ヒロイン登場!
熊兎(一部)を完食したユウキはみんなの逃げていった場所に追いかけるように行こうとする。が
「……ん? 泣き声?」
女の子らしき人が泣く声。何故ここで泣き声が聞こえるのかという疑問が浮かんだユウキは声のする方へ歩く。
「こっちから聞こえた気がするんだけど……いたっ」
目に映るのは長い銀色の髪をした少女が小さくうずくまりすすり泣く様子。服装はというと奴隷が着ていそうなボロい灰色の服に両足が鎖で繋がっている。見る限りだが鎖はだるんとしており、飼い犬に首輪でもするような意味を成している。
「ねぇ、君」
異常にも少女の体は反応する。声をかけてきた人物の顔を確認するために振り返る。赤い瞳にはユウキが映っており直ぐに距離をとる。
「い、や……! 近づか、ないで……!」
少女に距離をとられ、しかも涙目で拒否された少年の心はボロボロだ。少女を安心させるためにも笑顔が大事だと思ったユウキは頬骨を上げる。
「俺は怪しくないぞ? 名前は雨宮ユウキ。信じられないかもだけど転生者ってやつだ。君の名前、教えてくれるかい?」
優しく言ったつもりだがやはり警戒は解けない。これじゃあ一向に話が進まない。沈黙が続く中、乱暴に頭を掻いたユウキ。
「俺はお前の敵じゃない! 今は味方でもないけど危害は加えない! 絶対に、だ」
何の偽りもない。本心。敵じゃなければ味方でもない。しかし危害を加えたくもないし加える必要がない。その言葉を聞いてやっと口を開く。
「本当……に?」
「ああ、嘘ついたら針山に身投げでもなんでもする」
半ば本気でいう言葉は少女をひどく安心させる。いい意味の方で。
「……『アミル・シェパード』」
小さな声だがユウキの耳にはしっかりと聞こえた。
「それが君の名前か?」
「……コクっ」
無言の頷きは『YES』を意味している。その動作を読み取ったユウキは事情を聞く。
「アミルはどうしてこんな所に?」
言い難そうなアミルだったが事情説明を開始する。
「私ね、奴隷だったの……。正確に言えば奴隷になりそうだった、だけど。怖い商人が怖い大人たちの前で私を見せるの……。時々殴られたり蹴られたりもしたし、裸にもされた……」
喋るにつれてどんどん声が震えていく。相当辛かったのだろう。よく見てみれば美しい白い肌には傷跡が見える。ユウキの腕は自然と安心させようとアミルの頭を優しく撫でていた。
「よーし。俺がアミルの言う怖い商人を懲らしめてやろう」
「……えっ?」
「怖かったんだろ? 辛かったんだろ? 寂しかったんだろ? それだけでアミルを助ける理由になる」
「でも……」
嬉しさの中に悲しさがある表情と声色。
──助けてあげたい
「言っただろ? 『嘘ついたら針山に身投げでもなんでもする』、ってな。俺がアミルを助ける内容も反映されてるから。安心して一緒に前を見て歩こう」
アミルは自然と目から涙を流す。それが嬉し涙なのは明確である。
「あり、が、とう……! ありがとう……! ユウキっ!」
ユウキは照れくさそうにポリポリと頭を掻いた後に言う。
「ありがとうは俺との約束が叶った後に欲しかったなぁ」
「あっ……ごめん」
「謝ることはねぇよ……可愛い可愛い子猫ちゃん♪」
ちょっとウザったい言葉はアミルを安心させ、そして笑わせた。森の中には少年少女の笑い声が小さく響く。