原さん ~1~
次は原さんの話になります。
「柊君、本当に今までありがとう。柊君のおかげで生きてこれたよ。」
卒業式の日に私が柊君にそう告げると、
「俺は何にもしてないよ。原さんが頑張ったんじゃん!」
そういって、笑顔を私に向けてくれたのであった。
中学2年生の時に私は柊君のいる中学校に転入した。
中途半端な時期ではあったのだが、
この学区内では、一番優れた公立中学校だと聞いて、
両親がその中学校に通わせるために引っ越したのだ。
ホームページに書かれていた進学実績では、
確かに公立とは思えないような進学実績をだしていた。
学区内で一番賢い高校に他の学校では数人から数十人に対して、
この中学から1割以上の人数が進んでいたのである。
小学校の頃、私は学級委員を務めたりしてクラスの中心で、
まじめでテストの成績もよく、自分で言うのも可笑しいが優秀な生徒であった。
だけど中学校に入ると、自分が思っていた以上に成績は良くなかった。
入学した頃は中間に位置し、それがテストを受けていくたびに徐々に下がっていく。
テストの点が悪ければ当然成績も下がっていく。
うちの両親は私が悪いわけじゃないと言ってくれて、
家庭教師を付けてくれたりもしてくれたのだけど、成績が上がることはなかった。
そんな時である、
「学校が悪いんじゃないか?」
お父さんがそう言いだしたのである。
今通っている学校は学区内ではそんなに進学率がいい学校ではなかった。
ただ、それは私立とかではないのだから、当然と思っていたのだが、
「職場でも話題になったんだけど、ここの中学は本当に公立なのに進学率が高いんだぞ。」
そういって、ご飯を食べているにも関わらずパソコンを持ってきて、
私とお母さんに見せてくれた。それを見たお母さんは、
「同じ公立なのにこんなにも違うの!?」
「だろう!俺もこれを見た時には驚いたよ。」
二人で驚きの声を上げていたのであった。
「きっと先生の教え方がうまいんだよ。」
「そうよねきっと!」
その後はあっという間に決まっていき、私の意見は聞いてもらえずに
私は転校することになったのであった。
離れたくない友達と離れることになって、本当に悲しくて泣いてしまうのだが、
周りは私に悲しみにくれる時間すら与えてはくれない。
すぐに春休みが終わり、新しい中学校へと登校する。
「〇〇中学校から来た原です。宜しくお願いします。」
温かい拍手と共に迎え入れられて、さらには私と同じように
転校してきた生徒も他にもいたため心の中でホッとしながらクラスになじんでいった。
いや、馴染んでいったと思っていた・・・
元々いた中学校ではテニス部にいたため
ここの中学校でもテニス部に入ったのだが、
そこではかなり厳しい上下関係が待っており、更には厳しい“しきたり”が存在した。
・先輩に会った時には、どこででもしっかりと挨拶をする
・テニスコートのネット張りは1、2年生が3年生が来る前までにする
・3年生が練習して、1、2年生はコートの周りに立ってボール拾いをする
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本当に多数のしきたりがあるのだが、
そのしきたりが出来ていなかったりすると
同級生で連帯責任を取らされるのであった。
ここから私は弾かれていく。
最初は同じクラスにいたテニス部の西尾さんと共にテニス部の部室に行っていたのだが、
「先に行ってて。」
そう言われるようになった。
最初は何か用事でも?と思ていたのだが、
それが毎回続くことで嫌でも分かってくる。
ここで私が西尾さんからのグループから弾かれたことがわかると
クラスメイト達もその態度を徐々に変えてくるのであった。
「おはよう。」
教室に入って、クラスメイトに挨拶をしたら、返事は返ってこなくなったのだ。
その後も同じようなことが広がっていく。
ただ、それは女子の中だけであり、男子は挨拶をすれば返してくれてはいた。
しかし、ある男子の発言からそれも変わってしまうのであった。
先生に言われてクラスのノートを集めようとした時に、
「近寄んなよ、ブス!」
そう言われたのであった。
彼は西尾さんと一緒に居る男子であり、この男子はクラスだと影響力がある男子であった。
ショックで呆然としている私の目にニヤニヤしている西尾さんの顔が目に入ったのであった・・・
ここからは、教室にいれば、色々と言われだす。
「ブスがいると空気が悪いな!!」
「くせえな!!ブス!!」
私に向けた罵詈雑言が飛んでくるようになったのであった。
ドンドン嫌な気持ちになっていく・・・。
私の救いは通っていた塾である。
ここではクラスメイトもおらず、普通にみんなが話しかけてくれていた。
ただ、成績は変わらなかったのだが・・・
ある日の塾のことである。
「このテストが完全に出来るまでは帰れないからな。」
塾のその日の最終授業で数学のテストがあり、
すべての問題を解けた者から帰っていいようになった。
しかし、私には解くことが出来ずに、結局最後まで私は残っていた。
「ほんと・・・こんなのどうしたらいいんだろう・・・。」
途方に暮れていると急に教室の扉が開いた。
教室に入ってきたのは先生とその後ろから柊君が一緒に入ってきた。
「柊、こんな時間に来やがって・・。このテストを解け。」
そう言われて、柊君はテストを受け取り、近くのイスに座って問題を解きだしたのだが、
10分もするとすべての問題を解いたのだ。問題を解いたのでテストを持って、
教室をでようと立ち上がったところで、
「君、まだ解けないの?」
私を見てそう質問してきて、
「う、うん。難しくて・・・。」
そう言うと、そのまま私の傍まで来て、
「どこが?」
そう言って、私のテストを見ながら分からないとこを
解き方を一つ一つ教えてくれたのであった。
私の悩んでいたことがあっという間に解かれていき、
ただただ驚かされたのであった。
この事がきっかけで私は柊君と話すようになった。
(私は柊君のことを知っていたのだが、柊君は私のことを知らなかったみたいだけど・・・。)
そして、この出会いが私の運命を大きく変えていくのであった。
修正・追記はしていきますので。