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ミルクキャラメル

 日曜日の夜は、僕の鬱々とした気持ちを代弁するかのような空模様だった。

 

 夕飯を調達しにきたコンビニの前で、僕は曇天を見上げた。心の中で淀んだ雲を吐き出すように、溜息を一つつき、自動ドアをくぐった。店内は、顔を真っ白く塗りたくった人々で一杯だった。僕も彼らと同じように、冷たく凝り固まった心を持っていると思うと、気持ちが更に暗くなったような気がして、自然と大きな溜息が漏れた。なんだか無性に甘いものが食べたくなり、菓子コーナーを物色することにした。流行りのスナック菓子や、チョコレート菓子、どれもこれも何となく琴線に触れない。諦めきれず目を皿にしていると、ある菓子が何となく目に触れた。昔から変わらない黄色いパッケージ。僕は夢遊病の患者のように、誘蛾灯に誘われる虫のように、何処か懐かしいその菓子に手を伸ばした。透明なビニールのフィルムで包まれたそれを手にとって、優しく撫でる。何の変哲もないその菓子が、黄金のように思えた。子供の頃は好きだったのに、いつの間にか疎遠になっていた。どうして食べなくなったんだっけ、そんなことを考えながら一粒手に取り、そっと口に運んだ。コロコロと、確かめるように味わう。優しい甘みと、無邪気だったあの頃を思い出させる風味が、僕の心を包み込む。シルクのように優しい温かさが、僕の心を溶かし、果てに沈んだ陽だまりのような日々を撫でていく。

 

 小学生だった頃、生まれて初めての恋をした。クラスの違う、名前も知らない女の子だった。どうして恋をしたのか、彼女はどんな人だったのか。そんなこともすっかり忘れてしまうほど昔の話だ。今思えば、恋とは到底言えないような幼いものだったのかもしれない。けれど、僕は確かに、太陽の日差しのような、見るとどうしようもなく心が揺れる、彼女の笑顔が大好きだった。そう言えば、彼女はキャラメルが大好きだった。それを頬張った時に見せる優しさに溢れ、キラキラ輝いた笑顔が一番好きだった。だから僕も、彼女と同じ笑顔を浮かべたくて、彼女の知っている味を知りたくて、毎日キャラメルを食べていた。

 

 結局、奥手だった僕に、彼女に話しかける勇気なんてあるわけもなく、時が全てを洗い流し、今の今まで忘れてしまっていた。

 

 キャラメルは既に溶け、なくなっていたが、その甘美な味わいは未だにじんわりと残っていた。明日からまた、辛い毎日が始まる。だけれど、今の僕には頑張れる気がした。キャラメルを一粒食べる度に、やる気と勇気が湧いてくる気がした。もう僕の顔は色を取り戻し、心は干したての布団のように温かい。柄にもなく、スキップでもして帰ってやろうかと思った矢先、能面のように貼り付けた笑顔を、微かに引き攣らせた店員が声をかけてきた。


「お、お客様。そちらのキャラメルのお代を頂いても宜しいでしょうか」

 

 顔が真っ赤になった。


また数ヶ月はエターナルフォースブリザードします。

あ^~俺もなろうランキング上位からの書籍化コンボ決めて小遣い稼ぎしてえなぁ(正直者)

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