大分さん ~1~
第三者からの見た柊という人物についてのお話
私の記憶にある柊君は、声をかけることすらできなかった泣いている柊君だ。
あの夏に人目もはばからずに泣いていた。
小学校4年生にあがる時、私は柊君のいる小学校へと転校した。
不安いっぱいに駆られる中、職員室で担任の山先生の横にいると、
1人の男の子がこちらに向かって歩いてきたのだ。
「柊、この子、今日から4年1組に来る大分だ。教室まで案内してくれ。」
柊と呼ばれた男の子に向かって言うと、
男の子は算数のプリントを先生に渡しながら、
「分かりました。」
そう端的に答えた。
そして、
「頼むぞ!それと今日の宿題はこれだ。」
そういって、別の算数のプリントを柊君に渡していたのであった。
柊君は嫌そうな顔をしながら、そのプリントを貰いながら
私に顔を向けて、
「こっち。」
私にそう告げて、歩き出したのであった。
私はその後ろを送れないようについていきながら、
「この学校って人数どのくらいいるの?」
「大きいよねー!」
柊君に話かけるのだが、返ってくる答えは私との会話を盛り上げようという感じはなく、
「1300人ぐらい。」
「この辺りの小学校はだいたい同じくらい。」
事務的に答えてくれるだけだった。
その後はやっぱり無言になってしまって、2人で階段をのぼって、教室へと向かう。
「転校生が来たよ。」
教室に入って、柊君が全員に聞こえるように言ったので私の傍に色んな子が集まってきた。
そして、みんなから、
「どこから来たの?」
「どこに住んでるの?」
ものすごい興味を持ってもらい、更には歓迎を受けているのが分かる。
そう思うとどこかで慌てながらもホッとした気分になった。
柊君には悪いけど、どこかで冷たく感じた柊君の態度に
もしかしたら私はここの学校では受け入れられないのかも?
そう不安が頭をよぎっていたからである。
このクラスは本当に明るく、何をやってもはしゃいでる感じを覚えるクラスだった。
私がここに来る前の学校は一学年でも10名ほどしかいない学校なのに対して、
この学校では一クラスで40名、学年で210ほどの生徒がいるのである。
授業中も騒がしくて、よく隣のクラスの先生が注意しに来たりもするのだが、
学年主任もやっている先生であったためか、すでに年齢も高年齢でベテランである先生には
あまり注意らしい注意もできずに、ブツブツと言いながら
他のクラスの先生が何度も帰っていくのを見た。
私は少し(?)騒がしいクラスで無事に馴染むことが出来た。
この頃の私は同じクラスであった柊君のことを最初に案内してくれたり、
同じクラスだったことしか思いつかない関係であった。
それが少しずつ変わってきたのは5年生にあがる時である。
5年生にあがるとクラス替えがあり、私は5年1組に柊君は5年3組になった。
その日は学校が終わったら、お母さんと一緒に近くのデパートに買い物にいく約束をしていた。
「ただいま!じゃあ、買い物にいこうよ!」
私は学校を終えると自分の住んでいる団地へと急いで帰って、
すぐにお母さんに催促をする。
今日はあのデパートで新しい鞄を買ってもらって、上田ちゃんの誕生日プレゼントを
買わなくちゃいけない、お母さんを急かしながら、玄関を出ようとして扉を開けた時である、
「うわぁ!?」
私の玄関の先に1人の男の子がいた。
その子が誰かすぐに分かる。
「柊君??」
私が彼の名前を挙げたのを聞いていたお母さんが、
「お友達?」
そう聞いてきたのだが、
「クラスの子。」
そう答えた時に、柊君が、
「これ、今日の夕刊です。」
そういって、私に新聞を渡してきたのであった。
「あら?もしかして新聞配達しているの?」
お母さんの質問に、
「はい、家が新聞屋で家の手伝いで新聞配達をしているんです。」
そういって、お母さんに手渡して、すぐに頭を下げて、上の階へと走って柊君が登っていったのであった。
この日は、買い物に行ったデパートでも夕食時にも柊君のことが話題となり、
「えらいわよね。」
そう感嘆するお母さんに、お父さんが、
「そう言えば朝刊もその子が配ってるぞ。」
どうやらお父さんは朝早く仕事で家を出る時に、一度男の子が新聞配達をしているところを見ており、
今日の話からして、柊君だったんじゃないかと言い出した。
ますます我が家での柊君の評価は上がっていった。
この時から私は柊君のことを意識するようになった。
更にもう一つのことがあって、私はハッキリと柊君に対して
自分の気持ちに気づくことになる・・・
5年生になって、今までとは違うグループと仲良くった。
そのグループの中のリーダー格であった上田ちゃんからある日、
「大分ちゃんって、柊君と話したことある?」
そう聞かれたので、
「うん、4年生の時に少し話したことあるけど。」
「ならさ・・・紹介してくれない?」
そう言われたのだ。
その頃になると柊君にはいろいろと注目が集まるようになっていた。
1つは学校対抗で行われるバスケットボール大会の選手として選ばれたことだ。
選手を選びのために始まったクラス対抗のバスケットボール大会で
学年で一番身長が高かった柊君はゴール下でボールを貰えば、必ず決めていたし、
リバウンドもすべて取っていた。また運動神経自体もかなり優れていたため大活躍をしたのだ。
その頃からだろう。
柊君が、カッコいいねと言われだしたのである。
私の中でも、・・・カッコいいな・・・そう思うようになっていた。
そんな時、上田ちゃんからの紹介のお願いであった。私は、
「う、うん。」
そう返事はするものの、どこか心の中でもやっとした気持ちになっていた。
「じゃあ、3組に行こう!」
そういって、上田ちゃんに思いっきり引っ張られて3組に行って、
廊下から柊君を探すのだが、この頃になると柊君にちょっかいを掛けようとすると
同じクラスの女の子が妨害をするようになっていて、
私達が廊下の窓から見ようとすると廊下の窓を、女の子達が閉めちゃうのであった。
更にクラスの入ろうとするものなら、
「ちょっと他所のクラスの子が教室に入らないでよね。」
そう言われるし、クラス中の女の子の視線が向けられるのであった。
上田ちゃんでもさすがにそんな中には入ることは出来なくて、
「何によ!もー!」
そう言って憤ていたのだが、どこかで私は良かったと安心していたのである。
自分達のクラスに戻った時に、同じグループの赤羽ちゃんにも上田ちゃんがそのことを話すと、
「あそこのクラス、柊君だけじゃなくて、柳田君とかいるからだよ。」
「何なのよね。別に自分達の物でもないのにね。」
二人で言っているのだが、逆にうちのクラスにもカッコイイと言われる男の子がいて、
その男の子を見に来る女の子もいるのだけど、その子達には同じような行動をとる上田ちゃん。
だけど、そのことは言えない。
彼女にこのクラスにいる限り逆らっちゃいけないから・・・。
結局は私の紹介などはなくて、朝の登校の時に上田ちゃんが自分から話かけたらしくて
いつの間にか柊君と話すようになった上田ちゃん。
休み時間や授業が始まるまでの時間にはいつも教室の入り口付近に
グループで集まって話しをするようになり、柊君が通るたびに話しかけるようになった。
話をして、笑っている柊君を見るたびに私の中に黒い影を落としていく、
だけど私は柊君と話すことは出来なかった・・・。
結局、小学校の時には自分の思いを告げることなく、卒業を迎えるのであった。
初投稿でこれから勉強していきます。
ので、修正はどんどんしていきます!