第一章8 『ヒーローは、忘れた頃にやって来る』
──夜の墓地
「夜、ソレは闇が支配する漆黒の世界。夜、ソレは静寂が包む眠りへの誘い。時は既に闇の刻。デュラハン、死そのものである我が統べる時。我が滅却魔眼が真紅に輝く!さぁ、死と共に踊れ!」
「ロベリア、置いて行くぞ。」
「あっ、待ってくれ!」
ケモミミ姉妹を助ける事になった俺達は、現在五人で墓地の浄化クエストに来ている。夜、と言っても、俺はスキルで昼間より目がきく。
「お、お姉ちゃん...こここ、怖いよぉ〜。」
「フフフ!まったく、モッチィなぁー妹よ!案ずるな。この姉が居れば一切問題は無い。」
言い切ったなクロカ。てか、モッチィってなんだよ。
「どうだ夢。何か居たか?」
「いいえ。私の索敵スキルには何も引っかかっていません。もしかしたら、近くに強い死臭を漂わせている者がいるせいかも知れませんが。」
ロベリアのことか...
「はぁ〜」
この浄化クエスト。話しによれば、最近この墓地で良くない気配があったらしい。今回は、その探索と解決が依頼内容だ。適当なプリーストを雇えば解決するだろうと言っていたが....
「なぁ夢。今のところ、何か変わった事有った?」
「いいえ、何も。」
ここに来てかれこれ三十分。何も無さすぎて表抜けだな。もっとこう、ゾンビがバァーン!みたいな...
「なぁロベリア。」
「リアでいいぞ。」
「精霊を召喚して、氷を飛ばせるようになったら呼んでるやるよ。」
「何で?!」
「なぁロベリア。」
「死の神と呼んでくれて構わないぞ?」
「ゴールドの戦士を倒したら呼んでやるよ。」
「何の話か分からないが、怒りが湧いてきたな。」
「なぁロベリア。」
「ハニーと呼んでもいいぞ。」
「なぁ蜂蜜。」
「そっちじゃないぞ!」
「なぁ首取れ死体。」
「せめて、デュラハンと呼んでくれ。あと、私は死んでないぞ。」
「なぁ生首。」
「もうロベリアでいいよ。で、何だ?」
「お前って、一応死の神様なんだよな?」
「一応では無く死の神だぞ、普通に。」
死の神って時点で、普通じゃ無いけどな。
「何か気配とか感じないのか?」
「うむ、.....我は死の神だ。死んだ者、近々死に関わる、または関わった者なら分かるが、対象が生き物なのかすら分からんしな。」
「なんちゃら魔眼はどうしたんだよ。」
「滅却魔眼だ!これは、そんなに都合の良い物では無い...」
......
「あっそ。」
「まぁ、死者なら貴様の隣にいるがな。」
「え?」
隣を見れば、辺りに警戒しながら歩く夢がいる。
「死者、死者どこ?見えないぞ?!」
「私のことを言っているのですか?頭だけでなく、手脚まで取れる様にして上げましょうか?」
「半透明で何を言っている、ス ラ イ ム! 」
「あれ?まだ私の名前、覚えて無かったんですか?どうやら脳が腐っているようですね。頭が取れてもしょうがない。」
「いや違うぞ。貴様の名前ごときに、脳の容量を使ってられないだけだ!」
「そうでね。貴方の脳ミソでは、物事を忘れない様にするだけで精一杯ですからね。覚えるために使う容量が無いのでしょう?」
「なんだと。」
「なんですか。」
あー始まった、夢とロベリアの口喧嘩。ここ墓地だぞ。帰ってからやれよ。
あぁー暇だー。空から、チェーンソー持った女の子とか降ってこないかなぁ〜。
「あ、あの...シエルお兄ちゃん。」
「ん?どうした、シロエ。」
ケモミミの妹が声を掛けてきた。
「え、えと...その...な、何を頼りに進んでるのかなぁ〜と思って。」
「?」
そりゃぁ、夢の索敵スキルだけど。俺のエネミーサーチは発動してるのか分からないし.......まぁでも、ちょとカッコつけてもいいよな!
「運命の導くままに、進んでいるのさ!」
うん、思いのほか決まらなかったな。
「運命...ですか....」
「シエルは、運命なんて信じてるのか?」
今度は、ケモミミの姉
「ん?ん〜、信じて無くは無いけど...てか、お兄ちゃんって呼んでって言ったじゃんか〜。」
「なぜ兄妹でもないのに呼ばなければいけないんだ?」
「いいじゃん。そっちの方が可愛いと思うけどなぁ〜。」
「シロエ以外に初めて言われた。............お前、まじでモッチッチィからやめた方がいいぞ。」
だから、モッチィってなんだよ!チが増えると意味が変わるのか?
「お姉ちゃん失礼だよ。ご、ごめんなさいシエルお兄ちゃん。」
あぁ〜いつまでも素直な君でいて!
「兄さん、お取り込み中悪いのでが!」
リアル妹がメッチャ怒ってる!
「索敵スキルに反応が有りました。」
「どこ?」
「正面500m先、敵です。」
「敵?」
「はい、強い敵意が伝わってきます。」
「500m先かぁ、見えないな。」
視力拡張でも届か無いか。
「我が魔眼は捉えているぞ。」
「て、敵ですか?」
「シロ、私から離れるなよ!」
「夢、どんな奴だ?!」
「いえいえ、索敵スキルは敵の姿は分かりませんよ。」
「は?」
「私の視力拡張スキルは、闇を無効化してくれませんから。あっ、数は一体です。」
「あぁうん。ロベリア!さっき、捉えているとか言ってたよな?」
「見えているぞ。あれは.....ドラゴン?骨のドラゴンだ!」
「骨のドラゴン?」
え、なに、同種の骨が動いてるの?怖いわぁ〜。
「多種の骨が集まって、ドラゴンの形になっているようだ。」
「ドユコト?」
「そのままの意味だ。恐らく、人為的に作られた物だろう。人からすれば、相当高位の術のはずなんだが...」
おぉー、死の神様っぽいぞ。
「シエル、来るぞ!」
「兄さ...ガッ..ハ!」
隣にいた夢の下半身、お腹から下が吹き飛ぶ。
「油断...しました......」
「ゆ、夢ぇぇ!!!」
コイツ、今どうやってここまで?何をしたんだ?!
体高約140㎝。四足で立ち、背中には羽根が付いている骨のドラゴン。頭からは角が生え、身体中に黒い霧の様なものを纏っている。
「下がれシエル!」
「?!」
ドラゴンが音も無くこちらを向く。と同時、一瞬にしてロベリアの前に移動すると、その右腕が頭を吹っ飛ばす。
「ガッ....!」
飛ばされる瞬間、ロベリアの振り上げた右手がドラゴンの左の角を消し飛ばす。
「ロベリア!!」
「速い?!逃げろシロ!」
「お姉ちゃんは?!」
「戦うさ。」
クロカは、右腕を引き腰を低く構える。
「闇、夜、暗い、潰す、塗り潰す、絶望の、黒く、黒、黒、....黒く、黒く、黒、くろクロクロクロ.....」
クロカの髪が黒くなっていく。黒く黒く、ただひたすらに黒く。左目は黄色い光を放ち、手には闇が集まりドラゴンの腕の様な形になる。
「はぁぁぁぁ....!」
深く息を吐くクロカ。
その間も、ロベリアは一進一退の攻防を続けている。
「クロ...カ、.....クロカ?...クロカ・ブリューナク......私は、クロカ・ブリューナク!!......行くぞ!」
自分の名前を確認する様に呟くと、ドラゴンに突っ込んで行く。
「ガアァァァァァ!!!」
右側から殴り掛かるも、ドラゴンは右腕を上げ軽々しく受ける。が、衝撃を殺しきれず、右腕の骨にはヒビが入り、左翼の半分から先が無くなる。
「くっそぉぉ!!!」
俺は、何も出来ない。この圧倒的スピードに付いていけ無い。
「グガッ!」
ガードするも、後ろにぶっ飛ばされるクロカ。
「お姉ちゃん!!」
グチャッッッ
ロベリアの右手が落ちる。
「ッッッッッ!!」
大振りの一撃で、身体もどこかへ吹っ飛んでいく。
やばい....死ぬ!
「あっ...」
気がつけばドラゴンは目の前にいて...
「あはは...ガッ...ガハッ....」
ドラゴンの尻尾が腹を貫く。
「ウッ...」
身体が重い。寒い。腹は焼けるように熱いのに...手足に力が入らない。
『グガルゥゥゥ!!』
ドラゴンのなく声が聞こえる。
人間の追求心?と言うやつだろうか?こんな時なのに、骨の身体でどうやって声を出してるんだろう?なんて、疑問が浮かんでくる。
俺の足は地面から離れ、そこら辺に有った墓標まで投げられる。
ベチャ!
「.........ッ!」
死にたく...無い。身体が....動かない。俺は...まだ...
「光、輝く、眩い、照らす、差し照らす、希望の、白く、白、白、....白く、白く、白、しろシロシロシロ.....」
シロエの髪が白くなっていく。白く白く、ただひたすらに白く。右目は赤色の光を放ち、手足には光が集まり西洋鎧を形作る。更に、左手には盾形に光が構成されていく。
「シ...ロエ?....アナタは...シロエ?...私は...シロ、シロエ・ブリューナク!......行きます!」
逃げてくれ...シロエ!逃げるんだ!頼むから....逃げてくれ...
ドラゴンは標的をシロエに移す。
ブシャッ!
「ウグッ...」
反応しきれず、右の腹を切られる。
「速い!!でも、次は防ぎます。」
切られたはずの腹は一瞬で治り、盾を構えるシロエ。
『カァァァ!!!』
ガキンッ、ガキンッ、キィィッッンン!!
激しい金属音とともに攻撃を防ぐシロエ。でも、そこには余裕なんて無い。どれもギリギリの防御。
「うっ、お姉ちゃん...」
「くそっ!」
動け、動け、動け、動け、動け、動けぇぇ!!目の前で女の子がやられていて、見てるだけだなんて男じゃねぇ!考えろ、今の俺に何が出来るか、考えるんだ!
魔法、MPが無い。ライター...は意味が無い。スキル...オートヒールは働いている。けど、時間が掛かりすぎる。スキル...スキル?!
「スキル発動!″ブースト″!」
有る!魔法は使えなくても、スキルなら!消費SP:78の″ブースト″が!
身体中に力が漲る。動ける...動ける!腹は焼けるように熱く、避けるように痛い。それがどうした!血はとめどなく溢れる、止まることを知らない。それがどうした!今はそんなのどうでもいい!!この一撃に...全てを賭ける!チャンスは一度きりだ、外せない。俺の身体は弾丸だ!全てを撃ち抜く、一発の弾丸!
ドラゴンの大振りの一撃を盾で防ぐ。そこで起きる、一瞬の硬直...
「そこだぁぁぁああぁぁぁ!!!」
俺の蹴った地面が割れる。土埃を上げて突っ込む。全エネルギーを右手に廻す。
まだだ...この一撃に....俺の、今持っている全てを
「″ライター″!!!」
右手の人差し指から火が上がる。
これは、ただの火起こし魔法なのか?違う!!
火を握り込む。右手全体を一つの火種にして、発火させる。
「燃え尽きろ!!″龍人拳″!!!」
死ねぇ!!!......................................
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..................................................が、
俺の放った一撃は、尽く避けられる。
「なっ.......!」
まるで、嘲笑うかのごとく歯をカチカチさせると、ドラゴンは右腕を振り上げた。
「........」
俺の右腕は、肩から無くなった。
そのまま力を殺しきれず、横回転しながら前方にすっ飛んでいく。
ゴガァァッッッンン!!!
前方の墓標を砕き、俺の動きは完全に止まる。
ごめん、シロエ。ごめん、みんな。俺は...無力だ...
地球に居る時もそうだった。何をやっても上手くいかず、周りに迷惑ばかりかける。親でさえ、俺を認めはしなかった。いつでも夢と比べ、劣る俺を....「まだです兄さん!!」
「?!」
懐かしく、頼もしい...いつでも、どんな時でも俺の味方でいてくれた....愛すべき妹の声、
夢ぇ!!!
「よくも兄さんをこんなにしてくれましたね。最初は油断しましたが、もうそんな事は有りませんよ。..........打っ殺す!!!」
ヒーローは、忘れた頃にやって来る。どっかの誰かがそんな事を言っていたのを思い出す。
後は、ヒーローに任せよう。前座の役目は、ここまでだ。
「″アクセル″!″セカンド・アクセル″!!」
『グルルルゥゥゥ!!!』
「フォルムチェンジ・モードレッド!!」
『ガアァァァァ!!!』
「受けろ、太陽の輝き.....″ルーフス・ソル・ニーティス″!!」
凄まじい爆音と熱風が肌を撫でる。
もう、何も見えない。薄れゆく意識の中聞こえてきたのは、こちらを呼ぶ...妹の声だった。