コピー
研究所の中に一人の雄叫びだけが聞こえる。左目が黄色くなり、右目は白。明らかに正気を失ってしまっている。全身から黒いオーラを感じる。
その光景を強化ガラスの外から見ていたミナミは苦笑いをする。
「まさか暴走がこれ程までに凄いものなんて……。想像を絶する王様ステキ」
こんな状況でもユウキを褒めるミナミを周りの人々は本気ですごいと思っているらしい。
「だから、やめた方がいいって、私言った!」
アミルが珍しく声を荒らげた瞬間のことだった。
「…………ッ!」
凄まじいスピードで目の前のガラスを破壊するためユウキは拳を作る。壊される前にミナミが動き出す。
「リキさん。お願いしますっ」
「あいよ」
リキと呼ばれた長身の大柄男は右腕を前に突き出して下へ思いっきり下げながら叫ぶ。
「『重力』!」
『リキ・ライト』、能力『重力』。重力を自由自在に操れる。相手の重さを何十倍にも出来れば、無重力にも出来る。
ユウキの体は床にベッタリとくっついてしまった。どんなに力を入れても動くことが出来ない。
「あぁりゃりゃ。まだ抗うかね? 何ならもうちっと強くするぞ? 『超・重力』!」
ユウキの体にかかる重力は通常の約百倍。体はまともに動かせない中、ユウキの右腕だけが頭上に挙がる。視野にリキを捉えながら真似るようにして右腕を地面へ叩きつける。
「ぬをッ!!?」
リキの体もユウキと同様地面に叩きつけられる。そして思うように体が動かせない。
「コイツ……」
「王様の能力は確か『捕食』。今のは奪ったのではなくコピーした」
悔しそうに嘆く大男とは違ってミナミは戦況を冷静に分析する。
ユウキの内に秘められた『強欲』の力。それこそが『ものまね』。五秒間視認した能力者の能力を使用できるという混ぜるな危険の二人が一緒になってしまったのである。
リキを強制戦闘不能させたことにより体にかかっていた負担が無くなる。再び拳を作ってガラスへ全力のパンチをする前に今度は
「アカネ。今度は頼むっ」
「了解なのですよ!」
アカネと呼ばれた茶髪の低身長女子は行動をせずにただ叫ぶ。
「『反転』!」
『アカネ・トール』、能力『反転』。ありとあらゆるものを反転させる能力。例えばだ。今の状態も合わせて言うと攻撃の矛先は普通なら前。だが反転させれば"前"ではなく"後ろ"へ矛先が向く。
もちろんだが、現在ユウキの攻撃はガラスではなく、背中の方へと衝撃がいった。
「残念なのですよ! 今アナタは絶対に私たちに攻撃が出来ないのです!」
その言葉に過敏な反応を見せたユウキはガラスを背にして空気を殴る。衝撃は後ろのガラスを襲い、ぶち壊す。
「フェっ!? ミナミさんっ!この人は暴走状態でも学習能力は異常ないようなのです!」
「そう見たいね。もう元に戻していいわよ。ついでにそこで伸びてるリキさんを連れていってね?」
「イエッサー、なのですよ!」
ビシッと敬礼を見せた後にアカリは能力を解除してそそくさとリキを連れて後ろへ逃げる。ポキポキと指を鳴らしたミナミが何か決心する。
「さてと……、今度はあたしが頑張らないとねっ」
「もうやめてぇぇ!!」
やる気満々の両者だが銀髪少女の一喝によって打ち消される。そしてユウキは正気が戻ったのか苦しがり頭を抱え込む。
「俺の前に、出てくるな、強欲やろう……。俺は……お前なんかじゃないぞ……! 俺は、雨宮、ユウキだ!!」
右目に黒が灯り正気が完全に戻ったが左目は未だに黄色く光っている。
「大丈夫? ユウキ」
心配そうな顔をしたアミルがユウキに近づく。ユウキはアミルの頭を撫でながら言う。
「全然大丈夫だぞー。心配かけたな、スマン」
アミルは頬を赤らめるが気持ちよさそうに目を瞑る。そんな光景を見ながらミナミは本題を打ち明ける。
「王様。分かりましたか? 今アナタは一応力を制御できています。ですが最大二パーセントほどしか出せていません。もしもですよ? さっきの力が自分で制御できるのであれば」
──アナタは最強の人です。
その言葉はユウキの心を動かす。最強という響きは嫌いではなく、むしろ喜びでもある。
「あと残り一ヶ月何だろ? ちょっとでも自分のモノにしてみせるぜ!」
そんな子供のような仕草をとるユウキを見て満面の笑みでミナミは言う。
「それは構いませんがまず破壊されたガラスや床の修理。コチラのスタッフの怪我の処置などなど、今回は沢山あるのでお待ちください」
「マジですいませんでした」
ユウキは綺麗なジャンピング土下座を見せた。