福留先輩と大賀さんと城田さんと時々、私(松田さん) ~12~
積極的な大賀さん、腹黒い福留先輩、奥手な城田さんと松田さんの話です。
「松田さんは医療系なの?」
「うん。城田さんは農水系?」
「そうだよー。」
3年生になるとクラスは理系と文系で大きく2つに分けられて、
更に理系では理工系と農水系、医療系のクラスに分けられていく。
私は理系の医療系を選び、柊君は理系の理工系を選んでいた。
私達の学校は高校3年間で習う範囲はすでに2年の夏休みの頃にはすべて終了しており、
それ以降は受験勉強をしている。
3年生になると、数学は理系クラス全体の括りとなって、
先生が3名おり、好きな先生の所に行って勉強するというシステムになた。
それぞれの先生が学生に合わせた問題集を用意するところもあれば、授業をする先生など
それぞれの先生で特色があった。
そんな中、私はそれぞれのコースに合わせて過去問をまとめてくれる先生をえらんだのだが・・・
その先生の人気のないこと・・・
理系だけでも200人以上いるのに、
先生が主催する教室に集まったのは10名であった。
「お、松田さんじゃん。」
そんな中に柊君が居たのであった。
「う、うん、宜しくね。」
何とか返事を返すのだが・・・それだけでいっぱいいっぱいになってしまう自分がいた。
その後は先生がきて、やり方の説明をしてくれるのだが、
「そう言えば柊君って彼女と別れたのね。」
そんなことを唐突に言い出す先生。
みんなの視線が柊君に降り注がれる中、
「・・・よくご存知で。」
何と柊君がその発言を認めるのであった。
実は柊君には2年生の夏から彼女がいた。
一つ上の先輩で、とても可愛らしい人だったのだが・・・
「私と坂井さんは従姉妹なのよ。」
「はぁ~!!」
柊君からの驚きの声とともに先生の笑い声が響くのであった。
「柊君って彼女さんと別れたんだね。」
「そうだよ。」
いつも通りのテンションで私の質問に答えてくれる。
「え、えっと・・・ご愁傷様?」
「何か死んだ人みたいな言い方だね。」
笑っている柊君を久しぶりに見た気がした。
その後も何気ないことが普通に話せるようになっており、
全然普通じゃん・・・
今までの緊張や負い目が全然感じなくて話せていた自分に驚いてしまうのであった。
すると不思議と柊君を好きだという気持ちが嘘のように思い出してきたのであった。
それはホントに唐突で、自分でもびっくりする思いであった。
ここから私の歯車はまた勢いよく動き出していったのであった。
この時の状況で言えば、福留先輩は卒業をしていない。
大賀さんは大学生と付き合っていると噂があるのだが、柊君を今だに狙っていた。
城田さんは好きなのは分かるくらいに距離を詰めてはいるのだが、
だからと言ってあと一歩を踏み出すことはなかった。
もっとも問題なのは、新しく一つ下の後輩で、ハードルを選んだ入河ちゃんだ。
入河ちゃんは、柊君に彼女がいても猛アピールをしている。
更にはバスケ部のマネージャーやその他もろもろ・・・
みんな柊君に彼女がいても狙うという点に思いの強さを感じてしまうのが、
自分にはそんな行動はとれない・・・
どうしても一歩引いてしまう自分がいたのであった。
この頃、柊君は練習の途中で、毎日のように筋トレに行っていた。
柊君は冬の間に膝の靭帯を怪我していた。
そのために膝の周りを鍛える筋トレやそれに合わせて体全体を鍛える練習をしている。
私も練習中に捻挫をしてしまって、ハレが引くまで走ることを禁止されていたので
柊君と共にトレーニングルームに日々通う日々となっていた。
「柊君って、毎日筋トレしているね?」
トレーニングルームにいた柊君に私は声をかけた。
「うん。ちょっと膝周りの筋トレはしとかないといけないからね。」
そんな時だった。
「柊先輩!忘れ物してますよ~。」
そういって、入河ちゃんがトレーニングルームに来たのであった。
手には柊君のプロテインドリンクを持っていた。
「ああ、ごめん。ストレッチの所に忘れてた?」
「はい!なので、届けに来ました!ついでに私も筋トレしようと思って!」
弾けるような笑顔をする入河ちゃん。
・・・ああ、人に恋するというのはこういうことなんだろうな・・・
その目にはきっと柊君のことしか映っていない。
そんなことを思っていると、
「松田先輩も足首大丈夫ですか?」
その笑みが私にも向けられて、
「うん、大丈夫だよ。もうすぐインターハイ予選だし、
無理しないようにしないといけないからね。」
「そうですよね!!これからが夏にかけてが本番ですよね!!しっかり治してください!」
可愛らしくて、年下らしい愛らしいのある入河ちゃん。
「ありがとう。」
返事をしながら、微笑ましい感じで見ている。
「柊先輩もですよ!夏に向けて無理しないでくださいね!!」
了解っと答えながら、真剣な面持ちになって、
「・・・俺、インターハイ予選にしか出ないつもりだよ。
それで負けたら、俺は引退するつもりだから。」
「「・・・え?」」
思わず私と入河ちゃんの声が重なりあう。
そして・・・
「ど、どうしてですか!!!」
柊君にあわやあたるのでは?というくらいまでに駆け寄る入河ちゃん。
「膝が悪いからね。」
「じゃあ、手術しましょうよ!!手術すれば治るんでしょう!!」
「・・・手術して、リハビリしてで大体半年くらいして
本格的に運動が出来るようになるって言われたんだ。
それだとインターハイ予選に間に合わないから、
保存療法って言われる膝周りの筋肉をつけるのを選択したんだよ。」
「・・・・。」
涙目になっている入河ちゃん。
「あと、ちょっとの間だけどよろしくね。」
「・・・だけど・・・だけど!!先輩ってリレーメンバーにも選ばれてるじゃないですか!!」
「あれは譲った。後輩たちも俺とタイムはほとんど変わらないし。」
「だけど、この間の記録会で10秒89で学校で一番だったじゃないですか!!」
今、私達の学年には柊君の他に2人が10秒台で走る。
更に2年生に2人10秒台で走れる子がいる。
この春先で今、一番調子がいいのが柊君である。
当然、みんなの力が均衡しているのなら調子がいい選手を使うのが一番なのだが・・・
「それは俺はもう辞退するって先生には伝えてあるよ。」
「どうしてですか!!!」
「・・・入河ちゃんは、ハードルの練習一緒にしてるからわかってるだけど、
走ってる途中に膝が抜けてしまって、ガクンとスピードが落ちている俺を
何度かみたことあるだろう?」
「・・・はい・・・。」
「個人種目だと自分だけで済むけど、これがリレーみたいな団体競技だと
そんなことで失速していたらみんなに迷惑をかけてしまうだろう?」
「・・・・。」
グスンっと鼻を啜る入河ちゃんに柊君はタオルを入河ちゃんの顔に優しく当てていた。
そして、逆の手では優しく入河ちゃんの頭を撫でているのであった。
「ありがとう。」
柊君の言葉に頭を横に振る入河ちゃん。
しばらくその態勢のままで、タオルは入河ちゃんが柊君から受け取って
自分で涙をぬぐっていた。
「・・・タオル、洗って返します。」
「別にいいよ。」
「だ、駄目ですよ!!化粧も付いたし、涙もついたから絶対洗って返します!!」
そういって入河ちゃんはトレーニングルームから出ていくのであった。
「柊君って、ケガを治すかどうかの決断って自分で決めたの?」
「?そうだよ。」
不思議そうな顔を浮かべる柊君ではあったが、
「だって、重要なことだよ。親とかは・・・。」
「親は関係ないだろう?決断するのは俺だよ。
だって、人に言われて失敗したら後悔しかしないだろう?
自分でした結果ならどんな失敗をして後悔しても納得ができるからね。」
何気なくいう柊君の言葉が私の胸に突き刺さってくる。
自分で選択して行動するなら、納得できるか・・・。
私は・・・きっと、柊君に彼女がいるからといって、自分に枷をつけていた気がする。
もし、告白して駄目だったらと考えて、さらには柊君を狙る人達にも
常識がないって言っていた。確かに常識がないというは正しいことだと思うけど、
自分が好きになった人に近づいていく人を浅ましく思っていたのは事実だ。
そして、
うらやましくも思っていた。
そして、後悔をしていた。
自分もあんな風に気持ちを伝えれてたら、出せてたら・・・
さっきの入河ちゃんだって、気持ちがいいくらい好意を全面にだしていた。
柊君がそれを分かっているのかは微妙なところだけど・・・
私も一歩前に進んだ方がいいのだろうか?
きっとそれも後悔をすることになるかもしれないけど、
それでも今までしてきた後悔では何も生みださないし、
言わなかったことへの後悔しか生み出さない。
今までと違う、言ったことでの後悔を私は選ぶんだ!!
「柊君、私、柊君のことが好きだよ。」
「・・・は?」
自分が何を言っているのかがわからなかった。
後悔しないようにと決めた途端口から漏れたのである。
それは・・・柊君もあっけにとられるな・・・
「大丈夫!まずは柊君に伝えたいだけ。
柊君に私のことをこれから好きになってもらうつもりだから!!」
私はそう柊君に宣言をするのであった。
“まずは私の気持ちを知ってもらう。そして、私も女子だということを意識してもらう”
以前に教えてもらった福留先輩の言葉を反芻しながら、
自分に言い聞かせる。
当然柊君からはこの後お断りの言葉を貰ってしまうのだが、
「これから柊君に好きになってもらうから。」
再度柊君に宣言して、柊君が苦笑しているのであった。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




