第一章4 『やっぱりお前は、最高だよ!』
目が覚めると辺りは既に暗く、暖かい光が身体を包んでいる。パチパチと火の爆ぜる音がする方を見ると、スライムがトカゲを焼いていた。
「うわぁ!」
あれからどれほど経っただろうか?俺は、最初に目覚めた、苔だらけの岩に囲まれた草原の真ん中で寝ていた。暗い筈なのに、何故だか昼間よりも視野が広くなっている。ヤドカリを倒してレベルが上がった事で、新しいスキルでも身に付けたのだろうか?
「!」
こちらに気付いたようで、スライムが近寄ってくる。
『...しもーし?』
何処からか女の子の声が聞こえてくる。とても懐かしい声。毎日のように聞いていた声が、心に直接響いてくる。
『おーい、もしもーし!』
いったい、何処の誰が話しかけて来ているのだろうか?辺りを見回しても、自分とスライムしか...
「スライム?!」
『スライムですよ。』
何とも信じられないが、どうやらスライムが話しかけて来ているようだ。おおよそ、その手のスキルか魔法が有るのだろう。喋るスライムと言うのは、何とも奇妙なものだ。
そしてスライムは、プニョプニョと話し始める。
『やぁ、おひ久しぶりですね。私の事、覚えてますか?』
懐かしい声。毎日のように聞いていた声。最も俺のそばにいた、彼女の名前は...
「夢?!」
『兄さん、また会えるとは。さすが私、予感的中です。』
朱瀬 夢、一つ年下の俺の妹だ。こういう展開では何ともベタな設定だが、訳あって家に引き取られた、言ってしまえば″義理″の妹だ。本当の親との繋がりを少しでも残しておきたいという本人の希望から、名字は昔のままにしてある。
『...』
「何だよ?」
『いえ別に。兄さんが、私をバカにした個人情報を誰かに話していた気がしたので、右腕を溶かしてやろうかと思っていただけです。』
バカにはして無いと思うのだが?
「いやぁ〜、可愛い妹との事を今一度、脳内整理してただけだよぉ〜!」
『キモイです、兄さん。』
実の...じゃ無いけど、兄貴にキモイとか言うなよ。兄さん傷ついちゃうよ?そんな事より...
「何で俺だって分かったんだよ?」
この見た目も声も、人だった頃の俺とは全然違う。それに、最初にあった時、偶然というよりは待ち伏せていたという登場の仕方だった。あの時から俺だと分かっていたのなら、竜の姿の時、既に気付いていた事になる。それもスキルだろうか?
『寝相です!キリッ』
「は?」
『寝相です!キリキリッ!』
「聞き返したんじゃねーよ!(あと、キリキリッ!って何だよ?!)」
『ならば何なのですか?兄さん。』
「え?なに?寝相で俺だって分かったの?」
『私を誰だと思ってるんですか?私は、ワールド・オブ・ニサリストなんですよ?!寝相で兄さんだと判断するなんて、朝飯前です。』
えぇー!何それ怖い!ニサリスト、てなに?
「イヤイヤ、竜の姿だったんだすよ?!寝相だけで分かるわけ無いじゃないだすか!」
『姿が変わろうと、クセを見逃す私ではありませんよ、兄さん。』
そんなに癖のある寝方なの?俺。
「いやそうじゃ無くて、夢も転生してたんだな。」
『おっと、いきなり話題を変えてきましたね。さすが兄さん、空気が読めてない所もそのままですね。』
「いや、変えていい話題だっただろ!」
俺の寝相の話とか、誰得だよ!
『まさか兄さんも転生していたとは思いませんでした。兄さんの事だから、どうせ魂事消し飛んだかと思っていました。』
「兄さん、心が痛いよ...」
にしても、こなに大きな星でちっぽけな俺をよく見つけれたなぁ。
「なぁ、夢は俺の近くに転生したのか?」
『違いますが、何故です?』
「あ、いやぁ、夢も...そのぉ〜...、死んだ時見たと思うんだけど....この星ってデカイだろ?!だから、よく俺に会えたな〜って思って。」
『あぁ、そう言う事ですか。聞いて驚く事なかれ!!』
「ワ〜〜、ビックリダナァ〜。」
『スライムの恐ろしさを、今一度教えてあげましょうか?』
「わぁぁぁぁ!!!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!つい!」
今度からは野生のスライムに出会ったら、迷わず逃げるを選択しよう!うん。
『コホンッ、では改めて。聞いて驚く事なかれ!!私は兄さんの事を、2千年以上もの間探し続けたのです!』
「!!....2千年?!」
そんな...、俺は2千年もの間寝ていたと言うのか?体感としては、死んで直ぐ転生したと思っていたんだが...。どういう事だ?
『どうやら兄さんは、相当長い間寝ていたようですね。』
なん...だと。
「あれから、...地球が落ちてからいったい、何年経った?!」
『そうですねぇ、聞いた話によると、約1万年前ですかね。私が目覚めたのは、今からだいたい3千年前の事ですから。』
あれから1万年。そんなにも長い間、俺は眠っていたのか?それとも、最近転生したばかりとか?
『私も詳しい事は知りません。何せ、とても昔の話ですから。』
とても昔、か。地球を落とした奴を、ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが...流石に生きて無いかな。悲しいな。地球が落ちたのはとうの昔で、やり返そうにも相手がいない...。はは、笑えねぇ冗談だな。
(...兄さん)
『に、兄さん、大丈夫ですよ!私がいます!そうだ、兄さんはこの世界の事、あまり知らないですよね?明日は街に行ってみましょう。この世界は、地球とは違う事が沢山ありますから、きっと楽しい事が待ってますよ!』
夢?
『近くに″イタモニラ・ミジャハ″と言う街が有るんです!ソコには亜人種なんかも住んでいて...兄さん、そう言うの好きですよね?明日の朝、向かいましょう。近いと言っても、歩きだと少し時間が掛かりますから。車なんて無いんですよ?!』
お前は...優しいな。
『ですから、サッサとそのトカゲ、食べてしまってください。そ、それで、早く寝てしまいましょう。明日の為に、今日の疲れを取ってください。明日は、冒険です!で、ですから...その....』
やっぱりお前は、最高だよ!自慢の妹だ!
『あ、あの...、ウワッ!兄さん?頭を撫でないでください!.....フフ♪』
「ありがとな、夢!」
『兄さん...?』
いつもそうだった。普段は愛想が無くても、俺が落ち込んだ時はいつも励ましてくれた。何千年経っても、夢は夢のまま...強くて頼れる、自慢の妹だ。
「ほら、明日は冒険なんだろ?!とっとと食って、ささっさと寝る!...ハム、ムグムグ....うおっ、うまい。焼きトカゲうまい!ハムッ、...早くしないと、夢の分も食っちまうぞ!!」
(♪)
『全く...、兄さんは直ぐ調子に乗りますね。私の料理が美味しいのは当然です。いやぁ〜、羽の付いた、もっと大きな赤いトカゲを使えば、更に美味しい料理が作れるんですがねぇ。』
「俺の事かよ!」
『それ以外の何処に、ドラゴンが居るんですか?』
いやいや、ドラゴン食うのかよ!まぁ、食ってみたい気はするけど。
「フンッ、残念だったなぁ!魔法の熟練度が足りなすぎて、右手しかドラゴンに戻れないのだ!(多分、弱くてもドラゴンは上位種だからかな?)」
『それは残念。では、早く兄さんのレベルを上げなきゃですね。』
「おいおい!俺を食う考えをそろそろ捨ててくださいません?」
『いいえ、兄さんは私だけの″もの″ですから!私以外に取られる前に、食べちゃいます!』
兄貴を、物呼ばわりするなよ!てか、夢 以外俺を食おうなんて言うやついねーよ!
「そんな事言ってると、トカゲ全部食っちまうぞ!」
『共食いですね。』
「ちゃうわ!」
今後の目的は、街に行って生活の拠点を見つける事だな。ここからだ!ここから始まるんだ、俺の....転生ライフが!
「あっ、それ俺のトカゲ!」