番外編②・一人一人の道
「『火炎砲』ッ!」
大声とともに技名がとある森に響く。プラスで爆煙が広がり、けたたましく周りを燃やす。
「軽部君っ! 被害少なめ! それ大事!」
「るっせぇ! 今までコイツに隠れながら生活しねぇとダメだったんだぞ? 反撃のチャンス来たれり!」
同じクラスだった女子転生者から言われたが聞く耳を持たない状態。自分の欲求だけを満たしたい子供のようだ。女子転生者は手から水を排出して火事にならないよう気を付けている。
「『火炎弾』っ!」
右手から放たれた炎は塊となって熊だか兎だか分からない巨大動物に当てる。
「グルワァァァ!!」
耐熱ではないその毛皮に火は消えることなく燃え続ける。苦しむ熊兎を見て軽部は悪く笑う。
「ハッハッハっ!! スゲェ! 何だ? 弱ぇな! 今度はもっとデカいぜ! 『爆炎弾』っ!」
火炎弾よりもかなり強力で巨大な火の塊が無慈悲に熊兎を襲う。悲鳴をあげていた熊兎はだんだんと大人しくなり死んでしまった。
「……情ねぇ」
息絶えた動物に捨て台詞を一つ言う。
「しっかし、ホントに強くなったね♪ えっと……」
「軽部イチヤだ」
自分の名前を忘れてしまったことを察した軽部は早口にククへ伝える。
「だけど油断禁物だよ?」
「あ? 俺がこんなヤツに殺られるっていうのか? 寝言は寝て言え」
自信満々に言いのけた矢先にだ。
「か、軽部ぇ!! 救援頼む! 熊兎が──」
声の方を振り返る。軽部はニヤッと不気味に微笑む。
「大量に!!」
十体以上もいる熊兎を見た瞬間に軽部は地面に向かって右手の炎を使い反動で飛び上がる。
「邪魔だお前ら!!」
危険を知らせるために皆に聞こえるよう叫ぶ。
「ヤバいぞアレ……。退却!!」
軽部の親友である緑川ギンロウは自らの腕をツルに変え仲間を戦線から離脱させる。逃げたことを確認した軽部は左手に炎のエネルギーを溜める。
「蓄積された一撃は何よりも強し……」
強いエネルギーを感じた熊兎たちは空高くにいる軽部を見上げる。人と比べて身体能力がかなり高い熊兎でも、もう遅い。
「『黒い焔』っ!」
キャッチボール程の小さな黒い火の玉を熊兎が集まる中心へ投げる。
「BON」
軽部が弾ける擬音を呟いた瞬間に、小さな塊は大きく爆発し熊兎を、周囲を一掃する。自分の攻撃による爆風で遠くへ飛びそうな軽部を緑川は空中でキャッチする。地面に寝させ叫ぶ。
「だからあんま無理すんなって! お前が死んじまったら、俺はどうすればいいんだよ!」
左手にかなり凶悪な火傷を負っていた。そんな光景を目にしながら軽部は緑川に言う。
「……スマン。……やり過ぎた。……でも、アイツがどっか行っちまったんだからよぉ」
軽部は右腕で顔を隠すようにして覆う。一週間前に失踪した友達をどこか懐かしいように思い出す。
「非日常が大好きだったアイツが……。学校が嫌いだったアイツが……。あの雨宮が……」
頬を滴る涙は周囲の人々を切なく思わせる。
「アイツがどっか行ったのは俺のせいだ! 俺が逃げたからだ! その尻拭いを今してる!」
声を荒らげて軽部は何かを主張する。この世界に来て一週間。皆それぞれこの世界でのやることが決まった。『能力を使って皆を癒す』者や『最強を目指す』者、『元の世界へ戻るため今を頑張る』者や『仲間を守る』者など。人によって様々だ。
一人一人、違う道を進んでいく。