脅威
遅くなってごめんなさい。
色々とこっちにも事情があったんですよ。
再開するのでこれからもよろしくお願いします。
あの悲劇から約三週間が立って大会前日となったある日のこと。
「何となくだけど強くなったって実感出来たよ。ありがとう、リキさん」
「なーに、良いってことよ。お前さんも全力で勝てよ……!」
「あぁ……! 必ず……!」
暑苦しくも玄関前で握手を交わした二人の目には炎が見える。リキの横ではそっぽを向きながら口先を尖らせたアカネがいた。
「べっつにー。役に立てなかったからって拗ねてないのですよーだ。先輩らしいことが出来なかったからってそう易々と拗ねる私じゃないのですしー」
どうやら何も出来なかったことをかなり根に持っているらしい。アカネの活躍はあの日以来。修行中はユウキが暴走しないかハラハラしながら、尚且つ出番が来ないかワクワクしていたが残り一週間は研究所に侵入してきたアリの観察を続けていたそうで……。
「アカネさんもあの時はありがとう。おかげで助かったよ」
「ふーんだ」
もう一度言うがかなり根に持っているらしい。
「……ホントにありがとう、アカネ先輩っ」
ユウキの繰り出す不意打ちの笑顔を真に受けたアカネは顔を赤らめながらも少し嬉しそうに微笑んでいた。
「王様ー、早く行きましょうよ! 早く王様と二人っきりでグヘヘへ」
「アミル助けて!」
現在皆が集まっているのは研究所の玄関前。ユウキとアミル、そしてミナミが各々大荷物を持っていた。皆が皆しばしのお別れをしようとする中、研究所裏側では。
「ここか。それでは……。我がスキルよ、願いを叶え給え」
黒いローブのフードを眼深に被る男は片手を研究所に向ける。周囲の空気がビリビリと震え出す。その異変に気づいたのはただ一人。
「……」
「どうしたの? ユウキ」
「王様? 向こうの壁を見つめてどうしたんですか? アリンコでもいましたか?」
「ミナミさんのそういう所嫌いなのです……」
そんなことを笑いながら話している声を遮ってユウキは叫ぶ。
「『絶対障壁』ッ!」
「『破壊砲』ッ!」
ユウキが研究所の周りに大きく頑丈な障壁を創り出すのと同時に、外にいた男は片手から極太のレーザーのようなものを撃ち出す。
辺りに響いたのは力と力がぶつかり合った衝撃音と何かが崩壊された破壊音。
「うーん。我のスキルを最小限に抑えるとは……流石だ、強欲!」
崩壊した建物の上にいたのはフードが脱げ素顔が見える男だった。
「みんな! 大丈夫か!」
崩壊した破片に下敷きにされていないかと周囲を見渡したユウキは、研究員含め奇跡的にも無事だったことに安心しながら原因を生み出したであろう相手を睨みつける。
「お前は……」
「誰か、か? 敢えて言うのであれば、我は大罪人が一人とだけ答えておく」
大罪人、という言葉にユウキは拳を握りしめながらその男に殴りかかる。
「なめんな!」
「遅い、『疾風脚』」
攻撃をいとも容易く避けた男はユウキの腹を容赦なく蹴り飛ばし、元いた場所へと返す。
「我の目当てはお前じゃない……」
ゲホゲホと苦しそうに吐くユウキを差しのけて男が指したのは。
「お前だ、アミル・シェパード」
「……!? アミル逃げ……」
「何度も言わせるなよ、遅いんだよ」
瞬きの、ほんの一瞬だった。男の脇にアミルが抱えられていたのは。
フッ、と嘲笑う男はその場にいる誰かに言う。
「コイツは頂く。返すわけにはいかないが、一つゲームをしよう。王都に来て、我を殺してみろよ! 転生者!」
「ユウキ!!」
どこからともなく男から生えた羽。バタバタと音を鳴らせながら飛ぶ男から目を逸らさずユウキは叫ぶ。
「リキさんっ!」
「『絶・重力』ッ!!」
「三度目の忠告だ! 我が何度も見逃すわけぬっ!」
突然の重力と転生者の強力な飛び蹴りによって抱えられていたアミルを男は離す。
「アカネさんっ、ミナミっ!」
「「了解っ!」」
内容を聞かずともこの状況であれば判断など容易だ。地面に着地したユウキは片目を黄色く輝かせる。
「忠告だ……。二度目はない。今度俺の仲間に触れてみろ……。ぶっ殺すぞ!!」
その言葉に顔を顰めた男は吐き捨てるように言う。
「忘れるなよ。我はまた、お前らの前に現れる。必ず、コレは決定事項だ」
男が姿を消したのを確認したユウキは荷物を背負い直し、早口に言う。
「急ごう、王都に!」