第一章3 『スライムとトカゲとヤドカリと』
特に宛もなく、どこに居るかも分からない、そもそも存在しているのか分からない″モンスター″を探して、草原を歩き回る。
「まぁね、ドラゴンが居るんだから、モンスターもね。」
そうして10分程歩いていると、前から一匹のスライムらしき物が近付いてきた。
目も無ければ口も無い。かと言って玉ねぎ型でも、青色ですら無い、半透明の物体。一言で表すなら、
──″スライム″
体高約60cmのソレは、正しくスライムだった。理科の実験などで作ったりする、一般的なスライム。
それが、何やらコチラに訴えかけてきている。
「♪」
好意を向けているのだろうか?いくらスキルに″ワードマスター″(自動翻訳)が有ったって、言語の無い生物の言いたい事なんて分からない。それでも何となく分かるのだから、スキルと言うやつは恐ろしい。
「♪」
尚もプニョプニョと動き、コチラに何かを伝えようとして来る。このスライム、初めて合う筈なのに...いや、モンスター自体が初めてだが、何だか久しぶりに合ったような気がする。まぁ、気のせいだろうが。
「?」
「わるいな、スライム。やっと見つけた経験値なんだ。」
そう小さく謝ると、俺はスライムに殴りかかる。
「くらえ!龍人拳」
俺は、マジックキャスターの通常攻撃でしかける。拳がクリティカルヒット.....したかと思えたが。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」
殴り飛ばそうとした右手の、スライムに触れた部分が溶けた。あの有名な″Dクエスト″以外のスライムは、大体強力な酸性で、触れたものを溶かす。そのため、俺の右手も溶けた。
「?」
大丈夫?とでも言いたげな様子で、コチラを心配そうに見つめて来ている。
「よし!」
俺は、スライムに背を向け、全速力でその場から逃げた。
──30分後
「ハァ....ハァ....」
スライムに負けるとは屈辱だ。始まりの村を出て、最初に出て来る雑魚に負けた。まぁでも、物理攻撃が効かないんじゃ相性悪いし、しょうがない(マジックキャスターだけど)。と、吹っ切り、次のモンスターを探す。
右手は″オートヒール″(自動回復)で治った。
今度は、トカゲが現れた。体高10cm程の、目が一つ、尻尾がニ本のトカゲ型モンスター。
「経験値、ゲットだぜ!」
俺は、トカゲを踏み潰そうとする。が、一発も当たらない。はずれる、はずれる、はずれる。すばしっこいトカゲに苛立ち始めた俺は、
「こうなりゃ魔法...」は使えない。
「あ"ぁぁぁ、クソォォォ!!!」
やけくそでジャンプ!そして、着地。ブチャ
「?!」
着地の瞬間何かを踏んだようだ。足の下を見てみると、そこにはモザイクを付けなきゃいけないような死に方をしたトカゲがいた。
と同時、テレレ〜テッテレレレ〜♪と言う効果音と共に力が溢れてくる。
「お、まさか...」
ステータスを見ると案の定、レベルが上がっていた。
◤ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
Lv 1
HP :73
MP :1
SP :30
攻撃力:92
防御力:33
会心 :28
職業 :マジックキャスターLv 2
種族 :火竜 Lv 3
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ◢
と言ったぐわいだ。
「おい、MP!」
レベルが上がってもMPは増えなかった。ただ、MP:1で使える魔法が一つ増えた。
ライター 消費MP:1
何とも弱そうな魔法。まぁ、無いよりマシだ。
それから小一時間、俺はトカゲを狩り続けた。一匹、二匹、三匹.....
──1時間後
現在ステータス
◤─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
Lv 10
HP :418
MP :1
SP :50
攻撃力:503
防御力:220
会心 :98
職業 :マジックキャスターLv 10
種族 :火竜 Lv 10
魔法:追加無し
スキル:火属性魔法ダメージ +30
火属性耐性+50
水属性耐性 -499959
オートヒール Lv7
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ◢
「MP!!!!」
レベルが10になってから、全然上がらない。それまでトカゲ一匹で1上がっていたレベルも、10を超すと、次のレベルまで経験値が30000必要になった。トカゲ一匹あたりの経験値50だ。
「レベル11とかムリだろ!」
それでも、この世界で生き残るには殺り続けるしかない。もはや作業になったトカゲ潰しを再開する。
ブチッ....ブチャ........グチャ
今や動きにもなれ、10〜20秒で一匹殺せるようになった。それでも経験値30000は遠い。
丁度三十匹殺したあたりで、前方から新たなモンスターが....
「ウワァァァ!!!スライムが現れたぁぁぁ!!!」
微速前進していたスライムは、ある程度コチラに近づいてから急加速。目にも止まらないスピードでトカゲ達を瞬殺した。
だが、俺は逃げない。何故なら....
「くらえ必殺、″ライター″!!!」
そう、今の俺は攻撃魔法が使える。つまり、スライムを倒せる。
俺の人差し指に火が灯る。地球で使っていたライターのような。
「お、おう...」
不安と焦りの中、手で銃の形を作りスライムに向ける。きっと魔力弾を飛ばすのだろう。手に銃を持ち、引金に指を掛けるイメージ。
「発射ぁぁ!!!」...しなかった。
この魔法、ただのライターのようだ。
俺は、またしてもスライムに背を向け、逃げた。スライムは追って来なかった。
数分逃げた先の草原に横になる。
何故こうなった?!どうして地球は無くなった?!何で俺がこんな辛いことやらなきゃいけないんだ?!様々な疑問と弱音が湧いてくる。
普通のご飯を食べて、普通に生活して、普通に生きて、普通のまま死にたかった。ましてや、異世界に行きたいなんて1度たりとも考えた事は無かったのに。
そのまま空を見上げ、ボーッとしていると、どこからか地響きが聞こえてくる。ソレはだんだんと、こっちに近付いてきているようで、俺は身体を起こして辺りを見回す。すると、向こうから土煙に紛れながら何百ものトカゲ....を追いかける巨大なヤドカリが現れた。体高約20m
「...ヤバイ」
今日1日でどれほど走っただろうか?疲れた身体に鞭を打ち、走る。と目の前にまたしてもスライムが現れた。
「クッ...」
挟まれた。前門の虎後門の狼、とはまさにこの事。
スライムがこちらに近付いて来る。俺は、死を覚悟した...のだか──
スライムは俺を飛び越し、真っ直ぐヤドカリの方へ突き進む。
「まさか、アイツ俺を守ろうとしてくれてたのか?」
今思えば、自ら殴りはしたものの、アイツから攻撃してくる事は1度も無かった。最初にあった時も、トカゲを殺していた時も。もしかして、あの時トカゲを倒したのは、俺が襲われていると思ったから?
「そうだったのか、....アイツは、俺と仲間になりたかったのかもな」
アイツは一匹だった。広野にただ一人の俺に対して、仲間意識が有ったのかも知れない。なのに俺は、経験値がどうのと攻撃して、勝手に敵だと思い込んで...ハッ、スライム!
スライムは、今もヤドカリに向かって突進していた。
「スライム!俺が悪かった。お前の事ちっとも理解しようとしないで。今度からは、しっかりと向き合うから!だから、......友達に成ろう!」
それでもスライムは突き進む。その背中は、とても寂しそうで、何処か嬉しそうだった。
「さすがのお前も、その数を相手にするのは無理だろ?!もういいよ!戻って来いよ!一緒に逃げよう!なぁ!」
スライムは止まらない。
「クッ...あ"ぁ、スライム...、スライムゥゥ!!!」
スライムが残像を残し消える。瞬間、トカゲが一掃される。
「....」
超高速で動くスライム。そのまま巨大ヤドカリに突進。一瞬にしてヤドカリの手足が消える。その後、勢いが弱くなりながら地面を滑り、俺の前で止まった。
「......」
小石をぶつけてみる。...コツン
テレレ〜テッテレレ〜♪
今のがトドメだったようで、レベルが上がった。ヤドカリの中からスライムが現れる。
「♪」
「...やぁ、スライム」
今はとにかく、.....寝たい。