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ギフトボックス  作者: つまらなくて御免
1/3

失われたログアウト機能~

-2100年現在

科学発展が顕著に衰退を見せる中、

VR技術の最高峰に君臨する某会社が新作ゲーム【ギフトボックス】を販売した。


ゲーム製作の鬼才と言われた薪洋介が手がけた渾身の一作とあって、

瞬く間に【ギフトボックス】の知名度は上昇。


東京はもちろん、どこぞと知れた田舎町のゲーム販売店でも売り切れの始末。


ニュースでもたちまち取り上げられ、日本人で知らぬ人は居ないと言われるまでに【ギフトボックス】は有名になった。


かく言う私は、このゲーム製作会社の社員であったが故に、

【ギフトボックス】が販売される2日前から、このVRゲームを所持していた。


プレイした感想を率直に書くのであれば、素晴らしいの一言に尽きた。

現実と区別がつかない程の五感機能の完成度に加え、

【ギフトボックス】のゲーム醍醐味である第六感の導入。

普段の自分より優れた自分がVRを通じて再現できるのである。

第六感と書いたが、ここでいう第六感は小説や漫画などでよく出る【異能】のことを指す。


ログイン時に一つランダムに【異能】が渡され、その【異能】を活用して進行をしていくゲーム性だ。

【異能】は一つのアカウントに付き一つだけ与えられ、現在確認されている【異能】だけで、30000種類ほど存在する。

しかも、他者と被ることが無い。

故に、現在確認されている【異能】とは言い換えれば、もう得ることの出来ない【異能】である。

【異能】にはさまざまな種類が有り、中にはLvを持つ【異能】も存在する。


俺の【異能】が正にそれだ。

【異能】取得当初はゴミ異能を引き当てたと悲願したが、

どうやらLv持ちの【異能】は極めればなかなかに最強ということで、

俺は甘んじてその【異能】を受け入れた。


俺の【異能】は【食料召還Lv1】である。


ゲーム内で【異能】を使ったところ、なんのデメリットもなく食料が目の前に現れた。

五感に優れたゲームであるから、味、匂い、見た目など全てを感じ取ることが出来るし腹も膨れる。


現実ではデブな俺だが、ゲーム内で旨い物をただで食えて、満腹感も残るものだから

現実世界での食を減らせばダイエットに最高なのではと考えていたりする。


しかも、召還する食材にはいわゆる「バフ効果」があり、数分間ゲーム内ステータスが上がる。


今召還できる食材は「カレーライス」「からあげ定食」のみだが、それぞれの「バフ効果」はなかなか強い。


カレーライス:攻撃力が50上昇。

からあげ定食:防御力が50上昇。


これが強いのかどうかは俺の初期ステータスを見れば分かるだろう。


名前 :坂上 龍太

攻撃力:10

防御力:10

魔法力:10

魔耐性:10

素早さ:10


試しにカレーライスを食べた状態で、ゲーム内に出てくる初期の敵を素手で殴ってみたところ、

一撃で屠ることが出来た。


ちなみにその直後、からあげ定食を食べたら「バフ効果」の重ねがけに成功した。

ただ、メイン料理が2つなので、なかなか腹に来た。

食える量の範囲であればいくらでも強くなれそうだが、大分しんどいので必要最低限で食は済ませている。

なお、食べ残しをした場合は「バフ効果」を得ることが出来ないようだった。


ちなみにゲーム内での初期リスポーン位置は、

殺風景な椅子、テーブル、ベット、照明があるだけの四角い部屋だった。


部屋から出ると市街地で、オンラインプレイヤーがウヨウヨという感じだ。

ちなみに市街地から外れると敵がいる。

スライムだのゴブリンだのまぁ色々だ。


このゲームでのログアウトはベットで横になることで可能となる。

俺はゲームにのめり込み過ぎないようにと、

視界右端に表示されている時刻が01:00になったらベットに横になると決めていたので、

その時間の5分ほど前にログアウトした。


その日は夜ご飯を食べていなかったがゲーム内で食べた料理によって、

腹は満たされていたので、何も食べずに現実の自分の部屋で睡眠に付いた。


翌日、いつものように会社に向かうと同僚が目の下に隅を作って出社していた。

話を聞くに【ギフトボックス】を徹夜でやったようだった。


休まないだけマシか、とデスクに向かう。


朝の日課として、最初の15分はニュースに目を向けるようにしている。

その日ピックアップされていたニュースで【ギフトボックス】に関する物が合ったので無論開いた。


どうやら【ギフトボックス】の攻略サイトが異例のレビュー数を稼いでいて、

広告効果などが期待できるなど、取り上げられている。


「攻略サイトねぇ・・」


ひとり誰にも聞かれない音量でつぶやいた後、

俺は検索エンジンの枠に「ギフトボックス 攻略サイト」と打ち込んだ。


そのサイトはいくつかのテーマに分けられ、

有志による情報提供の集いだということが分かった。


それぞれが皆自分の【異能】について分かっていることを書いて投稿したり、

交流広場という場所では、今度一緒にプレイしませんか?などというフレンド募集をしてたりする。


そんな中、一際盛り上がっているスレがあったので覗いてみた。


スレ名:今日俺は【ギフトボックス】内で変革を起こします。(562コメント)


なるほど。どうやら、どこぞの中二病の奴が騒ぎを立てて物議をかもし出しているらしい。


さらっと流し読みしたが、要約すると

俺の【異能】で全ての【ギフトボックス】プレイヤーを不幸にするという話だった。


ふとデスクから目を離し時計を見ると、30分が経過していた。

予定より15分オーバーで記事を眺めていたことになる。

俺は気を引き締めてその日の業務に当たった。


就業間近になって、会社の後輩に「仕事のことで相談があるので飲みに行きませんか」と誘われた。


今日は即帰宅して【ギフトボックス】をプレイする予定だったが、

後輩の頼みを無碍にするのは気が引けるので、その日は飲みに行くことにした。


後輩の悩みは先輩の俺からすると大したことではなく、

「なんだ、その程度か」と思うものだったが、

当事者というのは得てして、こと重く見る傾向にあるようだ。

その日2時間程度飲みに付き合い、後輩を激励してやった。

飲み会が終わった頃にはすっかり元気になったようで、

「ありがとうございました。」と笑顔で分かれた。

俺も先輩らしいことが出来たと心なしか嬉しかった。


自宅へ帰ると夜10時。

【ギフトボックス】をプレイしようと考えていたが、

飲み会で多少体力を使った俺は、今日はいいかと眠りに付いた。


翌日、俺は後輩の誘いに助けられたと気づくことになるのだが、

その時の俺には知る由も無かった。


翌日出社すると、会社上層部のメンバーが騒々しく慌てふためいていた。

どうやら【ギフトボックス】に関することらしい。


会議室のガラス越しにチラと除くと、会議用ホワイトボードにはこう書いてあった。


-----------ログアウト機能が失われた。


俺にはそれが気になって仕方なかった。

同僚が出社していないのも、これが理由だと分かった。


会社の上層部にはある程度発言権があった俺は、

会議終了後、会議に出席していた春川さくらに事情を聴いた。


可愛い名前であるが、40過ぎのババアであることは伝えておく。


ことの顛末はこうだ。

【異能】の能力の振り分けはAIによる自動作成で行われている。

そのAIが作成した【異能】に決定的なバグを招く要素が合ったようだ。


今回作成された【異能】とは、【プログラマー】である。

能力詳細は調査中とのことだが、現時点で分かっているだけで随分恐ろしい能力であることが分かった。


【ギフトボックス】のプログラムそのものを書き換えるという【異能】らしい。

そして、その【異能】を使用したユーザが、ログアウト機能を閉鎖したのである。

そしてこともあろうか、そのユーザは全ユーザのプログラムの書き換え権限を消滅させたようで、

社内の人間でもプログラムの修正が不可能と言うことらしい。


先日ログインしていたユーザは軒並み【ギフトボックス】に閉じ込められているらしい。


自力ではログアウトが出来ない上、

他者によって強引にVRを外されると五感と密接に関わりある電波を送受信している精密な機械だけに

脳に深刻なダメージを負わせる可能性があるとのことだった。


俺はここまで話を聞いて、先日後輩の飲み会に行って良かったと安堵したのは言うまでも無い。


ひとまず自席に戻り、【ギフトボックス】について調べてみると、

さまざまなサイトから、例のスレがチラホラ拝見出来た。



スレ名:今日俺は【ギフトボックス】内で変革を起こします。(2602コメント)


相変らず益体の無いことが陳列され、ネット界の住人は意味の無い暴言や、中傷を吐き散らしている。

そういうしょうも無いところは読み飛ばし、画面をスクロールさせていく。


そんな折、スレを立てた本人と一致するIDで、

【クリア条件】と記載された文があった。


id_GiftProgramer 23:00:00投稿

【クリア条件】

俺の設定した100体のボスの討伐。

【クリア報酬】

全ユーザのログアウト権利

【注意事項】

プログラマーの【異能】にて、ゲーム内死亡者は再復活を不可能とし、

永遠と誰かがボス討伐を成功させるまで、黒画面の表示待機になるので注意。

【あとがき】

自分も含め今後一切のプログラム書き換えが行えないよう、

プログラム書き換え権限を全て剥奪する。

私はこのゲームにおいて公平に遵守する。


ゲーム開始は一時間後。

これ以降はログインはいくらでも可能だが、

ログアウトは上記のクリア報酬以外にありはしない。

あるいは脳の障害覚悟で、第三者にVRを外して貰え。

以上。


この情報を会社の上層部は知っているのか?

俺は再び、さくらさんの元に脚を運びことの説明を始めた。


午後一番で、また社内上層部による会議が行われた。

先ほどと違う点で言えば、俺も会議の参加者として名前が挙がっていることである。


会議の議題は下記三点である。

・現在ログアウトが出来ないユーザへの賠償方法、その親族への説明

・被害者拡大防止のための世間向けへのログインをしないように呼びかける方法

・ログアウトが出来るようにするためにどうするか


上記二つに関しては俺はわからん。

上で頭を抱えているところに、経営素人の俺が意見したところで、意味を成さないだろう。

TVと協力して情報拡散くらいしか検討が付かない。

一番下に関して言えば、答えは明白だった。

誰かが【ギフトボックス】をクリアすればいい。


------坂上君。

------君は【ギフトボックス】をプレイしていたわね。

------しかも【異能】がLv持ちだとか。

------このゲームクリアしてくれない?


俺は耳を疑った。

こんな状況のゲームにログインしろということか?冗談ではない。


開口一番否定した。

「いや、いや、さすがにそれは・・・」


さくらさんは尚も続ける。

「これはあなたにしか出来ないことだわ。」

「給料は今の三倍よ。」

「ログインしてからログアウトまでの間、現実の身の周りは会社で全面的にバックアップするわ。」

「期限は5年スパンで見ている。1年でクリアできたとしても、5年間分の給与を支払うわ。」


・・・これは参った。

好条件を突きつければ俺が折れるとでも思っているのか。

確かに独り身で、【ギフトボックス】の制作会社に勤めていて、【異能】がLv持ち。

会社から見れば都合がいいことだろう。


だが、俺は受ける気なぞ微塵も無かった。

これを断ることが原因で会社の居場所がなくなるのであれば、こんな会社辞めてやる。

ひとの人生をなんだと思っているのか。


確かに、ゲーム内での死後がやり直しの利くものであれば引き受けたかもしれないが、


【注意事項】

プログラマーの【異能】にて、ゲーム内死亡者は再復活を不可能とし、

永遠と誰かがボス討伐を成功させるまで、黒画面の表示待機になるので注意。


と、あるように真っ暗な画面で数年も過ごすなんて恐怖でしかない。

下手したら死んだほうがマシだ。


あいにく【ギフトボックス】以外にも面白いゲームは幾多と有る。


だから俺ははっきりと断った。

「不可能です。私はやりません。」と。

会議室の出口へ向かう。


さくらさんが、「残念ね、あまり手荒な真似はしたくなかったけど。」と言った直後。

俺の世界は暗転した。


目覚めるとそこは、【ギフトボックス】の最初のリスポーン位置である見慣れた部屋だった。


「・・・・ふざっけんなよ!!!クソが!!!!」


俺は会社に犠牲者として、祭り上げられたのである。

かくして俺も、【ギフトボックス】に幽閉された。


とりあえず、からあげ定食を食べ、ベットで眠りに付いた。


無論、ログアウトは出来なかった・・・。






































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