エピローグ
「忘れ物はありませんか?」
クライナさんが源治おじさんに尋ねた。秘密基地の外ではトー・レ・ヴィオの宇宙船が待機している。宇宙船の中には、地球に残っていたアンドロイドと、アンドロイドが地球に残した各種メカが収められている。
「大丈夫だと思います。そもそも、そんな持ち物はありませんがね」
源治おじさんが持っているのは小さなリュック一つ。今の時代、国内旅行でももうちょっと荷物があると思う。
クライナさんの提案、ギジオレをトー・レ・ヴィオの管理下に置きたいと言う話は、条件付きで受ける事となった。
その条件とは、源治おじさんをトー・レ・ヴィオに連れて行く、ギジオレ自体は地球に置いておく、クリオナは地球に残る、といった三点。そのため源治おじさんは、これからトー・レ・ヴィオに向かう事になる。
「パパ、ちゃんとご飯食べるのよ。身の回りも掃除して、綺麗にしてね。それに、いい年なんだからたまには運動して——」
「分かった分かった、母親じゃないんだから」
可奈子が次々心配するのを、源治おじさんが苦笑いで答える。
「それにずっと向こうにいるわけじゃないんだから」
「すぐ帰ってくるの?」
俺が聞くと、源治おじさんは首を振って、
「さあな。向こうの技術の習得もあるし、こっちの技術の提供もある。そんな簡単な話ではないだろうが、たまには帰って来られるさ」
「言ってもらえればすぐにお送りしますよ」
にっこり微笑んでクライナさんが言う。VIP待遇だな。
「ではお母様」
クリオナが進み出る。子供のような表情でクライナさんに抱きついた。
「またしばらくお別れになってしまうけど、仲良くやるのよ?」
クリオナの頭を撫でながら言うクライナさん。その様子は本物の親子のよう。
「クリオナの事は俺に任せてください」
「先輩はまだ諦めてないんですね」
「もちろん」
桧山さんの言葉に晴人が胸を張る。クライナさんが目を細める。
「ゲンジさん、あなたは可奈子さんが心配ではありませんか?」
クライナさんが言う。て事は、クライナさんはクリオナの事を心配してるって事か。
「まあ、あんまり言うと子供扱いすんなって怒られるんでね」
おじさんがいつか言っていた言葉。
「それに、後の事はうちのパイロットにまかせてある」
そう言うと、俺を指差した。
「可奈子先輩はこれからどうするんですか?」
学校からの帰り道、最近部活はサボり気味の桧山さんは可奈子に聞いた。
「どうって?あまり変わらないわよ」
「おじさんはどうせ留守がちだったからね」
元々留守がちではあったが、ギジオレが完成してからは、ほとんど家には帰って来なかった。だから、源治おじさんがトー・レ・ヴィオに行ってしまったとしてもあまり変わらないのだろう。
「これからは、いつでも洸平の家に行けるな」
晴人がにやにやしている。
「ずっと来てるぞ」
「そうね、それも変わらないわ」
「つまんね」
晴人はそう言ってそっぽを向いた。そんな晴人をクリオナはにこにこしながら見ている。
「そう言えば、森野さんが今度遊びに来るってさ」
「お前、いつの間に」
いつの間に連絡先を交換したんだか。油断も隙もあったもんじゃない。
「それは浮気と言うものですか?」
クリオナが晴人の顔を覗き込む。
「そういう訳じゃ・・・でも俺たちって友達じゃないの?」
晴人に動揺のいろが見える。クリオナはからかっているのだろうか。
「さぁて。どうでしょう?」
おっと。
天使のようなクリオナの笑顔。今までと反応が違うな。
「長月先輩がいらないって言うなら、私がクリオナ先輩をもらいます!」
桧山さんが宣言してクリオナに抱きつく。意味がわからない。
「クリオナは渡さないぞー!」
晴人も対抗しなくていいから。
そんな平和な日常。
だが平和な日常は、突如破られる。
『避難警報。避難警報。こちら地球連合軍。他惑星の侵略行為が行われています。緊急避難をしてください』
町中に設置されたスピーカーからけたたましいアラームと共に放送が流される。いつか聞いた、この放送。
俺は可奈子と顔を見合わせる。と同時に全員が一斉に走り出した。秘密基地へ。
ギジオレの元へ。
完




