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不器用彼氏・彼女

作者: 月代彼方

 何故私がこの物語を書こうかと思ったかというと、この物語は、高校生の純愛で記憶喪失の女の子と、スポーツマンの男の子との不器用な恋愛を書かせて頂きました。よろしければ一度読んでみて、意見等をお聞かせください。

 俺の名は『白金(しろがね) 春人(はると)』! 見た目は筋肉質で、黒髪の短髪で髪を逆立てており、性格は曲がった事は許せない。いわゆる真面目タイプである。俺は『恋ヶ浜学園』に通う二年生で陸上をやっている。そして部活の帰り道、不思議な少女と出会う。

「ふああ~、やっと終わった!」

 部活帰りに背伸びをして春人が答える。

「ん? あれは?」

 そう言って春人は橋の上から身を乗り出してる女性を見つける。その女性は髪が長く、綺麗な茶色い色をしていて、瞳はパッチリとしており、肌は透き通るように白くスレンダーな体の女性だ。

「おい、そんな所で何やってるんだ? 危ないぞ!」

「えっ?」

 少女は俺の呼びかけに驚き、ふと俺のほうを見る。

「あっ……」

 その瞬間、彼女は体制を崩し、橋から落ちそうになる。

「あ、危ねえ!」

 俺は彼女が橋から落ちる前に彼女を抱きかかえる!

「大丈夫か?」

「う、うん……ありがとう……」

 そして俺は我に帰る。俺は彼女を抱きかかえたままだという事を……。

「ご、ごめん……」

「ん? 何が?」

「そ、その……君に触れてしまって……」

「どうして謝るの? あなたは私を助けてくれたんだから、私の方こそお礼を言わなきゃいけないのに。ありがとう助けてくれて」

「えっ? いや、どういたしまして」

「……」

「……」

 そしてしばらく沈黙が続き、俺が彼女に問いかける。

「ところで、こんな場所で何をやっていたの?」

「? ? ? う~ん? さあ?」

 彼女自身も何故ここにいるのか分かってないようだ。

「へっ?」

 俺はあっけに取られる。

「気づいたらここにいたの?」

「そ、そうなんだ」

(この子変わった子なのかな?)

「ところであなたは誰?」

「あっ、自己紹介がまだだったな。俺は『恋ヶ浜学園』に通う二年の『白金 春人』! 君は?」

「私は『聖林女学院』に通う『桜田(さくらだ) (なぎ)』!」

 彼女は元気よく答える。

「あ~、もうこんな時間! ごめんね、私帰らなきゃ!」

 彼女は腕時計を見て慌てる。

「えっ、あっ、ちょっ……」

「それじゃあね」

 そう言って彼女は帰って行った。

「何だったんだ? 一体?」

 そして俺も家に帰った。


 そして次の日、俺は彼女の事が気になり、部活帰りに彼女と出会った橋のもとへ急いだ。

「はあ、はあ、いた……」

 そこには昨日出会った彼女が橋を見下ろしている。

「又、こんなところにいたのか?」

「あっ、えっ~と、確か……『白金』君?」

「何で又、この場所に来てんの?」

「あはは、それはね……実は私にも分からないんだ」

「どういう事?」

 俺は呆れながら答える。

「う~ん? 何て言ったらいいのかな? 実は私、最近の記憶がないんだよね」

 彼女は何事もないかのように答える。

「なっ、それって大変な事なんじゃ……。もしかして記憶喪失ってやつ?」

「ううん違うよ。記憶がないっていうのはここ一ヶ月くらいの記憶だけだから……。それより前の記憶はちゃんとあるから大丈夫だよ」

「そうなのか? っていやいや、一ヶ月でも記憶がないって事は大変な事だろ?」

「そんな事ないよ。生活する分には全く問題ないから」

 彼女は明るく答える。

「いやいや、そういう問題じゃねえだろう。まったく……放っとけねえな。あのさ、何か困った事があるなら何でも聞くからさ」

「優しいんだね『白金』君は」

 彼女は満面の笑みで答える。

「べ、別にそんなんじゃ……」

 俺は顔を真っ赤にする。

「ところで『白金』君ってこんな遅い時間に帰ってくるって事は何か部活でもやってるの?」

「えっ? あ、あぁ……陸上で走り高跳びをやってる」

「へえ~、そうなんだ? 凄いね」

「いや、別に凄くはねえよ。それに君もこんな遅い時間にここにいるって事は君も何か部活をやってるとか?」

「呼び捨てでいいよ」

「えっ?」

「名前」

「あ、あぁ……それじゃ『桜田』」

「うん。あっ、私が何でこんな遅い時間にここにいるのかって事だよね? 実は私も最近まで陸上をやってたの。長距離の」

「やってた?」

「うん。私、事故に遭ってねその影響で走れなくなっちゃたの……」

「わ、悪い……。変なこと聞いて……」

「別に謝らなくてもいいよ」

「もしかして記憶がないのって事故の影響?」

「う~ん? そうだと思うけど覚えてなくてよく分からないんだ……」

「そっか……」

「それでリハビリのために、なるべく歩くようにしてるの」

「足は大丈夫なのか?」

「うん。歩くぶんには問題ないよ」

「そっか……」

 俺はうつむき加減に答える。

「嫌だ、そんなに暗くならないで。私は全然大丈夫なんだから」

「はは、そうだよな……ごめん……」

 俺は小声で答える。

「だから謝らなくてもいいってば」

「そうだな……。あっ、そうだ! 又ここに来たら君に会えるかな?」

 俺は彼女に質問する。

「えっ? うん。多分いつもこのぐらいの時間にはいると思うけど……」

「それじゃあさ、又会いに来てもいいかな?」

「もちろんいいよ」

 彼女は力一杯答える。

「そっか……それじゃ、又会いに来るよ」

「うん! 待ってる」

 そして俺は彼女と別れた。そして俺は次の日も又次の日も彼女と会った。そして一週間後の部活の時間。カランカラン! 俺はいつもなら軽く飛び越えていた走り高跳びのバーを何度も地面に落としていた。

「『ガネ』さんどうしたんっすか? 今日は調子悪いみたいっすね?」

 こいつは俺の部活仲間の『周防(すおう) 大地(だいち)』。茶髪でロングヘアーで髪をオールバックにしており、又彫りの深い顔ででおまけにがたいもよく、ダビデ像に似てるから皆からは『ダビデ』と呼ばれてる。

「何だ『ダビデ』か……」

「ってそれ、何気に酷くないすっか?」

「悪いな」

「いや、別にいいすっけど、それよりどうしたんすっか? 最近元気ないすっね?」

「いや、別に何でもねえよ……」

「そうっすか? それならいいっすけど……」

 そう言って『ダビデ』が練習に戻ろうとした時、俺は『ダビデ』を呼び止める!

「なあ、『ダビデ』、一つ相談したしたい事があるんだけどいいか?」

「何っすか?」

「俺の友達が陸上やってたんだけど、事故が原因で走れなくなったんだ。お前ならどうやって元気づける?」

「う~ん? そうっすね? あっ、俺なら遊びに誘うっすね」

「遊び?」

「そう、その人は普段頑張ってると思うっすから、息抜きのためにも遊びに連れて行ってリフレッシュさせたらどうっすか?」

「リフレッシュね……。うん、いいかも、サンキュー『ダビデ』!」

 そして俺は部活帰りにいつもの橋に向かう。すると彼女は今日も同じ場所にいた。

「よう『桜田』! 遅くなって悪い!」

「いいよ気にしなくて。『白金』君は部活やってるんだから遅くなる時もあるよ」

「そ、そっか……ところでよ、今日は話があるんだけどいいかな?」

「? ? ?」

 彼女は不思議そうな顔をしている。

「あ~、その~、何だ。『桜田』っていつも頑張ってるだろう。だからさ、今度二人でどこか出かけねえか?」

「それってひょとしてデートって事?」

「あっ、いあや、別に深い意味はねえんだ。『桜田』はいつも頑張ってるだろう。だからたまには息抜きでもしたらどうかな~って思ってさ……」

 俺は慌てふためく。

「う~ん?」

 彼女は考え込む。

「べ、別に嫌ならいいんだけど……」

「いいよ、行こ」

「そうだよな……やっぱ無理だよ……ってえっ? いいの?」

「うん」

 俺は予想外の返事に動揺する。

「それでどこに連れて行ってくれるの?」

「えっ? それは、えっ~と……当日のお楽しみって事で」

「えっ~どこに行くか知りたいな~」

 彼女は甘えた声で聞いてくる。

「だ~め!」

「う~、まっ、いっか」

 彼女は不満そうな顔をしている。

「そ、それじゃ今度の週末でどう?」

「うん、いいよ」

「そっか……それじゃ今度の日曜に駅にある大時計の前十時でどう?」

「うん、分かった。それじゃ楽しみにしてるね」

 そして俺は彼女とデートの約束をし彼女と別れた。

「やっべ~、俺デートなんかした事ねえから何すればいいか全然分かんねえぞ! どうすんだ?」

 俺は何をしていいか分からないので、とりあえず本屋で情報収集するために本屋へと向かった。


「う~ん? どれがいいかな?」

 俺はデートに関する本棚の前でどれをかえばいいのか悩んでいた。

「こんなに種類があるのかよ! 一体どれを買えばいいんだ?」

「『ガネ』さん! こんな所で一体何やってんすっか?」

「おわ~~!」

 俺は不意に声を掛けられ、驚きそして持っていた本を咄嗟に後ろに隠した。

「何だ『ダビデ』か、驚かすなよ!」

「いや、驚いたのはこっちすっよ! ところで『ガネ』さんこそこんなところで何を見てたんすか?」

「えっ、俺? 俺が見てたのはえ~っと、そう、これだよ。これを買いに来たんだよ!」

 そう言って俺は近くに置いてあった本を『ダビデ』に見せる。

「筋肉の付き方初級編? 『ガネ』さん、こんな本を買いに来たんすか?」

「あ、あぁ、そうだよ。悪いか?」

「いや、別に悪くはないすっけど……」

「そう言うお前は何買いに来たんだよ?」

「俺っすか? 俺は今週発売の漫画を買いに来たんすっけど」

「あぁ、そうかよ。それじゃ、俺は忙しいから、それじゃあな」

 そう言って俺は後ろに隠していたデートに関する本を下にし、筋肉のつけ方という本を上にし、レジに持っていった。

「ありがとうございました」

 そして俺は足早に家に帰った。


 そして俺は部屋に着き、そこで買ってきた本を開けた。

「ふう~、何で俺はこんな本を買ったんだ? ただでさえ金がねえっていうのに……」

 そ言って俺は筋肉のつけ初級編という本を、封も開けずに本棚に直す。そして俺は初めてのデート編という本を端から端まで読んだ。

「ふむふむ、なるほど。最初はこうすればいいのか」

 そして俺は眠れぬ夜を過ごした。


 そして次の日、俺は彼女と待ち合わせをしている大時計に向かった。彼女は集合十分前にも関わらず、彼女はすでに大時計の前で俺を待っていた。

「ごめん、遅れたか?」

「あっ、やっと来た。さっきから私、色々な人にナンパされて大変だったんだから」

「本当にごめん!」

 俺は深々と彼女にお辞儀する!

「なあ~んてね、ウソ、ウソ! 私なんかナンパする変わった人なんていないって。それに『白金』君は時間通りに来たんだから気にしないで。私が早く来すぎただけなんだからそんなに気にしなくていいよ」

(いや、普通に可愛いんだから危ないだろう!)

「ん? どうかした?」

「あっ、いや、何でもねえ! 今度からは気をつけるよ!」

「もう、気にしなくていいって言ってるのに、それじゃ、早く行こ?」

 そう言って彼女は俺の手を引く。

「えっ、あっ、ちょ……」

(うわ~! 『桜田』の手って滅茶苦茶柔らけえ! って去れ、煩悩!)

「ところで今日はどこに連れて行ってくれるの?」

「それは着いてからのお楽しみ♪」

 そして俺は彼女を『動物園』に連れて行った!


「あっ、見て、見て、キリンさんだよ! 首なが~い!」

「そ、そうだな……」

「あっ、あっちには熊さんがいる! 格好いい! けど何かぬいぐるみとは違うね?」

 彼女はキョトンとしている。

「そうだな……」

「あっ、あっちにはお猿さんの親子がいる! 可愛いね!」

「そうだな……」

(って何で俺はさっきから同じ事しか言ってねえんだ? もっと気の利いた事は言えねえのか? これじゃ、予習した意味がねえじゃねえか)

「あっ、あっちでふれあい広場をやってるって! 行ってみよ?」

「あ、あぁ……」

 俺達は近くでやっているふれあい広場に向かった!


「きゃ~、見てこの子。凄っく可愛い!」

 そう言って彼女はウサギを抱きかかえる。

(うっ! って言うか『桜田』の方が何倍も可愛いって! って何で直接本人に言えねえんだ? 俺は?)

「そ、それよりも……」

「ん? なあに?」

「それよりも……」

「それよりも?」

「き、き、き……」

「き?」

(言え! 言うんだ! 『春人』! 君の方が何倍も可愛いって)

「き、今日は晴れて良かったな?」

「うん、そうだね!」

 彼女は満面の笑みで答える。

(くう~、我ながら情けねえ~)

 そして俺達は何の進展もないまま、ふれあい広場を後にし、お土産やへと向かった!


「うわ~、いっぱい種類があるね?」

「そ、そうだな……」

 俺は相変わらずだった。店の中には動物関連のグッズや動物たちの餌や、お饅頭などのお土産、動物の形をしたキーホルダー等、様々なものが並んでいる。

「ここにはキーホルダーが置いてあるのか。おっ!」

「どうしたの? 何か珍しい物でもあった?」

「いや、そうじゃなくて懐かしいものが置いてあるなあって」

「何? 懐かしい物って?」

「ほら、これだよ!」

そう言って俺は彼女に『ミサンガ』を見せる。

「これ知ってるか? この『ミサンガ』が切れたら願い事叶うってあったじゃんか?」

「うん、知ってる。そういえば、あったね」

「俺、小学校の時に買って貰った『ミサンガ』まだ切れてねえんだよな」

 そう言って俺は腕についてる『ミサンガ』を見る。

「そうなんだ……。あっ、じゃあ、こうしない? 私も『ミサンガ』をつけるからどっちが先に切れるか勝負しない?」

「えっ? ま、まあ、別にいいけどよ。それより『ミサンガ』持ってるの?」

「ここで買うの!」

 そう言って彼女は吊ってある『ミサンガ』を手に取る。

「あっ、じゃあそれ俺が勝ってやるよ」

「えっ、いいよ。そんな悪いし……」

「いいから、いいから」

 そう言って俺は彼女が持っていた『ミサンガ』を持ってレジに行く。

「はい!」

 そして彼女に『ミサンガ』を渡す。

「ふふ、ありがとう。」

 そう言って彼女は『ミサンガ』を着ける。

「これでお揃いだね」

「お、おう……」

(うっわ~、俺が勝った『ミサンガ』をしてくれた。 それにこれっていわゆるペアルックって奴じゃないのか? 凄っげえ嬉しい!)

「ねえ、勝負しない?」

「勝負って?」

「どっちが早く『ミサンガ』が切れるか」

「勝負か……いいぜ! やってやる!」

 俺は自信満々に答える。

「おっ、さっすが~。それじゃあ、どっちが早く願いを叶えて『ミサンガ』が切れるか勝負ね! 負けた方は勝ったほうの言う事何でも聞くってのはどう?」

「おっ、面白そうだな。よし、その勝負乗ったぜ!」

「それじゃ、よ~い、スタート!」

 こうして俺は『ミサンガ』がどっちが早く切れるか勝負する事になった。

「ねえ、これで私達もう特別な関係だよね?」

「えっ? それって?」

「私達もう親友だよね?」

「えっ? 親友? あ、あぁ、そうだな」

 俺は苦笑いする。

(何だ、親友か……)

「それじゃ、これからは名前で呼び合わない?」

「えっ? マジ?」

「ダメ?」

「いや、駄目じゃねえけど……」

「よし、それじゃ、決まり~」

 こうして俺達は名前で呼び合う仲になった。友達より上の関係になったのは嬉しいけどなんか複雑な気分だ。まあ、一歩前進って事か。そして俺達はお土産屋を後にする。


「なあ、小腹すかねえか?」

「あっ、そうだね。ねえ、私お弁当を作ってきたんだけど一緒に食べない?」

「えっ? マジ? ま、まあ別に俺は構わないぜ!」

(何で素直に食べたいって言えねえ~んだよ! 俺は?)

「本当? それじゃ、行こ」

 そう言って俺達は近くのベンチに座った!

「ねえ、どう? おいしい?」

「う~ん? まあまあかな?」

(滅茶苦茶旨いのに、何で素直に旨いって言えねえ~んだ!)

「う~ん、そっか……」

彼女はあごに手を置き、うつむく。

(まずい、気を悪くさせちゃったかな。そりゃそうだよな。せっかく作ってきたものにケチつけられたら誰だって怒るよな。今からでも旨いって言わなきゃ……)

「あ、いや、その……」

「うん、私もそう思ってた。私の腕じゃまだまだお母さんには適わないからな~」

「そ、そっか……」

「ねえ、今度又作ったら味見してくれない?」

「えっ?」

「今度こそ絶対においしいって言わせてみせるんだから」

「ふっ! 俺を満足させられる料理を作れるかな?」

(って何で素直に慣れねえんだ? 俺は?)

「あ~、言ったな! 今度こそ絶対においしいって言わせてみせるんだから」

(いや、もう十分においしんだけど……)

 そして閉園時間になる。

「今日は誘ってくれてありがとう!」

「いや~、そんなたいした事はしてねえよ。それより息抜きになったか?」

「うん! とっても楽しかった! 又、機会があったら誘ってね?」

「ま、まあ……気が向いたらな」

「うん、待ってる! それじゃあねバイバイ!」

 彼女は手を振って帰っていった。

「又って事は、又誘ってもいいって事だよな? よ、よし、次こそは絶対に成功させてみせるぞ!」

 そして俺も自宅に帰った。


 それから俺は彼女に毎日のように会いに行った。そして数日後。

「はあ~」

 彼女が大きなため息をつく。

「どうした? 大きなため息をついて?」

「あっ、ごめんね心配かけちゃって」

「別にいいけどよ、悩みがあるなら何でも聞くぜ?」

「本当? それじゃあ思い切って話すね。最近私ついてないなあ~って思って。この前ショッピングしてたら、欲しい服があったから、レジに持っていたの。でも店員さん同士話し続けてて、結局欲しい服が買えなかったの。それに行列に並んでたら順番抜かしされるし、私ってそんなに存在感薄いかな?」

「そんな事ねえよ。それはそいつらが悪いわけだし、俺だったら『凪』がどこにいてもすぐに分かるよ」

「ふふ、ありがとう」

 彼女はニッコリと微笑む。

(っていっても何で皆彼女を無視するんだ? わっかんねな~? それに彼女も結構落ち込んでるみたいだしどうすっかな? 何か彼女を元気付ける方法はないかな? そうだ、よし)

「な、なあもし良かったら今度二人で買い物でも行かねえか?」

 俺は思い切って彼女を誘ってみる。

「えっ?」

 彼女は不意な質問に戸惑っている。

「ほ、ほら、欲しい服があるんだろう? 今度又そのお店に行って服を買いに行こう?」

「でも……」

「大丈夫だって! 今度店員が無視しても俺が服を買ってきてやるからさ」

「本当?」

「あぁ、だからさ今度一緒に出かけようぜ?」

「うん!」

 彼女は力一杯頷く。


 そして週末、俺は彼女と一緒に買い物に出かけた。そして俺達は彼女が無視された店に向かった。

「この店?」

「うん、そう」

 彼女は小声で答える。そして店をまわる事数分。

「欲しいものあった?」

「うん。あっ、それじゃこれ買って来るね」

 そう言って彼女は店員のもとへ行く。しばらくして彼女は戻ってきた。

「どうだった?」

 彼女は首を横に振る。

「そっか……それじゃ俺が買ってくるよ」

 そう言って俺は彼女が欲しがっている服を持ってレジに行く。

「どうだった?」

 彼女は不安そうに聞く。

「おう、バッチリ!」

 そう言って俺は買った服を彼女に渡す。

「店員さんに『プレゼント』ですか? と聞かれて包装までしてもらったよ」

「ありがとう」

 彼女は包装されている服をぎゅっと抱きしめる。

「それじゃ、他の場所に行こっか?」

「うん、そうだね」

 そして俺達は別の場所に移動する。


「なあ、あれから何か思い出した事あるか?」

「ううん。なあ~んにも」

「そっか……そう言えば記憶をなくす前の最後の記憶って?」

「え~っとね、確か最後に行った合宿所だったかな? 合宿最後の日に何かの事故に巻き込まれて気がついたら病室だったの。だから何があったのか全く覚えてないの」

「そっか、なあその合宿所ってどの辺にあったか覚えてる?」

「うん。ここからだとちょっと遠いかな」

 そう言って彼女は合宿所がある場所を教えてくれた。

「確かに遠いな」

(本当なら彼女を連れて行けば何か思い出してくれるかもしれないけど、日帰りで帰ってこれる距離じゃないしな~。かといって旅館をとるような余裕はねえしな~。何かいい方法はねえかな?)

 そして俺は何気なくポケットに手を入れる。すると一枚の紙切れが出てくる。

「ん? 何だこれ?」

 それはさっき買い物したときに貰った福引券だった。

(確かこの先に福引所があったよな。どうすっかな?)

「あのさ、さっき服を買ったときに福引き券を貰ったんだけどさ、これやる?」

「そうなんだ。あっ、それじゃ『春人』が引きなよ」

「俺? 俺そんなにくじ運良くねえしな~」

「いいから、いいから」

 そう言って彼女は強引に俺を連れて行く。

「はあ~、一杯並んでんな。まだ一等は出てねえみてえけど」

 そして俺達の番が回ってきた。

「頑張れー!」

 彼女は俺を力一杯応援する。

「いや、いや、そう簡単には出てねえって」

 そして俺はゆっくりと回す。カラカラという音を立てて、玉が出る。そして俺がゆっくりと目を開けると、そこには金色の玉が出ていた。

「これは?」

 カランカラン! という鈴の音が鳴り響いた。

「おめでとうございます。一等の温泉宿泊チケットです」

「マジ?」

「やったね」

 彼女はジャンプして喜んでいる。

(あれ? これってさっき彼女が言ってた合宿所近くの温泉宿なんじゃ……よし)

 俺は彼女の記憶が戻るかもしれないと思って、思い切って彼女を誘ってみる。

「なあ、『凪』、俺と一緒に行かないか?」

「えっ?」

 彼女は不意の出来事に驚く!

「あっ、いや、決してやましい気持はないんだ。ここってさ、『凪』がさっき言ってた合宿所近くの場所だからさ、行って見たら何か思い出すかなあ~って思って……」

 俺はアタフタして自分でも何を言ってるのか分からなくなっている。

「ふふふ、そんなに慌てなくても」

 彼女は笑って答える。

「いいよ、分かった、行こう!」

 彼女はそんな俺を見て微笑んで答える。

「えっ? 本当に?」

「うん。このまま何もしないでいても多分記憶は戻らないと思うし、それなら記憶の手掛りになる場所に行った方がまだ見込みはあるものね」

「よ、よし! そ、それじゃ今度の週末一緒に行こうか?」

「うん、そうだね! 一緒に行こう!」

「お、おう!」

(よ、よし二人で旅行に行く約束を取り付けたぞ! つっても彼女の記憶を取り戻すために行くわけだし、あまり羽目を外さねえようにしねえとな)

 そう言って俺は心の中でガッツポーズをする。そして俺は本屋に立ち寄って合宿場所の地図を買って家に帰った。そして俺は家に帰ってすぐに地図を確認して、今度行く合宿所の予行練習をした。


そして週末になり、俺は待ち合わせのために、駅に向かった!

「ちょっと早く来すぎたかな?」

 俺は彼女と会う一時間前に到着した! そして三十分後彼女は待ち合わせ場所にやってきた!

「あれ? もう来てたの。早いね」

「それはこっちの台詞。一体いつ来たの?」

「いや、さっき来たとこ」

「ふふ。何それ! 可笑しい」

 そう言って彼女は微笑む!

「えっ? なんか可笑しかったかな?」

「ううん! そうじゃなくて今の会話、他の人が聞いてたら私達付き合ってる思われちゃうかもね?」

「えっ? いや、別に俺はそれでも……」

「ん? 何か言った?」

「い、いや何でもねえ! それじゃ行こっか?」

「うん、そうだね!」

 そう言って俺達は駅に行って電車に乗り、合宿所のある温泉町に向かった!


 電車に揺られる事四時間、ようやく温泉街に着いた。

「やっと着いたー!」

 俺は思いっきり背伸びをする。

「長かったね?」

「あぁ、そうだな。それじゃ行くか?」

「ねえ、それよりも寄り道してかない?」

「いや、いあや何しに来たんだよ。『凪』の記憶を取り戻すために来たんだろ? 寄り道してる暇なんかねえ~って」

 俺は手を左右に振って呆れる。

「え~、旅行っていったら観光とか食べ歩きするのが定番でしょ? ねえ、ダメ?」

 彼女は両手を合わせて上目遣いに俺を見上げる。

「うっ、はあ~分かったよ。それじゃ、ちょっとだけな」

「ありがとう」

 彼女は満面の笑みで喜ぶ。

(そんな顔されたら断れねえ~って)

 そして俺達は合宿所に行く前に横丁に入った。

「うわ~、色々な食べ物が一杯あるね~。全種類食べたいな~」

「もうすぐお昼だからあんまり食べちゃ駄目だって」

「う~、食べたいな~」

 彼女は恨めしそうに食べ物を見ている。

「はあ~、分かったよ。それじゃ、一つだけな」

「えっ、いいの? それじゃどれ食べよっかな?」

 彼女は楽しそうに選んでいる。

「う~、あれもいいな~。これもいいな~。」

 彼女は何を食べようか迷っている。

「何食べるか決まった?」

「あっ、ちょっと待って。う~、悩むよ~」

「何をそんなに悩んでんだ?」

「う~んとね、ビーフコロッケを食べるかこっちのメンチカツを食べるか迷ってるの」

「分かった。それじゃ、両方買って俺と半分こずつにしよう」

「えっ、いいの? やった~!」

 彼女は大喜びする。そして俺は両方買い彼女と半分こする。

「ありがとう」

 そして俺達はコロッケにかぶりつく。

「おいしいね?」

「確かに」

 二人でコロッケをたいらげる。

「次は何食べようかな~?」

「もうお昼だからダメ?」

「えっ~、もう少しくらい……」

「だ~め!」

「うっ、は~い……」

 彼女は少しすねている。そして俺達は近くの定食屋に入り、海鮮丼を食べた。

「美味しかったね?」

「そうだな。やっぱり海の近くだからネタも新鮮だったしな」

 俺達は定食屋を後にし、本来の目的、彼女の最後の記憶がある合宿所に向かう。

「あっ、ねえ、ここ寄ってこ?」

 彼女が足を止めたのは神社の前だった。

「えっ? いや、だから寄り道してる時間は……」

「見て! ここパワースポットがあるんだって。他には縁結びの神様や商売繁盛それに、

どんなお願い事も叶えてくれるんだって! ね、いこ?」

「はあ~、分かった! それじゃあ、ちょっとだけな」

「うん」

 彼女は笑顔で喜ぶ。

(そんな顔されたら断れねえって)

 そして俺達は神社に入る。そして本殿をお参りし、おみくじの前で足を止める。

「あっ、おみくじがあるよ。ねえ、引いてこ?」

 そして彼女がおみくじを引く。

「何が出るかな?」

 ドキドキして彼女はおみくじを見る。

「やったー! 大吉だ!」

「へえ~、凄いな! で、何て書いてあるんだ?」

「ん~とね、願い事は近いうちに叶うだって。恋愛運は諦めかけてた人と結ばれる兆しありだって」

「恋愛って、誰か好きな人でもいるのか?」

 俺は興味本位に彼女に尋ねる。

「うん、いるよ!」

 彼女はキッパリと答える。

「えっ? だ、誰?」

「な・い・しょ」

 彼女は意地悪そうに答える。

「それじゃヒントは?」

 俺はしつこく食い下がる。

「え~、しょうがないな~。私が好きな人は一緒に悩んでくれる人かな」

「それじゃ全然わかんねえって。俺の知ってる人? せめて最初の頭文字だけでも?」

「もう教えないってば。それに『春人』にだけは絶対に教えられないからね」

「何でだよ?」

「鈍感……」

 彼女は小声で話す。

「えっ? 何か言った?」

「ううん。それよりも次は『春人』の番だよ」

 そして次に俺がおみくじを引く。

「だ…大凶……」

 俺はがっくりと肩を落とす。

「まあまあ、大凶って中々出ないんだよ。逆にいい事あるかも?」

「どんな慰めだよ」

「で、何て書いてあるの?」

「えっ~と、願い事は遠ざかるであろう。恋愛運は後悔するであろうか。はあ~、何だこれ?」

「何だろうね? まっ、後悔しないようにすればいいって事だよ。元気出して!」

 彼女は俺に気遣う。

「そうだな」

「それじゃあ、おみくじを枝に結ぼ?」

 そして俺達はおみくじを木の枝に吊るす。そして次に俺達は絵馬を見つける。

「ねえ、絵馬があるよ。書いていこ?」

「ったく、しゃあねえな。ここまできたら最後まで付き合うよ」

 そして俺達は絵馬を書く。

「ねえ、『春人』はなんて書いたの?」

「俺? 俺よりも『凪』は何て書いたんだ?」

「私? 私はねえ、『春人』が陸上でいい成績が取れますようにって」

「なっ、俺の事?」

「うん」

 俺は顔を真っ赤にして喜ぶ。

「それで『春人』は?」

「俺? 俺は『凪』の記憶が早く戻りますようにって」

「ふふ、ありがとう」

「なんか俺達自分の願い事書いてねえな」

「本当だね」

「さっ、それじゃ奉納しようぜ?」

 そして俺達は絵馬を奉納し、神社を後にする。


「ねえ見て! おいしそうなアイスがあるよ」

「えっ? 又、食べるのか?」

 俺は呆れ気味に答える。

「せっかく来たんだし食べよ。ね?」

「はいはい分かりました。買ってきますよ。で、何食べたい?」

「私マンゴーアイス食べたい」

「マンゴーアイスね。分かった買ってくるよ」

 俺はアイスクリーム屋でマンゴーアイスと桜ソフトを買って戻る。

「はい、お待たせ」

「ありがとう」

 そう言って俺は彼女にマンゴーアイスを渡す。

「あっ、そっちのアイスも美味しそうだね。一口ちょうだい?」

「えっ? あ、あぁいいよ」

 そう言って俺がスプーンを取りに行こうとすると、彼女はパクっと一口俺の持っているアイスを食べる。

「美味しいね」

「なっ……えっ……あっ……」

「ん? どうかした?」

「い、いや何でもねえよ」

 声が裏返る。

(い、今、直接食べたよな? こ、これって間接キスなんじゃ……)

「私のも食べてみる?」

 俺が焦っていると、彼女が俺に問いかける。

「えっ? あっ、あぁ……俺は大丈夫……」

「そう?」

(しまった。せっかくのチャンスを……。はあ~、俺って意外と度胸がなかったんだな)

 そして俺達はアイスをたいらげた。

(天然なんだか、無防備なんだか?)


 そしてしばらく歩いていると灯台が見えてきた。

「ねえ、ここの灯台登れるんだって。行ってみない?」

「別に俺は行ってもいいけどよ、足大丈夫か?」

「平気平気これくらい。それにこれくらい登れないとリハビリにならないでしょ」

「分かった。でも無理はするなよ」

「うん、分かった」

 俺達は灯台の頂上まで登る。俺達が頂上に着くとちょうど夕日が綺麗な時間帯だった。

「綺麗……。ねえ、ここからの景色最高だね?」

「……そうだな……」

 ちょうど夕日が彼女と重なって彼女が髪をかき分けるたびに俺は彼女に見入っていた。それから俺達はしばらくの間、その場にいた。

「さてと、そろそろ行こっか?」

「そうだな……」

 そして俺達は灯台を後にする。そして海辺を歩いていると、向こうから金髪のスタイルのいい外人が向こうから走ってきた。そして俺はその子の後を目で追う。

「あっ、今あの子の事見てたでしょ?」

「えっ? あ、あぁ……」

「もうやらしいな」

 そう言って彼女は俺の肩を叩く。スカッ! けれど彼女は俺の肩をかすめる。

「? ? ?」

 彼女は俺の肩を叩く事が出来なかったので不思議がっている。そして彼女は何事もなかったように話す。

「でもあんなスタイルのいい子じゃ見るのも当然か。私と違って」

「そうじゃねえよ」

「えっ?」

「『凪』もいつかはあんなふうに走れるようになるといいな~って思ってさ」

「も、もう……『春人』ったら」

 彼女は恥ずかしがっている。

「ん? どうかした?」

「な、なんでもないよ」

「そうか?」

「う、うん。でも、ありがとう」

 彼女は小声で答える。

「何か言った?」

「ううん、何にも。それより早く行こ?」

「あぁ、そうだな」

 そして俺達は旅館に向かった。


そして俺達は旅館に到着する。

「ふー、やっと着いた」

 俺は安堵の表情をする。

「長かったね」

「誰かさんが寄り道ばっかしてたからな」

「あ~、ひっ~どい~。それって私が悪いって言う事?」

「そんな事言ってねえよ。今日はもう遅いから合宿があった場所は明日行こうぜ?」

「うん、そうだね」

 そして俺はチェックインを済ませ、部屋に案内される。

「ごゆっくりどうぞ」

「あっ、どうも」

 そして俺達が案内されたのは一つ部屋だった。

「しまった。部屋が一つしかないんだった……」

「まあ、しょうがないよ。商店街の福引で貰ったものなんだから」

「もう一部屋空いてないか聞いてこようか?」

「いいよ別料金取られるし、それに私は『春人』と同じ部屋でもいいよ。『春人』が嫌なら別にいいけど……」

 俺は力一杯首を横に振る。

(か……彼女と同じ部屋で一晩過ごす事になるなんて……。なんか緊張するな……)

「ねえ、今日はもう疲れたから温泉にでも入らない?」

「そうだな……今日はもう疲れたし、風呂でも入りに行くか」

 そして俺達はお風呂場に向かう。

「ねえ、先にあがった方は、ここで待ち合わせしない?」

「そうだな、そうしよう」

「それじゃあね」

「おう」

 そして俺達はそれぞれのお湯につかりに行く。そして俺は男湯ののれんをあけ、風呂場に向かった。

「おっ、奥に露天風呂もあるのか?」

 俺が入った時、まだ誰もお風呂の中にはいなかった。そして俺は体を洗ってから、奥にある露天風呂につかりに行った。


 露天風呂は霧が掛かっていて、あまり前が見えなかった。そして俺は露天風呂の真ん中の辺りでお湯につかる。

「ふう~、いい湯だな~。今日は一日疲れたから、疲れが吹っ飛ぶようだ~」

「本当だね~」

「あぁ、そうだな……」

 俺は聞き覚えのある声に気づく。そして霧が少し晴れると、そこには彼女が温泉に浸かっていた。

「あれ? 何でここにいるの?」

「えっ? ……きゃ~~」

 耳を裂くような声が響き渡る。

「わ~、ちょっ落ち着けって」

 俺は慌てる彼女をどうにか、なだめようと必死になる。

「どうして『春人』がここにいるの?」

 彼女も何故俺がここにいるか分からず困惑しているようだ。

「それはこっちの台詞だって」

「ここ女湯だよ」

「いや、確かに俺は男湯に入ったって」

「それじゃあ、どうしてここにいるの?」

「それは……」

 そして俺は何故こうなったかを考える。

「それは多分、露天風呂だけ男湯と女湯が繋がってるからなんじゃないのか?」

「そんな~、わ、私出るね……」

 そう言って彼女が立ち上がろうとした時、男湯から人が入ってくる。

「ど、どうしよう……」

 彼女は人が入ってきて慌てる。

「だ、大丈夫! 君は俺が守るから」

「どうやって?」

「とりあえず俺の後ろに隠れて。それであの人達からは見えないはずだから」

「う、うん……」

 彼女は俺の後ろに隠れる。そして男性が出て行くとすかさず俺は彼の跡についていき、露天風呂入り口に立つ。

「誰も入って来ない内に女湯に戻って」

「う、うん……」

「俺がここで誰も入ってこないか見張っとくから」

 俺は彼女に背を向ける。

「うん……ありがとう『春人』……」

 そして彼女は女湯に戻った。

「ふ~、心臓止まるかと思った。いいもん見れたけど、こういうのは御免だな」

 そして俺はお湯にもつからずにさっさとお風呂を出て、浴衣に着替える。すると彼女はすでに俺を待っていた。そして彼女も浴衣を着ている。

(うっ、浴衣姿の彼女も可愛いな。は、早くその事を言わないと……)

「さっきはありがとね」

「えっ? あ、あぁ、気にすんな。それより腹減ったな? メシ食いに行こうぜ?」

「うん」

 彼女は笑って答える。

(くう~、何で言えねえんだ俺は?)

 俺達は夕食を食べに行った。そして夕食を食べ終えて部屋に戻る。


「あっ……」

「ん? どうした?」

 部屋に入ると布団が一つしか敷いてなかった。

(不味い……さすがにこれはマズイよな……)

「俺、フロントに行ってもう一つ布団を敷いてもらえるように言ってくる」

「ね、ねえ……」

「ん? 何?」

 俺がフロントに行こうとすると、彼女が俺を呼び止めた。

「私なら大丈夫だよ……」

「何が?」

「一緒の布団で寝ても……」

「えっ?」

 俺は彼女の答えに驚く。

「ほ、ほらもう遅いしさ、旅館の人も大変だろうしそれに『春人』何もしないでしょ?」

「も、もちろん何もしないさ」

 俺は不意に質問に声が裏返る。

「でしょ? 私『春人』の事信用してるもん」

(うっ、そんな純粋な目で見られたら何も出来ねえって)

 そしてポツポツと雨が降ってくる。

「雨か……」

「そうだね……」

「……」

「……」

 そしてしばらくの間沈黙が続いた。

(何話せばいいんだよ? 間が持たねえ。こうなったら……)

「そ、それじゃ……今日はもう疲れたし、そろそろ休もうか?」

(って何言ってんだ俺は?)

「そうだね……」

 そして俺は部屋の明かりを消す。そして俺が布団に入ると、彼女も布団に入ってくる。

(ん? 今何か柔らかいものが当たったような……って何考えてんだ俺は? 何も考えるな。平常心、平常心)

そして激しく雨が降る。そしてピカッーと外で雷が鳴る。

「きゃ~」

すると俺の背中に彼女が抱きつく。

(なっ……これじゃ平常心を保てねえって……)

「ごめん……私、雷が苦手なの……」

(彼女が怖がってる時に何考えてんだ俺は)

「お、俺の事は気にしなくてもいいぜ! 怖いものは怖いんだしな。俺でよければいくらでも力になるよ」

「ありがとう……」

 彼女は小さな声で答える。

「あのね……本当は私これが全部夢だったらいいのにって思うの……」

「どうして?」

「何で私走れなくなっちゃたんだろうとか、何で私事故に遭ったんだろうとか、何で私だけこんな目に遭うんだろうとか、リハビリしても一向に良くならないし、目が覚めたらこれが全て夢だったらいいのにって思うの……」

「『凪』……」

 俺は彼女の言う事を黙って聞く。

「それにね、私怖いの……」

「怖いって何が?」

「私がどういう事故に遭ったのか? それでもし記憶が戻ったら今までの事を全部忘れるんじゃないかとか、それで私が私じゃなくなっちゃうんじゃないかって……」

「俺さ、今スランプなんだ。まあ『凪』心配に比べたらどうって事ねえけど、俺は陸上で一位を取りたい……。でも一位を取れなくたって、今まで頑張ってきた事が無駄になるわけじゃない……。あっ、俺が何を言おうとしてるかだけど、つまり『凪』は『凪』! もし記憶が戻って『凪』が変わってしまっても俺は『凪』の見方だから……。今までと何も変わらないよ。だから全てを否定しないで……。記憶を取り戻す事を怖がらないで」

「うん……ありがとう……優しいね『春人』は……」

「べ、別に俺は優しくなんかねえよ」

 俺は照れながら答える。

「私、一つだけ分かった事があるの」

「何?」

「私『春人』と出会えた事だけは感謝している。この事だけは夢じゃなくて良かったと思えるの」

「『凪』……」

 そして『凪』はぎゅっと俺を抱きしめる。

(なっ……)

「私ね、私……『春人』の事がす……」

(す? もしかしてこれは?)

「す……スースー」

 彼女は寝息を立てて寝ている。

(って寝たのかよ)

 そして俺は眠れぬ夜を過ごした。


 そして夜が明ける。結局俺は一睡も出来なかった。

「おはよう」

「おはよう」

「昨日は良く眠れた?」

「あぁ、まあな……」

「それじゃ、朝食食べに行こっか?」

「そうだな……」

 そして俺達は朝食食べ終えた後、チェックアウトした。俺達が旅館を出ると、昨日まで振っていた雨が止んでいた。けれどその辺に水溜りの後があった。そして俺達は彼女がいた合宿所に向かった。


 そしてバスに揺られる事一時間、ようやく俺達は彼女がいた合宿所に到着した。

「なあ、何か思い出したか?」

「う~ん? そうだな? あっ、ここのコートでよく練習してたな~」

「そっか……他には?」

「う~ん? 他には……何もないかな?」

「それじゃあ別の場所にも行ってみるか?」

「うん、そうだね」

 そして俺達は他の場所にも行った。けれども彼女は、別段思い出した事はないようだった。そしてその帰り道、昨日の雨で増水している橋の上に出た。

「ここは……うっ……」

 彼女が頭を抱えてその場にうずくまる。

「どうした? 大丈夫か? 『凪』?」

「う……うん……平気……」

「しばらくここで休もうか?」

「うん……ごめんね……」

「気にすんなって」

 そして五分後彼女はゆっくりと立ち上がる。

「もういいのか?」

「うん……大丈夫。さっ行こ」

「あ、あぁ……」

 俺は彼女の苦笑いに違和感を感じつつもその場を後にする。そして終始彼女は空元気を演じていたが、俺はそんな彼女の事を気にしつつも最後まで旅行を楽しんだ。そして俺達はもといた場所に戻ってくる。

「ようやく戻ってきたな」

「そうだね……」

 彼女は元気なく返事する。

「送っていこうか?」

「ううん平気。ここでもう大丈夫だよ。それじゃあね」

 俺は彼女といつも会っている橋の上で彼女と別れた。


 そして俺はそんな彼女の態度が気になって事故の事を調べる。そして俺は彼女の記憶の手掛りを知るために図書館に行った。そこで俺は彼女の記憶がなくなっている三ヶ月間の新聞を全て調べた。そして俺は彼女の乗っている記事を見つける。

「ん? これは? まさか……そんな……」

 俺はそこで『衝撃の事実』を知る事になる。そして俺は一つの疑念を疑う。

「『春人』! こんな所で何やってるの?」

「えっ?」

 俺は不意に声を掛けられ持っていた新聞を後ろに隠した。

「ん? どうかした?」

 彼女は覗き込むように答える。

「いや、何でもねえよ。それよりどうしたの?」

 俺は首を横に振り、話題を変える。

「うん、私『春人』に話したい事があって……」

 彼女はうつむき加減で答える。

「何? 話したい事って?」

「うん……ここじゃちょっと……」

「? ? ? それじゃ場所を変えよっか?」

「うん……」

 彼女は元気なさそうに答える。そして俺は彼女の後を着いて行った。そこは彼女と初めて会った橋の上だった。

「私達、初めてここでであったんだよね?」

「えっ? あ、あぁ、そうだったな」

「私、『春人』に随分世話になったね」

「んな事ねえよ。俺だって『凪』に会って随分楽しかったし、お互い様じゃねえ?」

「優しいね。『春人』は」

「? ? ?」

 俺は彼女が何を言ってるのか分からなかった。

「私、事故にあった記憶覚えてないって言ったでしょ? だからあの時の事を必死になって思い出そうとしたの。でも駄目だった」

「べ、別にいいんじゃねえか。今のままでも。そんなに苦労もしてねえだろう?」

「うん、そうだね……。でも、それじゃ駄目だと思ったの。今のままだったら私、この先ずっと『春人』に迷惑をかけてしまうと思うの」

「そんな事気にすんな。俺なら全然大丈夫。もっと俺の事を頼りにしてもいいしよ。それに俺、人に頼られんのって結構好きだし」

 彼女は首を横に振る。

「それじゃ、いつまで経っても私、前に進めないわ」

「『凪』……」

「それでね私、事故の会った事を振り返ってみたの。そして私は全て思い出したの。『春人』のお陰でね」

「……」

 そして彼女が事故の事をゆっくりと話し始めた。

「あの時、私は陸上部の合宿で練習をしていた。その時、川で溺れている小さな男の子を見つけたの。その時私は助けなきゃと思って、川に飛び込んだわ。そして私は男の子を助けて岸にあがろうとしたら足を滑らせて、そのまま下流に流されたわ。そして私が気づいたら橋の上に立っていた。『春人』と会ったあの橋に……」

 俺は信じたくなかった。俺が図書館で見つけた新聞には事故の詳細が小さく載っていた。彼女は小さな男の子を助けて、自分は足を滑らせて、そして下流に流されたと……。

「そ、そっか……でも無事で良かったな!」

 彼女は首を横に振る。

「あの後以来私は病室で眠っているの。ずっとね」

「ずっとって?」

「今、ここにいる私は本当の私じゃないの。私は子供を助けた後、意識不明の重体になって私の体は今でも病室で眠っている」

「何を言って……はっ!」

 そう言って俺は今までの不可解な出来事を思い出す。彼女が皆に無視されている事や、温泉宿で布団が一つしか敷いてない事、彼女が俺の体をすり抜けた事などを思い出す。

「今ここにいる私は、魂だけの存在。いわゆる『生霊』って奴なんだと思う。私もつい最近気づいたんだけどね」

「『凪』……」

「でも、もうそれもお終い。私は自分の体に戻らなきゃいけないの」

「でも、でも……ちゃんと戻れるんだよな?」

「それは分からない……。もしかしたらこのまま一生目覚めないかもしれない」

「そんな……」

「それでもこのままの関係をずっと続けていくわけにも行かない。だから決めたの。私は自分の体に戻るって」

「そうか、でもその前に俺は君に伝えなくちゃいけない事があるんだ」

「何?」

「俺は、俺は君の事が……」

 俺が彼女に告白をしようとした時、彼女は指で俺の唇を押さえる。

「ありがとう……『春人』……。」私は『春人』といれて良かった。私は『春人』の事をす……」

 それ以上彼女は言葉を発せられない。そして彼女は一息ついて。

「『春人』……私の事は忘れて素敵な人を見つけてください……」

 そして彼女の体が透ける。

「持ってくれ! 俺は……俺は……君の事が……」

 そう言って俺はその場に泣き崩れる。それを見て彼女は『春人』の頬を優しく触る。そして彼女はニコっと笑って天高く上っていき、跡形もなく消えた。

「そんな事出来るわけないだろう。俺は……俺は……お前以外の人を好きになるわけないだろう」

 そう言って俺は何時間もその場で泣き崩れた。


 数日後。彼女は病院のベットの上でも目覚める。

「ここは……」

「『凪』! 良かった! 目が覚めたんだな!」

「お父さん……お母さん……」

 彼女が目覚めると彼女の両親が傍らで泣き崩れている。

「良かった。『凪』気がついたんだね?」

「そっか……私、助かったんだ……」

 そう言って彼女は不意に自分の腕を見る。するとそこには見覚えのある『ミサンガ』が腕に巻かれてるのを見る。

「夢じゃなかったんだ……」

 彼女は『春人』との出会いが夢じゃない事に気づく! そして腕を上げた瞬間、彼女の腕に巻かれていた『ミサンガ』が切れる。

「あっ、そっか。夢が叶ったんだ」

 彼女は切れた『ミサンガ』を見て微笑む。


 数日後、彼女は退院し、『春人』に会いに始まりの場所に行った。すると、そこには見覚えのある後姿があった。

「はあ~~」

 俺は大きなため息をつく。

「こんなところで何をやってるの?」

「えっ?」

 俺は見覚えのある声に振り向く。するとそこには彼女が立っていた。

「そんな……まさか……」

 そう言って俺はその場に泣き崩れる。

「又、泣いてるの? 泣き虫さん」

「『凪』……良かった……。目が覚めたんだな……。俺、俺……」

「うん、これのお陰でね」

 そう言って彼女は俺があげて切れた『ミサンガ』を見せる。

「ねえ『春人』、覚えてる? 私、病室で目覚めた時、腕にはめてある『ミサンガ』を見てあなたとの出会いが全て夢じゃないって気づいたの。そして、その後すぐにはめてある『ミサンガ』が切れたの。ふふ、夢が叶ったのね、きっと……」

「あ、あぁ……そうだな……」

 そう言って俺は又、泣き出す。

「あぁ……もう泣かないで……」

 そう言って彼女は俺の頭を優しくなでる。

「俺……『凪』に言わなきゃならない事があるんだ!」

「何?」

「ふう~~!」

 そして俺は一息ついて答える。

「俺は、俺は『凪』の事が世界中で一番好きだ! 俺は『凪』以外の人をこの先一生好きになる事はない! だから、だから俺と付き合ってください!」

 そう言って俺は深々とお辞儀をして、彼女に手を差し出す!

「私も……私もずっと前から『春人』の事が好きだったから、凄く嬉しい!」

 彼女は泣いて答える。

「じ、じゃあ……」

「私でよければ……」

 そう言って彼女は優しく俺の手を取る。

「や、やった~~!」

 そして俺は拳を突き出し、思いっきりガッツポーズをして喜ぶ!

「でも、本当に私なんかでいいの?」

「違う! 俺は『凪』じゃなきゃ駄目なんだ! だから、絶対に後悔しない!」

「うん……分かった。それじゃ、よろしくお願いします!」

 彼女はニッコリと笑って答える!

「お、おう! 任せとけ!」

 俺は自信満々に答える! するとその瞬間、俺が小学校の頃からしていた『ミサンガ』が切れる。

「あっ」

「『ミサンガ』が切れた。はは、願いが叶ったからかな?」

「願いって?」

「もう一度『凪』に会えますようにって」

「ありがとう」

 そう言って彼女は俺に微笑む。

「えっと、それで何をすればいいのかな?」

「えっ?」

「私達これから付き合うんでしょ? だから付き合うって具体的に何をすればいいのかなって」

「うっ!」

 俺は正直何も考えてなかったので何をしていいのか分からなかった!

「そんな事だと思った」

「面目ない」

「あっ、そうだ! 約束したの覚えてる?」

「約束って?」

「ほら、先に『ミサンガ』が切れた方のいう事を何でも効くって言う約束」

「あ、あぁ、覚えてる」

「それじゃ、はい?」

「えっ?」

 そう言って彼女は俺に手を差し出す。

「一緒に手を繋いで帰ろ? それが私の願い」

「そ、そうだな……」

 俺は顔を真っ赤にしながら彼女と手を繋いだ。こうして俺の奇妙な体験は終わりを迎えた。けれども俺はこの奇妙な体験に感謝している。何故なら俺はかけがえのない大切なものを見つけたからだ。だからこの先何があっても俺は彼女以外の人を好きにはならないだろう。俺は本当の恋を知ったのだから……。永遠の愛があるのか俺には分からない。けれど俺は何があっても彼女と協力して乗り越えていけるだろう。二人で。こうして二人の物語は続いていくのである。



                           ― 終わり ―


 この作品を読んで頂き、まことにありがとうございます。良ければこの作品のご意見等をお聞かせください。あまりきつい事を書かれますと心が折れてしまうので優しいコメントをお聞かせください。

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