一話
二学期の中間考査を終え、自宅近くの銭湯に向かっていた帰り道。
今日はやけに騒がしかった。
その原因となっているのが、守の二十メートル先を歩く同じ学校の制服を着た四人組である。
守を除く男子生徒の中で校内一のイケメンと名高い尾谷誠司と、爽やか系スポーツ少年として人気の高い石井慎也、去年のミスコンで一位になった華野凛花と、ミスコンには出ていないが読者モデルとして活躍する井上玲奈の男女四人。
その場にいるだけで、無駄にキラキラオーラを放つ奴らが揃いも揃って四人もいる。
犬の散歩をしている飼い主さんだけではなく、犬さえも彼らに見入っているのだから驚きだ。
そのうち、事故が起きるんじゃないかと、彼らの二十メートル後ろを歩く守は気が気ではない。
タイプの違う美男美女がこうも揃うと、いつもの倍以上の視線を集めている。
まるで人間ホイホイ機だな、と守は思った。
ちなみに井上玲奈とは何度か一緒に仕事をしたことがある。が、ここで「俺だよ、俺」と声をかけたら、どう見ても怪しいやつだ。
余談だがハーフ系モデルの時の俺は『嶋』という名で活動している。
芸能事務所と契約する際に最小限の個人情報は公開しないという契約を結んでおり、『ミステリアスな美少年』を売りにしていた。
だから、超人気モデルの『嶋』と地味な男子高校生が同一人物だとは思いもよらないだろう。
「ねえ、誠司? 私、最近駅前にできたグレープ屋さんに行きたい!」
華野凛花が尾谷誠司の腕に自分の腕を巻きつける。積極的な女だな、と守は思った。
「このリア充共め、爆発しやがれ!」とまでは思わないが、「人がいる前で何堂々とイチャイチャしているんだよ? 見たくもない光景を見せられる俺の気持ちになれよ」とは思う。
彼らが歩道いっぱいに広がるせいで、守は彼らを抜かすことができない。
悪態をつきそうになりながらも守は機会を伺っていた。なんでもいいから早く銭湯に行きたい。
強行突破という考えが守の頭をよぎったとき、前を歩く四人から驚きの声が上がりふと目を向けると、四人の足元に魔法陣みたいなのが展開されていた。
守は一瞬思考停止し、本能に従って四人がいる方向とは逆方向に向かって走り出した。が、遅かった。
汗を垂らしながら走る守の左足首に何か得体の知らないものが巻き付いたのだ。
恐る恐る振り返った守の視界に飛び込んできたのは、自分の左足首に巻きつく光の触手。
慌てて四人に視線を向けると、陣の中に引きずり込まれている最中だった。
守の足首に巻きつく光の触手は、あの四人と同じように守も陣の中に引きずり込もうと動き出す。
「なんの悪夢だよ!」
守はそう叫んだ。
光の触手を解こうとするが、余計に締め付けが強くなる。
あの四人はすでに陣の中に引きずり込まれてしまったようだ。
あの四人の二の舞になるかと、守は必死に踏ん張った。
しかし、突然出現した多数の光の触手たちが身体中に巻きつき始める。
その結果、守は光の触手との綱引きに敗北してし、陣の中へと引きずり込まれてしまった。
◇◆◇
「おい……」
誰かが頬をペチペチと叩く。
「ぅ……もう少し……」
先ほどまで光の触手と死闘を繰り広げていたため、身体が重く、中々いうことを聞いてはくれない。
「……いい加減起きるのじゃ!」
耳元で思いっきり怒鳴られた守は、飛び起きた。
辺りを見回すと、そこは見慣れた日本の住宅街ではなく、ただ真っ白な世界。
そして目の前でいるのは、今にもくたばりそうなヨボヨボの爺さん。
「なんだ、この状況は?」
守は思わず、そう呟いた。