくてね。
そっちを俺は選択したんだよ。」
「そうなんですか・・私の出来ることがあったら遠慮なく言ってください!!」
「うん、その時はよろしくね。」
この頃から柊先輩は部活には顔を出すけど、
筋トレをして、病院へ行く生活が続いて、あまり接触がない2カ月となった。
やっと春休みになる頃に戻ってきた柊先輩は
みんなと一緒に走ることが出来るようになっていた!!
「柊先輩走れるんですね!!」
「まあ、まだまだ全力には程遠いけどね。」
久しぶりに走っている柊先輩を見るだけで、本当に嬉しくなってしまう
やっぱり柊先輩は走っていないとね!
練習が進んでいき、本格的な走り込みの練習になる頃にはいつも柊先輩は
ストレッチを再度して、トレーニングルームに行くようになっていた、
「あれ?あのボトルって・・。」
私は先ほどまで柊先輩がストレッチをしていたところにボトルが置いてあるのを見て、
全体練習が終わって、今から自主トレに変わるからと思って、そのボトルを届けることにしたのだ。
「柊先輩!忘れ物してますよ~。」
トレーニングルームに入ってすぐに柊先輩を見つけて声をかける。
「ああ、ごめん。ストレッチの所に忘れてた?」
「はい!なので、届けに来ました!ついでに私も筋トレしようと思って!」
柊先輩にお役に立てて光栄です!っと思いながら、
ふと横を見ると松田先輩がいた。
そういえば松田先輩も足首ひねったんだった。
「松田先輩も足首大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。もうすぐインターハイ予選だし、
無理しないようにしないといけないからね。」
「そうですよね!!これからが夏にかけてが本番ですよね!!しっかり治してください!」
そう言いながらもこれは柊先輩にも言わなければと思い、
「柊先輩もですよ!夏に向けて無理しないでくださいね!!」
ちゃんと釘を刺しておかないと柊先輩は一生懸命頑張っちゃう人だから
柊先輩を見つめていると、
「・・・俺、インターハイ予選にしか出ないつもりだよ。
それで負けたら、俺は引退するつもりだから。」
「「・・・え?」」
私も驚いたのだが、松田先輩も驚いたようで私達の声が合わさった。
「ど、どうしてですか!!!」
私は思わず柊先輩に詰め寄ってしまう。
そんな言葉初めて聞きましたよ!!!
「膝が悪いからね。」
「じゃあ、手術しましょうよ!!手術すれば治るんでしょう!!」
確か、柊先輩が手術をする方法もあるって言っていたのを覚えている。
そっちは完治するけど、今やっている保存療法では完治はしないと言っていたはず・・・
「・・・手術して、リハビリしてで大体半年くらいして
本格的に運動が出来るようになるって言われたんだ。
それだとインターハイ予選に間に合わないから、
保存療法って言われる膝周りの筋肉をつけるのを選択したんだよ。」
「・・・・。」
柊先輩の言葉に私の言葉が出てこなかった。
そんな状況では私は安易に手術何か進められるわけがない。
それに、だから柊先輩が保存療法を選んだのかがわかるし・・・
だけど・・・
だけど・・・
そんな理不尽なことってあるの?
あんなに綺麗に飛べる人が!
すっごく早くて強い人が!!
私は思わず泣いてしまっていた。
だけど、ここで泣いてはいけないと思って必死に我慢する。
だって、今一番つらいのは当然柊先輩なのだから・・・
「あと、ちょっとの間だけどよろしくね。」
その言葉を聞いて、我慢していた涙が本当に決壊しそうになる。
何か、何か言わないと!!!
「・・・だけど・・・だけど!!先輩ってリレーメンバーにも選ばれてるじゃないですか!!」
「あれは譲った。後輩たちも俺とタイムはほとんど変わらないし。」
「だけど、この間の記録会で10秒89で学校で一番だったじゃないですか!!」
柊先輩は去年の終りにも10秒台で走っていた。
他の先輩や同級生から見ても夢のようなタイムだと言っていた10秒台で走っているのだ!
完治していないって言ってるけど、本格的な練習ができないと言ってるのに10秒台を出せるのだ!!
そんな柊先輩が出ないってのはありえない!!
「俺はもうリレーメンバーは辞退するって先生には伝えてあるよ。」
「どうしてですか!!!」
「・・・入河ちゃんは、ハードルの練習一緒にしてるからわかってるだけど、
走ってる途中に膝が抜けてしまって、ガクンとスピードが落ちている俺を
何度かみたことあるだろう?」
それは・・・私は知っている・・・
本当に突然、踏ん張りがきかないように突然バランスを柊先輩は崩すことがある。
やっぱり・・・あれは・・・膝の故障のせいだったんだ・・・
「・・・はい・・・。」
「個人種目だと自分だけで済むけど、これがリレーみたいな団体競技だと
そんなことで失速していたらみんなに迷惑をかけてしまうだろう?」
「・・・・。」
先輩の言葉に何も言えなくなる。
だって、私はその光景を去年みているのだから。
久本先輩が柊先輩にバトンを渡す直前に転んでしまったこと。
そして、そのバトンがうまく渡らずに松本先輩のインターハイ予選が
そこで終了してしまったことを・・・
だからと言って、こんなに早い先輩が?
あんなにすごい先輩が引退しなくちゃいけないの?
悔しいし、とても悲しかった・・・
今まで我慢していた涙がついには我慢できなくなってしまった。
出したらダメ!
それは分かっているのに我慢ができないのである。
ふわり
その時私の頭にはタオルがかけられて、
そのタオルの端が私の顔を優しく包んでくれた。
そしてタオル越しではあるが、私の好きな掌が頭に乗ってゆっくりとなでてくれる。
「ありがとう。」
柊先輩の言葉を聞くだけで涙がとまらなくなってしまった。
しばらくずっと涙をぬぐってもぬぐっても涙が止まらない。
「・・・タオル、洗って返します。」
「別にいいよ。」
「だ、駄目ですよ!!化粧も付いたし、涙もついたから絶対洗って返します!!」
そういって、私はトレーニングルームから出ていった。
今まで当然としてあったものがなくなるかもしれないということを実感した。
いつまでも柊先輩が一緒にいるわけがないのだ。
そんなことすら私は気づいていなかった・・・
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




