世界は残酷
人が見当たらない。先程まで自分が暴れたことを考えれば当たり前かもしれない。しかし、妙に静かというか、人がいない。
「アミルが一緒に避難してくれたのか? それなら有難いんだが……」
走り、そして息を荒らげながらユウキはそんなことを言う。だが心の中は不安感で潰されそうだ。
アミルは平気か。アミルはケガをしていないか。アミルはしっかり避難させることが出来たのか。そんなことで頭も心もいっぱいなのだ。
「くそ……何処に行ったんだ、アミル……!」
しかし焦っていても何も変わらない。体力を取り戻すために一旦立ち止まり息を整える。すると、
「……騒ぎ声?」
人々の騒ぎ声。聞こえてくるのは近くの森の中。
「ま、さか」
何かを察したユウキは息が整え終わる前にも関わらず走り出す。心の中にあった不安感に恐怖感が加わる。
──何で俺はアイツを一人にした!? 明らかにヤバイ! きっとアイツは……! アイツらは……!
「アミルッ!!」
森を抜けたその先には解放したはずの奴隷とアミルが縄で縛られ吊らされている光景が目に映る。逃げたアミルたちを村人全員で捕まえ今の状態になっているのだろう。
「お、おい……。コイツだ! コイツがあの二人を倒した冒険者だ!」
ユウキの存在に気づいた男が叫ぶ。その叫び声を聞いた村人たちもユウキを鋭く睨む。ユウキの体はその光景を見たことにより脱力してしまう。膝から崩れ落ち、座り込んでしまう。
「アンタら……こんな所で何を」
「黙れぇ!!」
さっきの男が再び叫ぶ。
「お前に何が分かる! 平和だったのに! お前がココに来て! あの二人を倒さなければ! 俺たちは奴隷を売り買いして! みんな平和だったんだ!」
「……何が平和だよ」
小さな覇気のない声。立とうとしたが。
「そこから動くな! 動いたら、コイツらをまとめて殺すぞ!」
完全な脅し。そして人質。何度こんなことを考えなければならないのだろうか。
──ここは異世界。ここに来た、最初の熊兎戦から分かりきっていた。最初はこの世界がおかしい。そう思っていたが、人々がおかしいのだ。"善悪"がハッキリと分かりきった世界。善悪が分かりきっているからこそ、"善"は悪の存在も知らず、"悪"は"善"を踏みにじむ。元の世界もよく似ている。
動きはしないが無視しているような態度を見た男は嫌気がさしたのかアミルの方へ歩み寄る。強引に髪を握り顔を近づける。
「なあ冒険者! お前の大切なもの、コイツなんだろ! よく見ておけ、お前がココに来たのが悪いんだからな!」
そう叫んだ瞬間にアミルの腹を蹴り、顔を殴り。それを繰り返す。その光景はカクセイの合図だった。
「死んでも文句は言うんじゃねぇぞ!!!!」
座ったままだったというのに凄まじい瞬発力。男を殴るのではなく、肩を喰らった。
「あああああ!!」
絶叫がこだまする。その様子を瞬時に理解した村人がユウキよりかなり遠くにいる奴隷を殺そうと剣を抜く。だが
「……!!? 『障壁』!?」
剣は弾き折られ体制を崩す。ユウキは自ら創り出したバリアに張り付き走る。その勢いを利用してまた三人の村人を喰らう。
「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛『雷帝』」
手を地面に向け強力な電撃を送る。地面を立っている者は電撃による膨大なダメージをくらいそのまま倒れ込む。ユウキは振り返り、ゆっくりと歩く。
「クズは……始末しないと」
意識を取り戻してはいるがその気持ちは揺るがない。アミルを傷つける者は許さない。
「く、来るな!! コイツを殺すぞ! いいのか! それ以上近づいたら」
「殺せないんだろ。お前の考えを代弁すると、だ。俺を脅し、強制戦闘不能させた後に俺を殺し、ココにいるヤツらを全員奴隷にして自分だけ儲ける。違うか?」
男は口を開けたまま閉じずにいる。
「図星、だな」
「来るな!! あ、アレ? 能力が使えない! どういうことだ!」
「ああ、そうか。やはり俺の能力は『他者を喰らうことによって他者の能力を自分のモノにする』能力、か」
静かにそう呟く。だがその呟きを聞き逃さなかった男は叫ぶ。
「そんなの! ただのチートじゃねえかよ! 有り得てたまるか!」
「そうだな……。それじゃあ大人しく気絶してくれ。『電磁波』」
手のひらを男の前に出し電撃を浴びせる。直撃した男はそのまま目を回してバタりと倒れる。目の色を元に戻した彼の服は血で真っ赤だ。
「終わったよ、アミル。何もかも」