覚醒─カクセイ─
いろいろとあったがとりあえず皆、能力確認が終了した。金髪チャラ男(仮)の軽部イチヤは右手からは赤い炎、左手からは自分にもダメージはくるが右手より強力な黒い炎を出せる『火炎』。学級委員長でみんなのまとめ役である工藤ハルナは千里先まで見れるという『千里眼』。当の本人であるユウキは……
「何でだよ……。何で何も無ぇんだよ!」
何も起こらない。という残酷な結果。クラス一と言っていいほど日常が嫌いで『非日常』に憧れていた人間にとって凡人という能力値はあまりにも酷な結果である。
「ぷ……フハハハッ!! なんだ雨宮!? 能力がないって……。雑魚すぎるだろ!」
周りの男子全員がユウキをバカにする。イチヤ以外は特に強いわけでもなく実用性が高いといえば腕をツルに変える能力ぐらい。だが全員能力はあるため何も言い返す言葉が見つからない。悔しく握りこぶしを作ることしか出来ない。そんな様子を見ていたクラント・アレクサンダーことククが話題を変える。
「じゃあみんなであそこの森に行こうか♪」
近くの森を指さす。そして陽気に笑い淡々と述べる。
「あの森には人間すらも食べると言われている魔物……えーと、何だったけな~? あっ、思い出した♪ クマとウサギを掛け合わせたような姿をしていてね、その姿から熊兎って呼ばれてるよ」
「ソイツヤバすぎじゃね?」
と、みんなの心の声をイチヤが代弁する。クラス、いやもう違うので転生者と呼ぼう。転生者全員がざわつく中ククだけがニコニコとした顔を崩さない。ユウキといえばどう援護すればいいかと脳をフルに回している。
「それじゃあ、レッツゴー♪」
軽い気持ちでその場にいる全員は熊兎の住む森へと進む。みんなの心の中
──まぁ、他人に任せるか
その気持ちが後に、地獄へと変わる。
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先頭はクク、その後ろに一列になって進んでいく。ククの歩くペースは速くなったり遅くなったり統一性はないものの警戒だけはしているようだ。能力を持っているクク以外は軽い気持ち、その気持ちがないのはククとユウキだけ。二つのペースのうち速く移動していた足をククは止める。それと同時に全員次々に止まっていく。
「アレを見て。アレが熊兎だよ」
その姿は説明にあった通り。体はクマのように巨体で四つん這いに進んだり二足歩行になったりと様々に動く。ウサギのような天高く伸びてる二本の細長い耳。体の色は焦げ茶色のためウサギ成分は耳のみ。八対二の割合でクマ成分が勝っている。
「ガルゥ……」
低い唸り声。熊兎は警戒している。花をクンクンと鳴らして匂いを嗅いでいる。どうやら森の中に侵入者がいることに気づいているようだ。
「アイツ……。いつもならこの距離警戒すらしないのに……」
ククが小さく呟いた後。素早くコチラに振り向く。そして
「グラァァ!!」
コチラに気づいた熊兎。その原因はククの声ではなく匂い。
「……!? 香水か!」
女子生徒はいつも、と言っていいほど校則違反をしている。その一つが香水の使用。まさかこんな所でバチが当たるとは思わない。熊兎の咆哮の凄まじさを真に受けた全員は後退りをする。人間の行動は正直。いち速く。誰よりも速く逃げるために能力を使って逃げる。唯一使うことの出来ないユウキはデコボコとしている道を転ばないように出来るだけ素早く走る。だがしかし。
「グフ……!!?」
横からのでかい一撃。距離をとったはずなのに一回の跳躍で熊兎はユウキに近づく。その光景に気づいた転生者は自分が攻撃されないために必死に距離をとる。熊兎の標的は完全にユウキ、ただ一人。
「グルワァァァ!!」
勝利の雄叫びなのかゴリラのように胸を両腕で叩き音を鳴らす。
──死に、たくない
身体中は少ししか動かない、だけどちょっとでも距離をとろうと抗う。
──転生したばかりなんだ
ピクピクと動くユウキを見て熊兎はもう一撃与えるため右腕を上げる。
──死なないためには……!
振り落とされる右腕。当たる瞬間のことだった。動かなかったユウキの体が素早く動き攻撃をかわす。何本か折れたはずの骨が不思議なことに治り両目で熊兎と睨み合う。
「お前を……喰えばいい!!」
ユウキの左目は雷光の如く黄色く染まっている。攻撃をかわされた熊兎は地面を両腕で何度も何度も叩いている。かなり悔しいようだ。
悪魔の反撃が始まる。