ココから始まる苦しき修行
ユウキとアミルは先程まで着ていた服を着替えさせられた。ユウキは黒がよく目立つジップパーカー、そして下半身はジャージのように動きやすい見たことのない服。アミルは動きやすさ重視、しかしその服には女の子もさぞ喜ぶであろう柄の入った長袖短パン。
そんな姿でユウキとアミルはミナミに言われるがまま着いて行くと研究所の中にある『実験ルーム』へと来た。
「ココが?」
ユウキの疑問をミナミは自慢気に熱く語る。
「はいっ! ココが我々の最高傑作と言っても過言ではない研究のための『研究ルーム』っ! 研究又は実験に必要なある程度のものが揃っている他ココにいる研究者たちは色んな能力を持っています! さあ! 最高でしょ!? 最高と言いなさい! 最高と言ってくださいよぉぉぉぉぉッッッ!!!」
「ハイハイ最高最高」
熱くなると何故か歯止めが効かなくなるミナミを軽くあしらうユウキは一人、その研究ルームへ入る。
「ユウキー。そっち、どんな感じー?」
ジト目のままのアミルが気だるそうにユウキの名を呼ぶ。周りは全面ガラス張り。叩いてみるとコンコンといういい音が鳴る。ガラスの割にかなり頑丈だ。きっと車でぶつかっても壊れないほど。
「スッゲェ居心地悪いよ。監視されてるみたいで」
「それがいいんじゃないですか! 人に自分の作品が見られるっ……それだけでもう満足です!」
「誰がお前の作品だ! それに変態なのかお前は? 大勢の人に見られて、そして人混みに入ったら興奮するヤツだろお前」
ミナミはそれこそ心外だ、と言わんばかりに目を見開く。
「言っときますけど! 王様でも言っていい言葉と悪い言葉がありますからね!ちなみにあたしは二人っきりの部屋で何も聞かずに男性が女性の服を脱が」
「アミルが聞いてるでしょうがっ! アミルちゃま、今すぐ見ざる聞かざるの体制に移行しなさい!」
「私、十六歳。多分、ユウキと一緒」
しばらくの間沈黙が続く。アミルは自分が何か変なことを言ってしまってないか考え込む。そして口を開いたのはユウキだった。
「うん。大丈夫だよアミルちゃん。僕は何も聞いていない。そうだよね? ミナミさん」
ミナミは微笑み、手のひらを口元に近づかせ慎ましむ。
「そうですわね。あた、じゃなかった。私たちは何も聞いていませんわ。それより修行、じゃなかった。お稽古を致しましょうか」
「演じるならもっとうまく演じなよ、ミナミさん」
「あらあら、それは申し訳ないことをしましたわ」
「はっはっはっは」
「おっほっほっほ」
次第に飽きてきた二人は正面で向き合うのをやめ背を向け合う。一人は準備運動を始め、もう一人は色々と研究の準備に取り掛かる。もう一人は訳も分からずその場に座る。
「さて、と。それじゃあ研究を開始しますよ?」
「あぁいいぜ。手始めに何をするんだ?」
何かの機械をいじりながらミナミは答える。
「最初に言いましたよね? 『最小限の犠牲で最大限の力』、と。だから今から王様の内に秘めてある力を強制的に引き出します」
「「はっ!?」」
いい提案を出した、と言いたげなミナミに対してユウキとアミルは大きく叫ぶ。
「それは嬉しいんだけどさ。めちゃくちゃ制御が難し上に自我がなくなって破壊を繰り返すかも知れねぇんだぞ?」
アミルも続けて言う。
「うん。あの時のユウキ、怖かった」
切なく答える二人の意見をガン無視でミナミは準備が整いそれを起動させる。
「大丈夫ですよ。ココにいる研究者は約五十人以上。大勢でかかればいくら大罪持ちでも抑え込むことは出来ると思いますし。えっと、まあ」
──健闘を祈ります。
その言葉を最後に
「あああアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
ユウキの暴走が始まる。