大分さん ~2~
2話目です。
次が大分さんの最終話となります。
中学校へと上がると、人数が多くてクラス数も増えてしまい、
柊君と同じクラスになれなかった。
話せないな・・・
そんなことを思っていたら、部活動で話すきっかけが出来たのである。
この時には、私は上田ちゃんのグループとは違うグループにいて、
私が話しかけても柊君と私だけで話をすることが出来た。
部活は私がテニス部、柊君が陸上部に入部したのだが、
柊君は陸上でハードルを専門の種目にしており、
私達のテニスコートの傍にハードルを設置するため
話す機会が出来たのであった。
ハードルを設置して、ストレッチを行っている彼の傍で私達は素振りを行っていると、
「大分、大変そうだな。」
「う、うん。そっちも暑い中大変だね。」
そんな他愛もない会話だったけど、今までは上田ちゃんがいたため
私は話すことすらできなかったのから比べればすごい進歩だった。
だけど、こんなささやかな楽しい時間もそんなに長くは続かなかったのである。
1年生の夏休みを迎えて、夏休みの間も部活をしている柊君と会うことが出来て、
会えば話すようになっていたのだが、夏休みを終えると・・・
夏休み明けの全校集会で、部活動の活躍を報告するのだが、
陸上部の報告の時に、
「1年6組 柊!」
校長先生から名前を呼ばれて、
「はい!」
と言って立ち上がる柊君。
それまで暑い中で、「ささっと終われよ」と言っていた同級生たちが、
「市内で行われました〇〇大会 ハードルの部で第3位!」
「××県で行われた△△大会でハードルで第1位!」
「県大会においてハードルの部で第6位!」
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最初は「おおぉ!!」と感嘆の声があがって、
「凄いな」っと言った声を上げていたのだが、
表彰はどんどん続いていき、その数の多さに
徐々に感嘆の声すら上がらなくなってきたのである。
結局その発表が終わるまで10分近くかかってしまい、
発表が終わる頃には、ざわつきへとその声が変わっていったのであった。
「もしかしてすごくない?」
「うわ~、テレビに出たりするんじゃない?」
生徒達の間でざわめきから感嘆、そしてミーハーな意見へと
徐々に言葉の内容が変わっていったのであった。
その後、壇上に上がって、校長先生から表彰状の束を受け取って、
戻ってくる時には、片手では持てないようで両手で抱えて壇上を降りてきて、
「まじかよ・・・。」
その光景を見て、周りがまたざわついていった。
この日を境にまた学校の・・・特に女子生徒達の目が変わるのであった。
ある子は、
「柊って昔からすごかったよ。私、彼とは小学校からの仲でね・・・。」
またある子は、
「私、柊君のところの家族と昔から遊んでたんだよ。」
そんな声が色んなところから上がってくるようになった。
勝ち誇った顔をする人やその話を聞いて、目を輝かせる人、
一躍柊君は時の人になっていったのである。
私だって・・・小学校では同じクラスだし、それに部活動の時に柊君と話すもん!!
そう言いたかったけど、それを声に出すことは出来なかった・・・。
だけど、今まで通り部活の時に、少し柊君と話すことが出来て、
それだけで私の心は満たされていく・・・。
だけど・・・それも長くは続くことはなかった。
中学一年生の冬、その日の夕飯でお母さんから告げられる。
「今度の3月に引っ越すことになったわ。」
この言葉がどれほど私に重くのしかかったってきたか・・・
この言葉を聞いて、その後夕飯も満足に食べることは出来なかった。
転勤が多いいのは分かっていた。
今まで1年、2年ごとに引っ越しをしてきていたから。
今回が今まで一番長くて、すでに4年目をを迎えていた。
だから、もしかしたらという思いは心の中でどこかには浮かんでいたんだけど・・・。
確かに引っ越しは何度もしてきているけど、
柊君に会えなくなると思ったら・・・
どれだけ私の気持ちが重くなってしまうことか・・・
私は・・・ここから1週間ほど学校を休むことになった。
何とか、振り絞って学校に行くのだが、やはり頭が重いし、何より・・・
心が重くてどうしようもない。
そんな時に1人の友達が私に、
「バレンタインチョコを柊君に渡さない?」
そう言ってくれたのである。
その子は小学校4年生の時から実は同じクラスであり、
中学校になってから仲良くなった竹林ちゃんであった。
「・・・どうして柊君に?」
「だって・・・大分ちゃん、柊君が好きだよね?」
私のお父さんと竹林ちゃんのお父さんは同じ会社に勤めているため
どうやら竹林ちゃんにも私が転校することが伝わっていたようだった。
放課後、部活を休んで竹林ちゃんに色んな事を話し、泣いて、吐き出した。
1つ1つをちゃんと受け止めてくれてた竹林ちゃん。
どうして中学になってから仲良くなったんだろうか。
小学校でも同じクラスだったんだから、その時に仲良くなっていたら
また違う時間を過ごせていたかもしれないのに・・・。
そういえば・・・
「どうして私が柊君のこと好きって知ってたの?」
「そりゃ、友達だよ私達。しかも小学校からのね。」
私はいつも視線で柊君を追っていたらしい。
上田ちゃん達といた時に、柊君と上田ちゃんが話している時には
沈んでしまったりしているところを見られていたみたいだった。
やっぱり竹林ちゃんともっと早く仲良くなっていれば良かった・・・。
あと2カ月弱で柊君に逢えなくなるのなら、最後には私の思いを伝えよう。
そう決めて私は竹林ちゃんと一緒にチョコレートを作った。
この思いをしっかり伝えなきゃ・・・。
2月14日当日
結局作ったチョコレートを“直接”私は渡すことが出来なかった。
もし、残り少しの期間しかないかもしれないけど、
いつもみたいに柊君と話すことが出来なくなってしまうことを、
今の関係を壊してしまうことを私は恐れた・・・
いや・・・
自分の思いを伝える勇気がなかった・・・
それでも竹林ちゃんに促されて、そっと机の中にチョコを入れた。
名前も書くこともなく、ただ一言だけ、
“好き”
この言葉を添えて入れたのである。
あと一週間後で終業式を向かえる日に、
私は初めてクラスのみんなに転校になることを伝えた。
すると、次の休み時間になるとみんなが話しかけてくれる。
中には別のクラスの子も私の所に来てくれた。
そんな時であった、
「大分!」
そう言って、柊君が私のクラスに来たのである。
「転校するんだって?」
「あ、うん・・・。」
「そっか残念だな。」
「私の家、転勤多いんだ。」
「そう言えば大分、4年の時に来たもんな。
クラスまで連れていったことを覚えているよ。」
・・・あ、覚えていてくれたんだ・・・
当たり障りのない会話、意識して覚えてくれていたことではないと
分かるのにあまりのうれしさとこれからあえなくなるんだという思いで
涙が今にも溢れそうになっていた。
とういか、泣いてしまった・・・
何とか頑張っていたのに・・・
柊君と話せたことで歯止めがきかなくなった・・・
結局この後は、柊君は県選別での強化合宿に参加するらしくて
公欠になってしまい会うことなく終業式をを迎えて、学校で会うことはなかった。
ちゃんとさようならと伝えることが出来なかったのである。
けれど、次の日に届いたあるモノが私の心を満たしてくれた。
新聞と共に柊君から届いた手紙
その手紙には、
「頑張ってっちゃ!!」
シンプルな言葉しか書かれていなかったけど、私の気持ちを奮い立出せるには
十分な言葉が書かれていたのであった。
それと泣いている私と柊君との写真も入っていて、
こんな時くらい笑ってなきゃダメだよと自分に苦笑するのであった。




