深夜に起こされた話
眠っていた私は、部屋の出窓をコンコンと叩く音で目が覚めた。
体にかかっていた薄っぺらのタオルケットを蹴飛ばすと、その勢いのままベッドから身を起こし、ボリボリと頭を掻きむしった。
ふと時計を見ると、短針は既にてっぺんを回っていた。昨日から吹きすさんでいた季節外れの暴君は、いつの間にか通りすぎていたようだった。
コンコン。コンコン。部屋と世界とを隔てる遮光カーテンの向こうから、薄い安物のガラスを叩く音がする。そうだ、私はこの音で起こされたのだ。一体何の権利があって、こんな夜更けに叩き起こされなくてはいけないのだ。
沸々と怒りが湧きだした私は、カーテンを勢い良く引き、出来る限り怖い顔をして窓を睨みつけた。窓には、目の下を腫れぼったくした鬼が映るのみであった。
「一体なんだというのだ」
この不可思議な現象に、私は少しばかりの恐怖を感じ、それを払い飛ばすかのように独り言にしては大きな声で、そう呟いた。
ふと視線を上げると、雲一つない濃紺の空に、沢山の星たちがキラキラと舞っていた。惚けるように彼らのワルツを見ていると、一際輝く星が降りてきて、窓をコンコン、コンコンと叩くのであった。
「そうか、君が私を呼んでいたのだね」
私がわかった風にそう言うと、星は肯定するようにピカピカキラキラ瞬いた。
ピカピカ。
キラキラ。
キラキラ。
ピカピカ。
星は、私をダンスに誘っているようだった。なるほど、こんな美しく幻想的な存在に誘われたなら、一夜限りの儚いショウに参加したくもなるだろう。
「だが残念だね。仕事で疲れているんだ。全く、そもそも君たちが好き勝手にエーテルを撒き散らすもんだから、私たちの仕事が終わらないんだ」
自由気ままな星たちによるエーテル汚染はひどいものだった。このままでは、現実と幻想とが入り混じり、鉄筋コンクリートのビルの合間を、火を吹くドラゴンや、空飛ぶ絨毯が飛び回る日も近いと、環境問題の専門家が言っていた。
「私はまだ、ドイツの星屑売りになるつもりはないよ」
そう吐き捨てると、目の前でシャボン玉のようにプカプカ浮いていた憎き綺羅星を鷲掴みにし、そのまま地面に叩きつけて、粉々に砕いてやった。砕けた星は、上質な白糖のような色から赤褐色に変化すると、そのままフワーッと浮き上がり、煙草の煙がそうするように、空高く霧散していった。
後には欠片一つ残らなかったが、ハッカ入りの水飴のようなエーテルの残り香が、私の鼻腔を刺激した。
完全に『一千一秒物語』に影響されて書いたわけだけど、どう考えてもあのレベルに到達する日が来ると思えない。
やっぱプロ凄いわ。