表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想ロボ ギジオレ  作者: みつつきつきまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/36

35


 ギジオレの弱点は空を飛べない事だ。


 陸は走れるし、海も泳げる。妄想力さえあれば、どんな事だって出来る万能ロボだ。


 ただ、こうやって上空に連れて来られると出来る事はない。


「洸平!どうするのよ!」


「そんな事言われても!」


 激しい風切り音の中、俺と可奈子は顔を見合わせているが、出来る事が思い浮かばない。


 そもそもどこへ連れて行かれるのか。宇宙空間まで出てしまえば、ぷかぷか漂っている間に迎えにきてもらう、などの方法は考えられる。宇宙空間でも耐えられる事は実証済みだ。


 ただ、それ以前に解放されてしまうと、地上に真っ逆さまに落ちてしまう。いくらギジオレと言えど、耐えられるとは思えない。


 宇宙空間まで出られるかどうかも不明だ。そうでないなら、なるべく低い高度での方が無事に帰れる可能性が高いだろう。


「でも、どうやって・・・?」


 俺はクロオレの手をギジオレから外そうと掴む。なかなか外れない。どこにこんな力があるんだ。


 体を捻って肘で顔を狙う。何度か打ちつけていると、顔が外れて地上に落ちて行った。が、手は外れない。


「洸平!」


 可奈子の声。そちらを向くと、不安そうな可奈子の顔。


「信じてるから」


 俺の手をとって真っ直ぐな目で言うと、思いきり真正面から抱きついてきた。押し倒されるのかと思うくらい思い切り。


 妄想力が高まって行くのを感じる。


 感じるのだが、どうすればいいのか。


 俺は一度ギジオレの体を丸く縮める。そして勢いよく体を伸ばすと、衝撃波が走った。ギジオレだけでなく、クロオレの体もビリビリと振るわす。


「よし、手が緩んだ」


 俺はギジオレの手でクロオレの手を掴み、外す事に成功。そのまま身を捻って反対の手で足を掴む。


「うぅるぁぁぁ!」


 思い切り引っ張ると、クロオレは上半身と下半身に裂けた。


 次の瞬間、クロオレは爆音と共に爆炎に包まれた。ふと見ると散り散りに飛び散る部品の中に、アンドロイドが放り出されている。


「ここで見捨てるのも・・・」


 俺は手を伸ばし、アンドロイドを受け止める。今は対立しているが、プログラムし直せば友好的になれるかもしれない。そう思いながら動かないアンドロイドを手のひらで包み込む。


「人がいいんだから」


 だから耳もとで喋らないで。


 可奈子の吐息にぞくぞくするが、何も解決策が見つかっていない事には変わりない。そして次第に上昇スピードは遅くなって行き——


 ギジオレは落下を開始した。




 上昇から落下に変わる瞬間の、無重力のような感覚が伝わって来た。慣性制御されているため、感じるはずがないのだが、もしかしたら目に映る景色がそう感じさせたのかもしれない。


 三百六十度水平線。真下には豆粒のような地球連合軍極東支部。そこに真っ直ぐ向かっているように思える。


「ねえ洸平、海に落ちる事は出来ない?」


 海に落ちる事が出来れば、ある程度衝撃を逃す事が出来るかもしれない。ただ、どれぐらいの衝撃を吸収して、どれぐらいの衝撃に耐えられるのかどうかははっきりしない。


 でもそれを目指してみよう。


「で、どうすればいいんだ?泳ぐみたいに・・・」


 手足をばたばたさせてみる。真下以外に動いた様子はない。平泳ぎのように手足で空中を掻いてみる。アンドロイドを持っているのでやりにくいが、どちらにせよ効果はなさそう。


 その間にも落下スピードは増している。そして地上との距離は縮まって行く。そして、出来る事は減って行く。


 何か大砲みたな物で勢いをつけて——ギジオレには武器は装備されていない。


 地上にぶつかる直前に先程の衝撃波を発生させれば、一瞬でもブレーキの代わりになるのではないだろうか。でもこれは最後の最後に試す事になりそうだ。


 様々考えを巡らす。状況が状況だけに頭がうまく回らない。数多の案が浮かんでは消える。


 これからどうなるのか、結末を考える事が出来なかった。考えたくなかったと言った方が正しい。


 可奈子の不安そうな顔。見ているとどうにかしなきゃと言う気持ちと共に、妙な落ち着きを感じていた。可奈子の柔らかな感触も、温かな体温も、優しい吐息も、今までずっとそばにあった。


 もしかしたら最後かもしれないこの瞬間も、一緒にいられて良かった。


 まるで覚悟を決めたと言うか諦めたような気持ち。こうして抱き合った感触に甘える気持ち。


 猛スピードで落下しながら可奈子の顔をじっと

見つめる。


 ふと可奈子の囁きが聞こえて来る。


「私・・・まだ・・・」


 可奈子の目から涙が流れているのに気づいた。


『洸平君、聞こえるか?』


「お、おじさん!どうすればいい?」


 ふいに聞こえてきた源治おじさんの声に、すがるように声をあげる。


『こっちも色々考えている。巨大なクッションで受け止めるとか、ミサイルでギジオレの軌道を変えるとか、巨大な扇風機で風を起こすとか。ただ、ダメージが予測出来ない。だからそっちでも考えておいてくれ』


「考えておいてくれ、って言われても・・・」


 考えられる事は考え尽くしたような気がする。


『洸平君』


 ふいに呼びかけられ、顔を上げる。


『妄想力に不可能はない、よ』


 何だか格好いいように言っているが、格好良くはないな。ともあれ、源治おじさんがさほど慌てた様子が無いのは、何か対策があるのを信じているのか、俺を信じているのか。


 じゃあ俺ももう一度考えてみよう。


 俺は目を閉じてイメージする。可奈子は柔らかくて温かい。いや、これは邪念だ。そうじゃなくて、この状況を打開するための方法。


 地上までの距離が加速度的に縮まって行く。白い雲が猛スピードで上空へと流れていく。


 雲のように浮かべたら——いや、鳥のように飛べたら——出来もしないイメージが浮かぶ。


 すると、


「ん?」


 落下スピードが落ちた気がする。下から上へ流れる景色がゆっくり動いている。


 ふわりとした感覚。これは何だ?源治おじさん達が何かしてくれたのか?そう思いつつ周囲に目を向けると——


「なあ、可奈子」


 俺が呼びかけると、可奈子は顔を上げた。そして可奈子もそれを見た。


「羽根が生えてる?」


 ギジオレの背中に大きな羽根が生えており、ゆっくりと羽ばたいていた。ギジオレの落下スピードを殺し、風を受けてゆっくりと地上へと降りて行く。


 それはまるで鳥の羽根のようで、俺がイメージした通りの姿で羽毛の一枚一枚も再現されている。


「妄想力ってそんな事もできるの?」


「よくわからない」


 明らかに金属室ではないその羽根は、ホログラムのように光っている。現実に存在するかどうかもはっきりしない。ただ、俺たちをゆっくりと地上へと送り届けようとしている。


『うまくやったな。洸平君』


 安心したような源治おじさんの声。


「おじさん。これはギジオレの能力なの?」


『確証は無かったが、可能だとは考えていたよ』


「だったら言ってくれればよかったのに」


『余計な事を考えさせるとうまくいかないだろうからな。その判断は正しかったようだ』


 まあ、結局は信じてくれていたって事か。


『なあに、あとはゆっくり降りて来ればいい。なあに、焦る事はない。安全な高度に来るまでは、平常心でな」


 そうか出現したって事は消えるかも、って事か。

落ち着いていた方がよさそうだ。


「可奈子」


 俺は腕の中にある、俺の邪念の塊に声をかける。


「ん?」


 少し呆けたような顔を俺に向ける。


「もういいよ。離れても。多分、大丈夫だ」


 この感触が惜しいという気持ちはやっぱりある。だが、その気持ちも良くないような気がして、そう言う。


 可奈子は首を振った。


「離れると、落ちちゃいそうで・・・」


 そう言って俺の胸に顔を埋めた。


 どうにか俺が気を確かに持つしかなさそうだ。




 ギジオレはゆっくりと数分かけて地上に降り立った。気休めに置かれたクッションに足を下ろす。


「はぁー」


 大きく息を吐く。足が地面についている感覚を思い出す。


「可奈子、もういいよ」


 胸の中に声をかける。


「可奈子?」


 反応がない。


 そっと腕に抱き起こしてみると、可奈子の寝顔が目に入った。安心したのか、安らかな寝息をたてている。


「・・・」


 いつもは怒っていたり、大人っぽかったりする可奈子だが、眠っていると子供のよう。懐かしくも、安心した気持ちになる。


「・・・」


 可奈子の寝顔をじっと見る。


 いや、やめておこう。


 俺は可奈子を隣のシートにそっと寝かせると、ギジオレを跪かせてコックピットハッチを開ける。


 砂埃と、かすかな潮の香り。大きく息を吸い込んだ。


「あぁ、帰って来た」


 シートに体を預ける。ほんの数分の出来事だったが、それまで緊張して力が入っていたのか、体のあちこちが筋肉痛のような痛みに襲われる。


 俺も可奈子のように眠りたい。


 見ると、皆が走って来るのが見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ