大野さん ~3~
大野さん最終話です。
「ねえ、柊、・・・知ってたんだね?」
「・・心配してましたよ菅さんが。わざわざ一年の教室にまで来ましたから。」
「そっか・・・。それで柊、陸上部に入ってくれたんだ。」
柊は、水泳も結構有名人だし、書道も市長賞を取るくらいの有名人らしい。
正直なところ、水泳部か書道部にでも入った方がいいのでは?と思ていた。
周りの人間からも言われていたようだし、今だに水泳部の顧問は柊を誘っているくらいだ。
それなのに彼はなぜか陸上部に入ってくれた。それは・・・
「ああ、気にしないでくださいね。水泳部だと坊主にしなくちゃいけないので、
行かなかったんですから。それに野球部もテニス部も坊主じゃないですか。
それになぜかここの書道部は入部時に一回、坊主にする決まりがあるから
入らなかったんですよ。陸上部だけが坊主じゃなかったからです。」
「・・・ぷ。はははは・・・。」
柊の言葉に思わず笑いがこぼれる。
「だけど、結局坊主にしてるじゃんか!」
「・・・当初の予定とは違う形で坊主になりましたよ。
というか、職員室にバリカンが用意されているのに驚きでした。」
「噂は本当だったんだね~。茶髪やヤンキーを
その場で坊主にするためにバリカンがあるって・・・。」
「シャンプーとリンスまでありましたよ。」
「そんな情報いらないよー。はははっは!!」
最近憂鬱だった気分が一気に晴れていく。
何か、笑えてくるし・・・。
久しぶりに大声で笑ったよ。
笑い過ぎて涙が出てくる始末だ。
「ねえ、柊?」
「なんですか?」
「私と付き合ってよ。」
本当に唐突だが、私の口からそんな言葉が漏れ出したのだ。
言った自分もびっくりだけど、それを聞いた柊もびっくりしている。
更に驚くのは・・・
「え、いやです。」
柊が断ってきたじゃん!?
思わず腹パンを食らわせて柊を悶絶苦痛に追い込む。
「良く聞こえなかったな・・・何って言った?」
拳を握っている私をチラ見して、どうやら観念したのだろう。
「・・・はぁ~、いいですけど、俺よくわかんないですよ?」
「私もわかんないよー。二人で勉強だね。」
柊の背中をバンバン叩きながら、自分の内臓が異常に熱くなっていくの感じるのであった。
これで私は告白されても彼氏がいると言えるし、柊も言えるのだから
どちらもWin-WInの関係なだけだと言い聞かせて落ち着かせるのだが・・・。
私達の付き合いは・・・まあ、年頃らしい?付き合い方をしていた。
一緒に帰ったりとかする時もあれば、電話で話したり、メールをしたりする。
夏休みにはお祭りに行って、プールにもいった。
お互いの部屋を行き来したこともあったけど、
柊の部屋には、ほんとーに何もない部屋でびっくりした!
ただ、両親の部屋にある大量の漫画や小説なんかには驚いたけど・・・
冬は2人でスケートして、初詣にもいったね!
バレンタインデーのチョコは・・・無難な手作りだったけど喜んでくれて良かったよ。
柊からのお返しが、羊羹だったのには驚いたけどね!ふふふ・・・。
ただ、柊が私が和菓子の方が好きで、羊羹が一番好きだと言ったのを
覚えていてくれたことにはすごくうれしかったけどね!
・・・好きって言ったのたぶん小学生の時だったよね。よく覚えてたね・・・本当に・・・。
結局無事に一年を過ごすことが出来たのだが、
私達は一年後には別れることになった。
理由は簡単で、私の親が離婚して隣の市に引っ越しをすることになったからだ。
まだまだ青かった私達には絶望な距離だ・・・と思ってのことだった。
「今までお世話になりました!向こうに行っても陸上するつもりだから、
もしかしたら夏の大会で会えるかもしれないので、その時はヨロシクね~!」
私の挨拶に同級生、後輩の女の子が泣いてくれて、
慰めるのが「こりゃ~たいへんだ~。」だと思わずうなってしまったのだ。
一緒に写真撮ったり、寄せ書きくれたり、最後には花束を渡してくれたりした。
何かうれしくて、楽しくて、最後まで涙は出ずにバイバイが出来たんだ。
「柊、最後だけど駅まで送ってよ。」
「はい。」
学校を出て、2人だけで駅まで向かう。
駅でお母さんと待ち合わせをしている。
「これ持ってよ!気がきかないな~。」
そう言って、花束を押し付けて、私は寄せ書きを見ていく。
「笹ちゃん、“最初は私のことが怖かった”って書いてるんだけど!!」
笑いながらそれぞれの書いていることを読み上げて言ったり、
柊が書いてくれたところを読んで、
「何ってことを書いてるんだ!!」
と怒ってみたりしていた。
歩いて10分ほどの所にある駅なんってすぐにたどり着いた。
先にいたお母さんと合流して、柊から花束を受け取る。
お母さんは「こんな立派なモノをいただいて」っていう、大人な発言をするのだが、
柊からではなく、陸上部のみんなからだということを告げる。
「今までありがとうね。これで・・・。」
さようならと告げようとしたところで急に言葉が出てこなくなる。
あれ?普通に今の今まで過ごせて来ていたのに何で・・・。
「こ・・・こ・・・・これ・・・・。」
言葉が紡げずに、今度は涙がスッと流れたと思ったら、
とめどなく流れ出したのであった。
止めようとしても止めれない、話そうとしても言葉が全く出てこない。
何で?何で最後にこんなことになってんの!?
「・・・大野さん、覚えてますか?夏にこの駅の傍のスーパーの駐車場の祭りに
一緒に行った時のこと?」
柊が突然言い出したことに?と頭がなるのだが、とりあえずうなづく。
「あの時、大野先輩、浴衣を着てきてくらたけど、履きなれない草履のせいで
靴擦れして、俺がおんぶしようとして上手くいかなかったから、
お姫様抱っこしようとして俺のこと思いっきり殴ってくれましたよね。」
その時の光景を思い出して思わず顔が熱くなっていく。
「プールにいった帰りにもここまで帰ってきてから、鍵を落としたことに気づいて、
慌ててプールに電話して、もう一度プールに鍵を取りに行ったこともありましたよね。」
・・・私の凡ミスばかりを列挙していく柊にちょっとイラつきが湧いてきてしまう。
「後は加藤先輩が俺に絡んできた時に、俺には暴力をふるうな!って言ってたくせに
部活終わって加藤先輩に絡んでいったことも・・・。」
・・・あれは私の負の過去です。
目標を大和撫子にしてたはずなんだよね・・・・。
「付き合いたての時は、手をつなぐのもぎこちなくて、どう繋いでいいのか四苦八苦して・・・。」
ああ、そう言えばああでもない、こうでもないと試行錯誤して
結局はスマホで調べるハメになったんだ・・・
「ハグしようとして、制服のボタンが当たる!!って俺に文句を言って、
当たらないハグの仕方を模索して・・・。」
そうそう!ハグした時の首の位置をうまくすることで当たらないことを見つけた時は
“世紀に大発見!”って叫んでしまったな・・・
「2人で歩くとき、男の俺よりも早く歩く大野先輩・・・。」
・・・そんなこともあったな。話しにくいな~って思って、
思わず柊に「もっと早く歩いてよ!」って怒ったな・・・
「歩道を歩くときに先輩を車道側に歩かせてしまって、「気をきかせろ!!」って
怒ってましたよね・・・。」
そうそう。あれはその前に私の友達にその光景を見られて、指摘されて気づいたんだった。
何もかもが初めてで、ちゃんとできなかった・・・
いや、私達らしくいけたのかもしれないな・・・。
「ふふふ・・・。」
思いにふけっているとすっかり忘れていたが、お母さんが隣にいたのだ!
この時、絶対私は顔を真っ赤にしていただろうな・・・。
言葉にならない言葉をお母さんに投げかけていた気がする。
・・・あ・・・
もう涙も出てないし、思ったことをちゃんと話せてる・・・
ふと柊を見ると笑顔を私に向けている。
・・・こいつは・・・本当にな~・・・。
「私は柊にとっていい彼女だったかな?」
「それは・・・どうでしょうね?」
「そこは嘘でもいい彼女でした!!じゃないの!?」
「はははは・・・。」
「笑ってごまかすな!!」
思わず柊を殴ってしまって、少しじゃれ合っていると、
「そろそろ・・・・時間よ・・・。」
お母さんから時間を告げられて我に戻る。そんな時に、
「いい彼女でしたよ。」
・・・反則だよ・・・笑顔で・・・そんなことを急に告げる何って・・・
また涙があふれてくる。
「柊も・・・いい・・・彼氏・・・だったよ・・・。」
精一杯の言葉を告げて、
「また・・・ね・・・。」
最後の言葉を告げて、私はお母さんに手を引かれて駅へと向かうのだった。
「いい子だったね、柊君。」
「・・・うん・・・。」
「貴方がそんなに柊君のことを好きだ何って知らなかったわ・・・。」
・・・え?好き?
私はここで初めて、
“私って柊のことを好きだったんだ”
そう思えたのだ。
好きでもないのに付き合うな!!って言われそうだけど、
私が付き合いだした時の柊は可愛い後輩で、弟であり、
決してそんな対象ではなかったと思う。
いや・・・そう思い込んでいただけかもしれないな・・・
そっか・・・私・・・柊のことが好きだったんだな・・・
私の初恋は柊だったんだ・・・
悲しみはいっぱいあるけれど、それでも満たされるものもあった。
柊、ありがとう・・・
私と一緒に居てくれて・・・
柊、ありがとう・・・
私に好きという気持ちを教えてくれて・・・
気づいた点は修正・追加していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




