四話
取り敢えず、落ち着くんだ自分。源泉スキルを貰ったんだぜ、温泉に入りたい放題じゃないか。それで十分でないか、俺!
「何故じゃあ! どうして儂のところだけ『お爺さん』になっているのじゃ!! 儂は『時空の神』じゃぞ! せめて『時空の番人』にしろー!!」
どうやらこのお爺さんが『時空の神』らしい。
色々人選ミスってないか? こんなお爺さんにそんな重要なポジションを任せて大丈夫なのか?
……きっと神様達にもそうせざるを得ない理由があったのだろう。まあ、自分には関係のない話だけど。
「……そんなことどうでもいいから、早く俺を異世界に転移させてくれない?」
いくら守といえど、異世界に憧れはある。取り敢えず、あの四人組が無事に使命を果たしてくれるまで静かに異世界生活を満喫していよう。
「おっと、そうであったのう……忘れるところであったわい……ん? どうやら、儂の同胞達がお主に用があるみたいじゃ」
「「「「用なのじゃ~」」」」
「は?」
お爺さんと天使達が何を言っているのか分からず、首を傾げていると、突然目の前に黒い渦が出現した。
「うふふ、こんにちは……って、この空間、臭すぎ! 加齢臭の匂いがしますわ!! 今すぐ換気よ換気!」
黒い渦から出て来るやいなや、鼻をつまみだす金髪美女。
「俺様は建築の神だ!」
……ムキムキゴリラ。
「おっと、埃が……汚いですね。水で洗い流しましょう」
ホステスにいそうな色男。
……何これ? これから珍劇で始まるのだろうか?
「相変わらず爺は貧乏なのですね……時空の神なんてやめて、貧乏神にでもなったらどうですか?」
最後に出てきたのは、スーツをビシッと着こなす眼鏡男。見るからにしてできる男だ。
「え、えーと、どちら様で?」
守は恐る恐る尋ねた。
「おっと、貴方がマモル殿ですね? 紹介が遅れてすみません。私は商業を司る神です。以後お見知り置きを」
優雅にお辞儀をし、握手を求めてくる眼鏡男。
「よ、よろしくお願いします」
守は差し出された手に自分の手を重ねると、眼鏡男はギュッとその手を力強く握り返してきた。
「丁度いい、このまま私と契約を結んでしまいましょう」
「はっ!?」
守は慌てて手を引っ込めようとするが、眼鏡男がガッチリと掴んでいるためそれもできない。
『我は商業を司る神なり。創造神の名の下に、汝と契約を結ぶ』
守の脳内にチリっという痛みが走る。
「痛っ!!」
「ふぅ……人と契約を結ぶなんて何千年ぶりでしょうか。久しぶりでしたが……どうやら上手く言ったようです」
いい仕事をしたと言わんばかりの眼鏡男に守は詰め寄った。
「このクソ眼鏡! 俺に何をしたんだよ!」
「何って、契約という名の加護を与えたんです」
しゃあしゃあと告げる眼鏡男に、守も噴火寸前だ。そんな守を無視して眼鏡男は続ける。
「どうやら、貴方の体力はゴミ屑以下のようなので私の加護を与えれば、少なからずマシになるかと思いまして……」
「へ?」
『ステータス』
【名前】フジシマ マモル
【性別】男性
【年齢】17
【職業】温泉宿の主人
【称号】巻き込まれた異世界人
温泉をこよなく愛する者
温泉マニア
【レベル】1
【体力】100/100→150/150
【魔力】500,000/500,000
【スキル】
・水魔法Lv.1
【ユニークスキル】
・温泉宿Lv.1
・源泉スキルLv.1
・サバイバルグッズLv.1
・用具入れLv.1
・神々からのコメントLv.1
【加護】
・商業神の加護
……あれ? 体力が50UPしているのは気のせいだろうか? 多分商業神の加護の影響だろう。
守は試しに【商業神の加護】を鑑定してみた。
【商業神の加護】
商業に関してのスキルを覚え易くなる。商人は体力が必要なので、体力のステータスが大幅にUP!
『しっかりと稼ぎなさい。by商業神』
「……大幅にUPって書いてあるなのに50だけかよ。ケチだな」
守はつい本音が漏れてしまった。
「おや……私の加護を与えても体力がゴミ屑以下とは遺憾ですね。どうやらマモル殿に私の加護はお役に立てないみたいなので契約を解除……」
「や、やめてくれ! あ、ありがたく貴方の契約を受けます!」
たかが50といえど、今の守にとって体力が少しでも必要なのは変わりようのない事実だ。
「……有無、どうやらお主は元々体力のステータスが大幅に上がらなくなっているようじゃのう。そうじゃ、戦いの神ならなんとかできるかもしれない」
守のステータスをみたお爺さんが、誰かに通信を取っている。
数分後、またもや黒い渦が生まれた。
「……私に力を貸して欲しいと言われたのだが……」
黒い渦の中から出来てきたのは、男の守でさえも見惚れる銀髪の美丈夫だった。
そろそろ守が、異世界に行くはず……。