第一章7 『オンボロ宿にはケモミミ姉妹』
──冒険者ギルド受付前
「何だ、まだ持ってなかったのか?ギルドライセンス。そんな良さそうな服着て、見かけ倒しだな!」
「悪かったな、見かけ倒しで!てか、何でついて来るんだよ!」
「フンッ、何を今更。既に貴様は、我との掛けに負けたのだ。貴様に我を拒む権利など無い。」
「それなら、私が拒みます。」
「なんだ?まだ居たのか、スライム!」
「いつでも居ますよ、デュラハン!」
あぁーはいはい外でやろうねー、周りの人の邪魔になるから。
「あ、あのー...」
「あぁ、はいはい。すみません何でしたっけ?」
受付の人を困らせてしまった。
「ですから、あなたのステータスでマジックキャスターは難しいかと...最初っからレベル35というのは凄いと思います。スキルも使えるようですし。ですから、剣士や武闘家などに成られては?」
MP1だからそりゃそうだろうね。
俺はデュラハン、″ロベリア・M・スノードロップ″が仲間に加わった後改めてステータスを見てみた。レベルが35になってたから少し期待はしてたんだけど....
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Lv 35
HP :640
MP :1
SP :80
攻撃力:2083
防御力:970
会心 :140
職業 :マジックキャスターLv 35
種族 :火竜 Lv 35
使える魔法:
フレイムマジックLv15 消費MP:57
フィヤーウォール Lv9 消費MP195
火竜術式【無名】Lv9 消費MP:3977
メタモルフォーゼ Lv10 消費MP:1
ライターLv25 消費MP:1
?????? 消費MP:99999....
取得しているスキル
オートスキル:
火属性魔法ダメージ +280
火属性耐性+400
水属性耐性 -499000
オートヒール Lv10
ワードマスター Lv102
視力拡張《闇》
エネミーサーチLv0
??????
SP消費スキル:
ブースト 消費SP:78
経験値:0
後:8172469でレベルアップ
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MPが上がらないぃ〜。分かってるよ!マジックキャスター無理なのは!でも、変更出来ないんだよ!なぜか。
「わ、分かってます。でも、この職業でお願いします.....」
「......わかりました。あ、あのぉ〜、名前の表記がされてないのですが...」
「えっ、名前?あぁ、名前ですね。」
確か夢が...
──「せっかくの転生したんですし、新しい名前にしたらどうですか?」
て言ってたなぁ...う〜む.....日暮...ヒグラシ...ヒグナシ....シェル、シエール.....
「ひ、ヒグナシエール・リュナサーク...です。」
「か、変わったお名前ですね...」
クッ、我ながら酷いネーミングセンスだとは思ったよ!
──5分後
「登録、終わりました。それでは良い冒険を!」
「ありがとうございました!」
あぁコレで俺も冒険者。ここから始まるんだ、異世界冒険生活が!
「よし!おい、夢ー、ロベリアー、終わったぞー!」
「なんだスライム。貴様お化けが怖いのか?!」
「そんな事は有りませんが、こっちのクエストの方が兄さんに向いているし、割が良いと言っているのです!」
「じゃぁその兄さんが、我の選んだクエストが良いと言ったら貴様は来るんだな?!」
「兄さんが私より貴方を優先するとは思いませんが、もしそうなったならその墓場のクエストに行きますよ!」
「ほう、言ったな。」
「言いましたよ。」
アイツらまだやってんのか...
「おーい!夢ー、ロベリアー!」
「ん?」
「終わりましたか?兄さん。」
「あぁ」
「なんて言われました?」
「.....マジックキャスターは難しいから、剣士とか武闘家に成れって。」
「アッハッハッハッハァ!!」
テメェコラ、デュラハン。笑ってんじゃねぇぞ?!
「そうだ、今この無礼者と話していたのですが、兄さんはどちらのクエストがいいですか?」
二択なのね。
「えぇ〜っと、《商人の護衛》報酬280ユールと、《墓地の浄化》報酬2300ユール...」
(1ユール:銅貨1枚、100ユール:銀貨1枚、10000ユール:金貨1枚)
墓地の浄化?お化けでも出んのかよ。
もし何か変なものが隣の家にいたら誰に電話するんだい?お化けをやっつける人達さ!
なんつって。え?語訳だよ?バスターズの歌の。訳さなくていい所まで訳したけど。
「どっちにするんですか?兄さん。」
「え?あ、あぁ.....じゃぁ、浄化かなぁ〜...」
「え、いやいや、護衛の方が早く終わりますし安全ですよ!浄化なんて何日かかるか分かりませんし危険ですし...」
「その時は、夢が守ってくれるだろ?信じてるぜ!」
「...兄さん」
「おい、なんだこの茶番は。いいんだな!浄化で。負けでいいんだな!スライム。」
「いいわけはありませんが、兄さんが選んだのなら仕方ない...あと、朱瀬 夢です。」
「うっし!んじゃ、行こうぜ!」
「なにを言っているんだ?少年。浄化するのは夜からだぞ?」
デスヨネェ〜
「それじゃぁ夜まで何すんの?」
「宿探しですよ、兄さん。」
そういえば泊まるところまだ無かった。
──イタモニラの隅、ヤルグス通り
「.....なぁ....ここしか無かったのは分かったよ。でもさ...ここはないんじゃないかなぁ.....」
その宿は、薄暗く異質な妖気を放っていて、この街では珍しい″和″と言った感じの建物。壁にはヒビが入り、蜘蛛の巣が貼った瓦屋根からはパラパラと何かが落ちてくる。今にも幽霊が出てきそうだ。
「に、兄さん...入りますよ。」
「お、おう。」
今にも外れそうな扉が開いていく。すると、奥からギシギシと床の軋む音が響いてくる。その音は徐々にこちらえ近付いてきて、暗い廊下の中から人が現れ...
「居らっしゃいませー!!!」
「うわぁぁ、あ、あ?」
中から、身長145㎝くらいの茶髪の元気な女の子が飛び出して来た。ニコニコした表情で、青い目をパチパチさせながらこちらを見てくる。服装は、巫女服?の肩口を切ってミニスカにした、みたいなやつ。これ、巫女服でいいんだっけ?そしてなんと言っても特徴的なのは、頭からフワリと生えた耳、腰から伸びたフサフサの尻尾だ。
「ケモミミっ子来たぁぁー!!」
フッ、なかなかお早い登場だな。居るとは思っていたが、ケモミミっ子....グッド!
「お、お姉ちゃん待ってぇ〜...あ、あの、ようこそお出で下さいました!!!」
建物の中から、さっきの女の子に似た大人しめの女の子が出て来た。
「まさか、姉妹キャラ...だと....」
「これは、兄さんには悪影響ですね...他にしましょう。」
「我が魔眼には見える!奴らが、シエルを誘惑し取り込もうとしている姿が!ここは危険だ、他をあたろう。」
「なに?!やっと来た客が帰ろうとしているだと!」
「どどどどうしようお姉ちゃん!」
「案ずるな妹よ!姉には秘策がある!くらえー!!........無料でマッサージも付けますよぉ〜!」
「 可愛いケモミミっ子にマッサージしてもらえるだと!もう、ここにするしかない!」
「待ってください兄さん!ケモミミだったら私だって出来ますし、...その....兄さんにマッサージして上げることも....」
「真のケモミミを、逃すわけにはいかない!」
「ま、待って!シ、シエルにだったら...この胸で.....マッサージしてやっても....いいぞ.........」
デュラハン...
「黙れ、死体オッパイ!」
「死体オッパイ?!」
「残念なことに、俺は巨乳好きでは無いのだ!俺を引き止めたいなら、その胸の見苦しいのを捨ててこい。」
「フンッ、ざまあないですねデュラハン。見せて上げましょう、私の本気を!」
そう言うと、夢はスカートの裾をつまみ
「他の場所にしてくれたら、お背中...お流ししますよ、兄さん。」
こ、これは
「その殺気を隠せてれば可愛かったかな。」
「なっ!」
そんなこんなで、ここに泊まることになったわけだが.....
「兄さん、本当にここで良かったんですか?」
「いや、ね。ケモミミが....はははぁ〜....」
「おい、シエル。ここ、風呂が無いぞ!これでは一緒に入れぬではないか!」
「あっても一緒には入らねーよ!」
ちなみに、俺の新しい名前″ヒグナシエール・リュナサーク″、略してシエル。いつまでも貴様呼ばわりはいやだったし、ここしか泊まるところが無い俺たちは、
──「ヒグラシ リュウキ?何だその変な名前は!怪しい奴らだ!出ていけ!」
なんて言われないように、こっちの名前で宿登録を済ませた。ギルドライセンスもこの名前で登録してるしね。ネーミングセンスには突っ込んでくれるなよ!
「兄さん、ここ...布団も有りませんよ。」
「うん。あっ、でも料理はメッチャ美味い的な?」
「ゆゆ、夕飯の支度が整いました。おぉお持ちしてもよろしいでしょうか?」
ケモミミの妹の方の声がする。噂をすれば何とやらってやつだな。
「いいですよ。」
「し、失礼します!」
「こ、これは...」
運び込まれたのは、何の匂いもしないお湯に葉っぱが浮かんだスープ的な何かと、魚の煮干みたいなやつ、そして漬物の切れ端?だった。
「兄さん...これは」
「おい、シエル。私はこれでも一応神だぞ?煮干って....」
「なぁ...俺の水耐性じゃスープは飲めないぞ。」
「これは文句を言わなけゃですね。」
「初めて意見があったな、スライム。我が魔眼もそう言っているぞ。」
その魔眼は、俺が運命の相手じゃないとは言わないのか?!おい、首を外して直にスープを流すな!グロイグロイ!
「では兄さん、お願いします。」
俺かよ!
「あ、あのぉ〜ケモミミちゃん!」
「へ?わ、私ですか?」
「ああ。...そいえば、まだ君の名前聞いてなかったね。」
「え、えと、その...わ、私の名前はシ、シロ。シロエ・ブリューナク...です....」
「え〜と、じゃぁ、シロエちゃんでいいのかな?」
「ははは、はい!い、いい...ですよ。」
メッチャタジタジしてるぅ〜。可愛いなぁ〜。コホンッ、では本題に
「あのさ、シロエちゃん。」
「はい!」
「え〜と、料理ってさ、もう少しなんとかならないかなぁ?」
「料理...ですか。」
「うん。いやぁ〜、なんていうか...これはね、あはは。」
「あ、あああの、申し訳ございません!!」
「いや、無理ならいいんだけど....」
「えと、あ、あの...」
いや、無理ならいいんだ。僕はもう、君を見ているだけでお腹いっぱいだから。
「兄さん、ここに日本の法律はなくても、この国の法律は有るんですよ。」
「いや、俺は愛玩動物を、ておい!引くな、引かないで!」
ドタドタと、足音がこちらに向かってくる。
「うおぉぉ!!!」
叫び声と共に、ケモミミの姉が部屋に飛び込んで来る。
「妹を困らせているのは、どこのどいつだぁー!」
「お姉ちゃん!」
「大丈夫か?妹よ!」
「う、うん。」
「おのれ貴様ら、さては悪だな!悪は滅せねばならぬのが世の道理!消えろ!」
ケモ姉が一歩踏み出す。
「ち、違うのお姉ちゃん!待って!」
「止めるな妹よ!姉はこれから、世のため妹のためこの悪に粛清を下さねばならぬのだ!」
「だから違うんだよ、お姉ちゃん!」
「...?」
──数分後
「フムフム、そう言うことか。」
食事に文句を付けただけで、どうしてこうなった。
「つまり、うちの飯が不味いということだな?」
「いや、まぁ...食べては無いんだけど。」
「兄さん、バシッと言ってやって下さい。」
「そうだぞシエル。こういうのはバシッと言ってやらねばな!」
お前の飯より美味いってことか?
「あのさ、ご飯もう少しなんとかならないかなぁ〜と。」
「すまない。今うちで出せるのは、ソレが限界だ。」
「これで?」
「数十年前から客脚が途絶えてしまってな。」
「客脚が?なぜ?」
「え〜っと、なんでだっけ?」
「もぉー、お姉ちゃん...あ、あのですね、今から数千年ほど前...」
話しによれば、
この宿屋は、代々ブリューナクの家系が継いできた歴史ある宿屋だそうだ。
その頃、この国...いや、まだ村程の大きさだったここに住む人々は、亜人を嫌っていた。そのせいで数千年前も、今と同じようにこの宿は不景気だった。
そこに、ある一人の男が訪れた。太陽のように赤い髪が印象的だったというその少年は、宿屋の若女将の容姿を気に入り復旧を手伝ったそうだ。
それから数日後、大繁盛...までは行かずとも、着々と客脚は伸びたそうだ。
その後10日ほどたった頃に、村の上空に黒と赤の二匹のドラゴンが現れ、天を焦がすほどの戦いを繰り広げた。黒いドラゴンは敗れ、赤いドラゴンはどこかに飛んで行ってしまったという。
それを機に、この村は国へと変わっていき、なぜだか亜人が嫌われる事もすくなくなっていった。
それから数十年、現在から五十年程前、国王が新しくなり亜人への差別が強まって行ったそうだ。そのため、またもこの宿屋への客脚は遠のいていった...とのことだった。
酒場で俺が睨まれてたのは、リア充死ね!じゃ無くて、亜人消えろ!だったのか。コイツら、スライムだのデュラハンだの叫びすぎなんだよ!てか、
「なげぇーよ!」
説明なが!
「ごごご、ごめんなさい!!」
「む!」
姉の方が睨んでくる。いいじゃん!ストーリースキップしたい時とかあるじゃん!えっ?ない?!
「そう言う事だったんですね。」
「まぁ、我が魔眼は全てを見通していたがな!」
本当に知ってて言わなかったんだったら、後で首に漬物石でも置いてやる!
「それならしょうがない...か。」
「どうするんですか、赤髪の少年。」
「おいおい、夢。」
「そうだお客様!これは運命かもしれない!どうか私たちを、この宿屋を助けてくれないか!」
「お、お姉ちゃん。そんな、わるいよ!」
「そうだ。私達に貴様らを助ける義理はないのだからな!一宿一飯の義すらないからな。」
おぉーデュラハンよ、一宿一飯の義とかよく知ってんな。でもな、一宿はして無くても、一飯はしてるからな!お前だけは。
「何も、タダでとは言わない!報酬は出す!お客様は冒険者なんだろ?!だったら、ギルドに依頼すればやってくれるのか?」
「どうするんです?兄さん。」
「う〜ん...」
「そ、それじゃぁ、サービスするぞ!サービス!」
サービス...だと?!ケモミミっ子が?!
「入口で魔眼に映ったのはこれか!」
あぁー、言ってたな。誘惑し取り込もうとしている!だっけ?
「助けてほしいって、具体的に何をして欲しいんだよ。」
「助けるのですか?兄さん。」
「ま、これも何かの縁だろ。」
ケモミミサービス!ドキドキワクワク!
「......」
夢さん、ジト目を止めてぇ〜。
「具体的に?.....」
ポク、ポク、ポク、チーン!
「具体的に何すればいいんだ?!」
「おい!」
「お、お姉ちゃん...スミマセン、姉が。」
「いや、いいよ。で、シロエちゃん?」
「あ、はい。そ、そうですね。まずは、宿の設備、ですかね。そのために、お金を稼がないと。」
「何をするにも金がいる。厳しい世の中だな。」
「宿の準備が整ったら、今度は宣伝ですね。後は...」
「何するにせよ、この国の考えを変えなきゃ厳しいだろうな。なんせ、この宿屋はケモミ...亜人種が営業してるわけだしな。」
ケモミミっ子がいて、人気が無いなんて...バカめ異世界!
「そう、ですね。」
「で、どうするんです?兄さん。」
「ここまで聞いちゃ、助けるしかないよな!」
「そうですかねぇ〜?」
「ほういうもんらのか?(そういうもんなのか?)」
おい、デュラハン。オマエはなにちゃっかり食ってんだよ。口に物を入れながら喋るな!
「ただし、こっちも助けるんだから、そっちも俺達を手伝ってもらうぞ。」
「も、もちろんです!よよよ、よろしくお願いします!!」
「よろしく頼む!」
「あぁ、よろしく!」
──獣人の姉妹が仲間になった!
「そう言やぁ、姉の方は何て名前なんだ?」
「ん?私か?″マナカ″だ!」
「″クロ″じゃない?!」
「なぜクロだと分かった?!」
「どっちだよ!」
「クロこと、クロカ・ブリューナクだ!よろしくな!」
「あ、あぁ。ヒグナシエール・リュナサークだ。よろしく!」
「変な名前だな。」
オイコラ!そんなに変な名前か?
「まぁ、我の魔眼はクロカだと見通して「うるせえ!デュラハン!」
ロべリアは、出された食事を平らげた。