05
俺は地球連合軍の訓練場にいた。地球の衛星軌道上にある連合軍のコロニーの一つが丸ごと訓練場となっており、その中の幾つもある訓練場の一つに、俺はギジオレに搭乗して立っていた。
透明なドームに囲まれた円形のコロッセオのようなその訓練場は大気で満たされており、人工重力も完備してある。ギジオレの身長ほどの高さの壁に囲まれており、その上に展望席と言うか見学席のようなものがあり、源治おじさんと可奈子はそこからこちらを見ていた。
「あの。ちょっと状況がわからないんだけど」
先程まで地球の倉庫のような場所でラジオ体操していたのだが、ふいにやって来た巨大な輸送艦にギジオレごと収容され、こんな所に連れて来られた俺はどうすればいいのだろう。
『いや、やっぱり操作を覚えるには実際に使用するのが早いと思ってね。何の意味もなく手足を動かしていてもあまり役には立たないだろう。で、ここで実際に仮想敵と戦ってもらって、戦闘時の動きだとかを実戦形式で経験する事で洸平君とギジオレのレベルアップを狙いたい』
「物騒な事言われてるなぁ」
理にかなってはいる。だが、俺は承諾した覚えは無いのだが。
『それより、どうやって連合軍とコンタクトしたのよ。一般人がおいそれと入れるような場所には思えないんだけど』
『昔ちょっと軍にいた事があってね。未だにそのコネが有効で良かったよ』
『そんな話初めて聞いたわよ』
『若い頃の話だよ』
俺も初めて聞いた。外宇宙の脅威に立ち向かうために結成された地球連合軍となると、エリート中のエリートが集まるものだと聞いた事がある。町の謎の発明家として名を馳せている源治おじさんのイメージとの乖離が激しい。
『それはそうと、時間も限られているから始めよう。本当は一週間前に予約してたんだけど、キャンセルしなきゃならなくて迷惑かけたからね』
あー、一週間警察署に展示されてたヤツね。
『まあ、難しく考えるな。君は妄想力のままに戦って撃破してほしい。ここで洸平君の妄想力はモニターしている』
「それが難しいんだけどな」
『じゃあ始めよう。まずは初歩のレベル1からだ』
俺の言葉を無視した源治おじさんは、そこで何かを操作したようだった。すると、前方の茶色い壁が音も無く左右に開く。切れ目など見当たらなかったが、扉だったのだろう。
そこにはロボットがいた。ゆっくりと近づいて来る。
『まずはこの訓練用ロボットCK01を戦闘不能にしてもらいたい。まあ、こいつはそんなに苦労はしないはずだ』
ロボットの大きさはギジオレの半分程。鉄骨を骨格模型のように組み合わせたような、ひょろっとしたロボットだ。確かに強そうには見えないが。
「簡単に言うなぁ」
『心配するな。攻撃はしてくるが、向こうから大きなダメージを与えてくる事はほとんどない。それに、もし攻撃があったとしてもギジオレは見た目以上に頑丈だよ』
「いまいち信用出来ない」
ギジオレの安っぽいプラモデルみたいな外見を思い出す。俺がそう思うのも無理はない。
『では戦闘開始だ』
結局俺の言葉は無視して、源治おじさんは宣言する。その宣言を合図にしたのか、CK01の目が光る。
俺としてもこのままいてもこのロボットに攻撃されるだけだし、帰れる訳でもないので言われた通りに訓練を始める。
まずは一歩一歩ロボットに近づく。何気にギジオレを歩かせたのは初めてだ。視界は揺れるが、衝撃は吸収されているのかさほど感じない。
ロボットの前まで来た。と、ロボットはゆっくりとしたモーションでパンチを放って来た。俺はゆっくりとした動きでしゃがんで避ける。そしてがら空きになったロボットの腹部にゆっくりとパンチを繰り出すイメージで右の操縦桿を倒す。拳は直撃はしたが、あまりにもゆっくりすぎてダメージを与えるにはいたっていない。
『太極拳みたい』
ゆっくりとしたやりとりを見てか、可奈子が呟いた。
やはりいちいち考えながら動かしているせいか、スピードは遅くなるし、反応も遅くなる。この調子で撃破なんかできるのか?
『そうやって慣れていけばいい。まずは妄想力は意識せずに、動きをイメージするのを優先でいい』
とにかく、色々動いて試してみよう。俺は右足を上げてロボットを蹴り飛ばすイメージをしてペダルを踏み込む。
ギジオレの足は空を切り、ギジオレはバランスを崩して倒れた。さすがに倒れるとちょっと衝撃があるな。
少し手こずりながら起き上がり、CK01を両手で掴んでみる。手首を掴もうと思ったが肩を掴んでしまい、逆に手首を掴まれてしまう。
手首を掴まれた状態で身動きが取れなくなり、脱出しようともがきながら何か手立てはないかと周囲を見回していると、見学室にいる可奈子が目に入った。可奈子と言えばさっき―—と何気なく思い出した途端、ギジオレの視線が可奈子のある部分にズームアップする。
『おお、妄想力が跳ね上がったぞ』
ギジオレは瞬時にロボットの手を振り解き、素早い動きで股間を蹴り上げると、ロボットはあっさりと倒れた。
『いい動きだったぞ。洸平君。妄想力の高まり方も理想通りだった。それを忘れないように』
「ああ、どうも」
あっさり撃破出来た事に我ながら驚きながらも、やっぱり恥ずかしい気持ちがある。
どう言う訳かカメラの操作がスムーズに出来る様になった俺が、何を思い出したかは秘密だ。