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妄想ロボ ギジオレ  作者: みつつきつきまる


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「晴人、こいつを頼む」


 俺はシートベルトとヘッドギアを外すと、晴人に言った。


「頼むって、何?」


「こいつで避難してくれ」


 ギジオレを操縦して、と言う意味だ。


「俺、操縦した事ないよ」


「大丈夫、こう動いて欲しいって思うだけだから」


 俺はそう言って、晴人にヘッドギアを押し付ける。それからギジオレを正座させて、コックピットハッチを開く。


「簡単に言うけどさ」


 晴人は言いながら、ヘッドギアを装着する。


「やるだけやってみますか」


 そう言って、シートに座った。


 俺はコックピットを出る——と、可奈子に袖を引っ張られる。


「?」


 可奈子の顔を見る。


「私、必要?」


 伏目がちに俺の目をみた。


「うん、必要」


 俺はそう言って、可奈子の手を引いてギジオレを後にした。


 見ると、倉庫のガラクタをかき分けてクロオレが姿を現した。俺と可奈子は新型に向かって走る。


 クロオレは標的はすでにギジオレではない事を悟ったか、俺と可奈子に向かって来る。距離を詰めようと踏み込んだ時、晴人操縦のギジオレが飛びかかった。油断していたクロオレはバランスを崩してよろける。


「やるじゃん、晴人」


 伊達に近くで見ていないな。


 確認して走り出す。可奈子の手をとったまま。


 クロオレは体制を整え,俺たちを追いかけはじめる。が、再び晴人のギジオレが足に取り付き、クロオレの動きを止める。


「今のうちに行くぞ!」


 晴人のギジオレのおかげで難無くギジオレにたどり着くと、


「じゃあ、可奈子が先に——いや、俺が先に上るよ」


 そう言って手すりを持ってギジオレの足を上る。可奈子もついて来る。


「ねえ、ちょっ」


 まどろっこしくなって、可奈子を抱き上げてコックピットに飛び込む。シートに押し倒すような格好になってしまったが、それについて考えるのは後にしよう。


 シートに座ってヘッドギアを装着する。可奈子がハッチを閉めたと同時に、俺はメインスイッチを入れる。ブーンと低い音が響いて、ギジオレが目を覚ました。



「ありがとう晴人。おかげで間に合った」


 俺は言う。そう言えば向こうのギジオレとは通信回線は繋がってるのかな。


 見ると旧ギジオレが手を振っていた。俺も手を振り返すと、建物の陰へと消えて行った。


「これであっちは大丈夫かもね」


 旧ギジオレを見送って可奈子が呟く。


『洸平君、これからは晴人君のサポートに回る。君は大丈夫だろう?』


「こっちはこっちでやるよ」


 向こうは初めて乗るんだから当然。


 クロオレは距離をとってこちらの様子を眺めていた。新しいギジオレに乗った瞬間、クロオレの波動を感じる。空気がゆらめくような、大きなエネルギー。


 その原動力はコックピット内の桧山さん。確かに妄想しがちな子だが、大きな妄想力を持っている。でも、どうにかして助けなきゃ。


「じゃあ可奈子、行こうか!」


「あ、うん」


 可奈子は言うと、俺に横から抱きついてきた。


 むぎゅ。


 俺の妄想力が上昇している事が自分でも分かる。先程とは比べ物にならない力が、俺とギジオレの体の隅々まで行き届く。体の奥が熱くなる。いや、興奮しているのとは違う。


 ギジオレは足を踏み込むと、地面を滑るようにクロオレとの距離を詰める。旧ギジオレとは違うスピード。やはり新型は違う。


 クロオレの左腕を掴む。それと同時にクロオレの右手がギジオレの顔を狙っている。それを左手で払うと、クロオレの左腕がするりと抜けた。そうしてその左手でギジオレの頭を狙うが、素早く一歩後退する。


「いくぞー!」


 俺は可奈子の匂いを感じながら、ギジオレの身を低くして突進する。タックルのような形で腰を掴みにかかる。すると、


「え?嘘!?」


 クロオレが宙を舞った。足の裏から何かを放出して、空中にふわりと浮き上がった。


「ギジオレは空を飛べないのに」


 空を飛べないのはギジオレの弱点の一つ。クロオレはそれをやってのけた。


 ただ、さほど長くは飛んでいられないのか、ほどなくしてギジオレの背後に着地する。


 俺はその着地を狙う。クロオレの足が地面に着く直前に、足に飛び掛かると後ろに倒した。


 ふとコックピット内の桧山さんが気になる。ダメージは無さそうだが、衝撃はあっただろうか。


 やはりやりにくい。どうにかして桧山さんをまず救出出来ないだろうか。


「ねえ」


「うわぁ。くすぐったい」


 突然耳に息を吹きかけられ、思わずのけぞる。俺の妄想指数も急上昇したに違いない。


 可奈子を見る。いや、近いな。


「ここから向こうのコックピット開けられない?」


「出来ると思うけど」


 ぞくぞくしながら答える。


「その間にコックピットに飛び込んで、助けだせないかな」


 俺をぞくぞくさせながら可奈子が言う。確かに出来そうだが、向こうの動きも速いので簡単でもないだろう。


 俺が可奈子のぬくもりを感じながら考え込んでいると、可奈子は天井を指差した。見ると、ガムテープで補修された半透明のボタン。リミッター解除ボタン。


 押してみる?とでも言いたげな可奈子の顔。しかし俺は前回このボタンを押した時の状況を覚えていない。なので、このボタンを押すとどうなるのかが予想出来ない。


「ちょっとだけなら大丈夫じゃない?」


「ちょっとだけ?」


「うん。もし暴走しそうなら、私が何とかするから」


 何とか。心なしか右頬が痛む。 

 

 見ると、クロオレが体制を整えつつあった。時間はさほど無い。


「じゃあやるか!」


「押すよ!」


 と言って可奈子が手を天井のボタンに伸ばす。そのせいで俺の顔に可奈子の胸が——


 クロオレは左手を前に出して突っ込んできた。俺はギジオレをほんの少し横移動させる。そしてクロオレの左手が右脇腹を掠める瞬間、その腕を腕で抱え込む。同時に左脇でをクロオレの首を後ろから締め上げるような姿勢になる。


「ふんっ!」


 可奈子を強く抱きしめつつギジオレの右手を捻る。と、クロオレの左腕が肩から千切れた。


「よしっ!」


 一つ脅威が減った。

 俺はギジオレの手をクロオレのコックピットに伸ばす。クロオレは右腕で払って来る。その手を掴み返して、反対の手でコックピットを狙う。


 するとクロオレが膝をギジオレの腹に入れてきた。思わず前かがみになるが、そのまま体を伸ばしてクロオレの顎を思い切り叩く。顔が多少ズレた。


 しかしそれでもクロオレは膝をギジオレに打ちつけてくる。俺は蹴られながらも、コックピットに手を伸ばす。


 ふいに下半身への攻撃がやんだ。


 見ると、いつの間にか旧ギジオレがクロオレの足に取り付いていた。


「あとで何か奢ってやらなきゃな」


「そのためにはちゃんと帰らないと」


 クロオレの足が止まる。


 そのスキにギジオレの手をコックピットの隙間に差し込み、思い切り引くとコックピットハッチが落ち葉のように剥がされた。そのままコックピットの端を掴む。


「洸平いくよ!」


「おう!」


 可奈子は言うが速いかギジオレのコックピットを開けると、ギジオレとクロオレに架ける橋のようになったギジオレの腕の上を走って行く。俺も遅れずに着いていく。


 身じろぎしつつも旧ギジオレのおかげで動きが制限されているクロオレのコックピットに可奈子は飛び込んだ。飛び込んだのと同時に、セカンドシートで操縦桿を握っていたアンドロイドに、


「やあーっ!」 


 勇ましい掛け声と共に膝蹴りを叩き込み、スカートを翻す。


 アンドロイドが吹き飛んでいる間に、俺は桧山さんを拘束しているシートベルトを外し、


「あんっ、せんぱいのえっち・・・」


 気を失っているはずの桧山さんのヘッドギアを外す。


 そのまま抱き抱えコックピットを出ると、待ち構えていた旧ギジオレの手の中に桧山さんを寝かせた。


 再び腕を伝ってギジオレに戻る。


 そして俺と可奈子がシートに座るより先に、クロオレは動き出した。


「まだ動けるのか!?」


 動力源たる桧山さんはもういない。しかし、動かすだけなら難しくはないか。ただ、先程のような動きは出来ないだろう。


 俺はそう思いつつ、シートに座りヘッドギアを手に取った時、


「え?」


 可奈子の声。目の前にいたクロオレが、姿を消した。いや、それまでと同じスピーとで身を屈ませてギジオレの背後に回り込んでいた。


「え、ちょっ・・・」


 まだヘッドギアを装着出来ていない。動揺しているため何だかうまくいかない。


 その間にクロオレは残った腕をギジオレに回して固定する。


 そして俺がヘッドギアを装着出来たと同時に、クロオレはギジオレを抱き抱えたまま空へと飛び立った。


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