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06


『では続いてレベル3だ』


 倒れた訓練用ロボットを別のロボットが片付け終わるのを確認して、源治おじさんは言った。


『本当なら一つづつレベルを上げていくんだが、操作を覚える事と妄想力を発揮するのを目的としいる以上、ギジオレと同程度の相手をするのは意味が無いと思う。だがら、現状のギジオレ以上の戦闘力を持ったロボットと対戦してもらおうと思う』


 勝手な事を言う。俺としては少しずつ相手を強くして行って貰った方が気は楽なのだが。


『なあに、さっきみたいな妄想力が発揮出来れば問題無く撃破出来るはずさ』


 そう言われるとやっぱり恥ずかしい。俺が何を考えて妄想力を発揮したかまでは知られていないのだろうが、邪な事を考えた事が知られたようで複雑な気持ち。邪な事を考えていないとは言わないが、こんな気持ちで妄想力は発揮出来るのだろうか。


『まだ妄想指数が不安定だな。迷ってるみたいだ』


 それもバレるのか。


『まあ始めよう。ちょっと壁ぎわまで下がってくれ』


 言われて、俺は壁方向に後退する。気づけば移動は自然と出来るようになっていた。


 俺が壁まで来ると、地面が二つに割れ、大きな空間が現れる。そして、身長で言えばギジオレの倍、体積で言えば数倍もありそうなずんぐりとしたロボットがせり上がってきた。


『レベル3の相手、CK03だよ』


「ちょっとデカすぎない?」


 ロボットを見上げる俺とギジオレ。


『そういう設定だからな』


 あっさりと言う源治おじさん。


『つぶされちゃうんじゃない?ちょっと大丈夫なの?』


 可奈子と同様の不安は俺も感じている。ダメージは入らないとは言ったが、倒されたら痛いだろうし、だいぶ吸収されているとは言え衝撃は伝わる。


『危害が及ぶようだったらこちらから中止するから心配するな。とにかく、こいつを撃破する事を考えてくれ』


 まあとにかくやるしかないらしい。


 どうしよう。またあれを思い出すのか?と、悩んでいるうちに


『ふむ。さっき程では無いが妄想指数が高まって行く。妄想力の発揮の仕方を掴んだのかな?』


 なるほど、それを悩んでいるのも妄想なのか。なんかなおさら恥ずかしい。


 とは言え妄想力は現在いくらか出ているようなので、とりあえず試しにギジオレの身長ほどはありそうなロボットの足にむけて、パンチを繰り出す。CK01に放った時の物とは段違いのスピードとスムーズさで、拳は足を捉えた。


 なるほど、こう言う事か。


 理解出来、なかなかいいパンチが直撃したものの、CK03はびくともしなかった。CK01とは確かに強さも硬さも違いそうだ。


 俺はそうやって何度もパンチを繰り出すが、CK03にダメージを与える事が出来ない。繰り出したキックも当たりはするが、傷一つ付ける事も出来なかった。


 反面、CK03が手で払っただけで、ギジオレは吹っ飛んだ。交通事故にでもあったような衝撃があってもおかしくはないが、減衰されているおかげで揺れた程度で済んでいる。よく考えればギジオレってよく出来てるな。


 ある意味衝撃はさほど気にしなくていい事が分かり、俺は立ち上がるとCK03に向けて走り込む。その勢いのまま飛び込むように拳を打ち込む。


 ガァイィィィン!


 鋭い金属音と共にX03の体が少しだけへこんだ。へ?これだけ?渾身のストレートのつもりだったんだけど。


『洸平君。動きはいい。妄想力も発揮されている。しかし、こいつを倒すにはさらに大きな妄想力が必要だ』


 源治おじさんはそう言うが、俺にはこれ以上どう妄想力を発揮させればいいか分からない。おれはがむしゃらに攻撃を続け、吹き飛ばされ続ける。


「あー」


 何度目か吹き飛ばされた後、俺はギジオレを立ち上げる事が出来ずにその場に大の字になって上空の宇宙空間を眺めていた。


 疲れたし、心が折れそうだ。星でも数えようか。


『ねえ、もういいんじゃない?』


 俺の様子を見てか、可奈子が心配そうな声をあげた。


『そうだな……少し休憩にしようか。その間にどうすればいいか考えよう』

 

 源治おじさんの言葉を聞きながら、俺は目を閉じた。


 数秒だが眠っていたらしい。


『よし、洸平君体制を整えてくれ』


 源治おじさんの声に俺は目を覚ました。いくらか落ち着く事が出来た。


 相変わらずCK03はずんぐりと佇んでおり、俺とギジオレを見下ろしている。今は稼働を一時停止しているらしいその姿は、登場した時と何も変わっていない。


『一応対策を考えた。ひとまずこっちもデータ取りもしたいので、これからギジオレに可奈子にも乗ってもらう』


 少し心がどきっとした。


『ふむふむ。そうか……」

 

 やべ。気づかれたか?


『まあいい。どうにかこうにか可奈子を説得したから、これからそちらに向かわせる。ギジオレを座らせて待っててくれ』


 どうにかこうにかが気になるが、そう言われたのでギジオレを座らせてハッチを開けて待つ。しばらくすると壁の一部がひと一人が通過出来るくらい開き、可奈子が歩いてきた。


 俺だけだが、なんか気まずい。妄想力を発揮するために可奈子を利用したみたいで、自己嫌悪に陥りそうになる。


『なるほど……妄想力が高まっているな』


 うわ。俺の心の揺れ動きが源治おじさんに知られているようで恥ずかしい。さっきから恥ずかしい思いをしてばかりだ。


 可奈子は不満そうな顔をして近づいてきた。可奈子は運動神経は悪く無いので、ギジオレの膝の梯子に手を掛けると戸惑う事なく上って来て、さほど時間もかからずにコックピット下まで到達した。


「ほらよ」


 と、手を引いてやり、コックピットに持ち上げる。


『お?』


 おじさん黙ってて。


「何よ。その格好」


 可奈子はヘルメットを被った俺を指差し、笑う。自分では見る事は出来ないが、あまり似合っていないであろう事は分かる。


「思ったよりも広いわね」


 可奈子がコックピットの中を見回した。シートは二つだが、他に二人は余裕で収容出来るだろう。背後以外の三方向は窓になっているため、それほど閉塞感は感じない。


 俺はコックピットのハッチを閉める。


「ちょっとヘルメット貸して」


 可奈子はそう言って、俺の頭からヘルメットを取った。近づてきた可奈子から、ちょっといい香りがする。


「ふーん。結構手が込んでるのね」


 ヘルメットの内部をまじまじと観察して言う。


「はい」


 ひとしきり観察し終えると、そう言って両手でヘルメットを持って俺の頭に被せて来る。顔が近い。


『おおー!妄想指数がどんどん上がって行くぞ!」


 源治おじさんの声にはっと我に帰る。 


『今ならこいつを倒す事が出来るかもしれん。急いで準備にとりかかれ!」


 俺は源治おじさんの言葉に急いでシートに座り、シートベルトを締める。状況に急いでいると言うよりは、可奈子と顔を合わせていられない。何だろう、不思議な気持ち。


「可奈子もシートベルト締めろよ」


 可奈子には源治おじさんの声は届いていないので、俺は後ろも見ずに言うと、


「これ?締めればいいのね」


 そう言ってかちゃかちゃと装着を終えた。


『すごい妄想指数だ。まだまだ増え続けている』


 源治おじさんの声を聞きつつ、俺はギジオレを直立させる。自分でも不思議な位のスムーズさで。


「あんまり揺れないのね」


 感心したような可奈子の声が聞こえる。俺はそんな声が聞こえるだけで体の中が熱くなる。なんだろう、ギジオレと繋がっているからだろうか。


「じゃあ行くぞ」


 俺ははやる気持ちを抑えるように静かに呟く。


『では稼働を再開する』


 源治おじさんが合図すると、CK03はこちらに向かって来た。CK01の動きとは段違いのスムーズな速さで。


 俺もそちらに向けて走る。その勢いのまま拳を突き上げて突っ込んで行く。


 拳が炎に包まれたような気がした。何か大きな力がのり移ったような拳は、ほとんど抵抗を感じる事なく巨大ロボを貫いた。


『おーすごい!こんなパワーが出るのか!」


 興奮する源治おじさんの声を聞きながら、俺はなぜか冷静だった。


 ゆっくりとシートベルトを外す。


 まるで自分の体じゃないみたいだ。夢を見ているような感覚でふらりと立ち上がる。


「ねえ、すごいじゃない!どうやったのよ」


 可奈子もシートベルトを外して言って来る。ああ、頭がくらくらする。


『洸平君?おかしいな、妄想指数の上昇が止まらない』


 源治おじさんの声もまるで遠くで聞こえるようだ。


「洸平?」


 俺が返事をしないので、可奈子は俺の方に回り込んで来た。


「何?どうしたの?」


 心配そうに顔を覗き込んでくる。大きな目がまっすぐ俺を捉える。


『ギジオレが受け止められる妄想力にはまだ限界がある。これ以上は受け止められないぞ!』


 源治おじさんはそう言って来る。だが、なぜだか俺の体はどんどん熱くなって来る。意識しないように意識すると意識してしまう。自分でも何を言っているかわからない。


『洸平君、そろそろ――マズイ、逆流し始めた』


 その言葉が合図になった訳ではないが、頭の中が真っ白になった。何も考えられなくなり、何も感じない。


「え?どうしたの?目がおかしいんだけど」


 わなわなと震え始め、目の焦点が合わない。


『いかん!このままでは暴走する!』


「ちょっと、どうしたのよ」


 可奈子が俺の肩を揺する。その瞬間、何かが頭の中で弾けた。


「ちょっと、きゃ!」


 考える間もなく、俺はシートに可奈子を押し倒していた。心の奥底から何かがふつふつと湧き上がって来るのを抑えられそうにない。この感情は何だ?初めて経験するようで、今までずっと感じていたような、不思議な感情。


 手に力が入る。このまま可奈子を——


 だが次の瞬間、可奈子の渾身の右ストレートが俺の顔面にクリーンヒットした。俺はスローモーションのように仰向けに倒れ、ヘルメットが転がって行く。


 目覚めの一発に、俺は沈んだ。


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