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妄想ロボ ギジオレ  作者: みつつきつきまる


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 ゆっくりとクロオレは動き出した。古のゴーレムはこんな動きだったんじゃないかと思えるほど、ゆっくりと足を進め始めた。


「エネルギーが足りないのか?」


 後ろに下がりつつ、俺は呟く。


「これってどうなの?マズイんじゃない?」


 晴人の声。あまり好意的な態度ではない事は分かる。


「博士に連絡してもらえますか?」


 クリオナに言われ、森野さんは副司令官室へ連絡し始める。


「逃げた方がいいよな」


 更に後退する。動きがゆっくりなおかげで、それほど苦労もなく逃げられそうだ。


「だんだん速くなってません?」


 そう言いながらしがみついてくるのやめてくれない?


「本当ね。急に走り出したりしない?」


 可奈子も腕を掴むのをやめてほしい。


 ともあれ、俺は周囲を見回す。入り口は入った所一ヶ所だけ。結構広いので距離がある。走れば逃げられると思うが、クロオレが急に動きを速くした場合はその限りではない。


 では何か別の方法は——


 うなだれているギジオレが目に入った。これが動くのなら乗って逃げられるかもしれない。でも動かなかったら?まあ助けが来るまでの時間稼ぎにはなるだろう。


「ギジオレに乗ろう」


 俺は言って、五人を引き連れてギジオレに向かう。


 ギジオレにたどり着くまで、クロオレはゆっくりとした動きだった。一歩一歩が大きいので動きのわりに距離を詰めてきたが、ギジオレに乗り込む事は出来そうだ。


「じゃあ、女子から乗る?」


 言って、女子四人の顔を見回す。森野さんはともかく、三人は乗った事がある。


「いや、あの」


 可奈子が何か言いたげにしている。


「男子から乗りなさい」


「え?何で?」


 先に乗った方が安心だろうに。


「だから、あの」


 可奈子はそう言って自分のお尻に触れる。あ、そうか。


「晴人、先に乗るぞ」


「えー、下から覗けると思ったのに」


「それが嫌なんだろ」


 分かってて黙ってたのか。


 そんな事もありつつ、一番に俺が乗り込みシートに座る。なんか懐かしい。晴人も続く。


「森野さん、手をどうぞ」


「あ、ありがとう」


 こんなところでのポイント稼ぎも忘れない。


 俺は操作盤を確認する。どこも以前と変わりない。新ギジオレと比べると安っぽいが、これはこれで味がある。


 メインスイッチを入れる。ブーンと低い音が響いた。これは、動くかもしれない。


 見ると、晴人がクリオナの手を引いて引っ張り上げているところだった。わざとらしく全身を使って受け止める。


「次は?みのりちゃん?」


「はい」


 そう言って手を上げた桧山さんも上って来る。


 その時——


 ブーンと低い音が響いた。ギジオレではない。クロオレからだ。


「あ、マズイかも」


 俺の予感は的中し、さっきの緩慢さはどこへやら、俊敏な動きへと変わる。


 ギジオレとの距離を一気に詰める。


「いいから、二人とも乗れ!」


 俺が言うと、桧山さんの後ろから可奈子も上ってくる。


 クロオレはこちらに手を伸ばして来る。俺から妄想力を吸い取ろうとしているのか、それとも別の理由があるのか。


 その手は思った以上に速く、ギジオレに触れるかと思ったが、コックピットに乗ろうとしていた桧山さんを捕まえた。


「え?え?何?何?」


 状況がわからず動揺する桧山さん。


「変なところ触ってる!」


 それはいいよ。


 桧山さんを捕まえたクロオレの手に晴人が飛びつこうとする。が、一瞬遅く手は遠ざかってしまい、晴人は危うく落ちるところだった。


「せんぱぁい。助けてー」


 あまり緊張感のない声をあげる桧山さん。


「いいから皆乗って!」


 俺が言うと晴人と可奈子もコックピットに乗り込んだ。ヘッドギアを装着してハッチを閉める。ペダルを踏み込むと、ギジオレが立ち上がった。


「か、勝手に乗り込んで大丈夫でしょうか」


 森野さんが動揺した様子で言う。


「今はそんな場合でないです」


 クリオナが落ち着かせるように穏やかに言う。


 見ると、桧山さんを掴んだ腕はクロオレのコックピットに向かっている。ハッチがゆっくり開く。


「まさか」


 可奈子が呟く。


 クロオレの腕が桧山さんをコックピットに乗せると、同じようにゆっくりハッチが閉まった。その時コックピットの奥からアンドロイドが現れ、桧山さんに何かを被せた。


「これはマズイな・・・」


 危険な妄想力を持つ桧山さんが、クロオレのコックピットに収まった。前面のシートに縛り付けられ、何かを叫んでいる。


「助けないと!」


 俺はギジオレを走らせる。クロオレとの距離を詰め、両手を掴む。力比べのような状態。新型と同タイプなだけあって、向こうの方が力が強い。


 手を離して姿勢を低くする。足を掴んで持ち上げにかかる。だが持ち上がらない。重いからか?いや、新型の方が軽いはずだ。


 次に足を払って転倒させようとするが、倒れずに金属音が響いただけだった。


 一歩後退して距離を置く。


「やっぱり新型の方が強いな」


 しみじみ思う。港には新型が停めてあるのだが。


 すると今度はクロオレが距離を詰めてくる。拳をコックピットみ向けて放って来る。


「おいおい、狙いがエグいな」


 避けながら呟く。コックピットを狙うとは、殺意を感じるな。


 ギジオレがその手を掴み、捻る。が、それと同時にクロオレの反対側の手がギジオレの頭を掴もうと手を伸ばしてくる。


「危ない!」


 可奈子の声と同時にしゃがんで避ける。


「何かやりにくいな」


「派手な攻撃とか出来ないのか?」


 晴人が言う。


「無い事はないけど」


 いろいろ難しい。


「みのりさんに当たってしまいますからね」


 そう、下手な攻撃してしまうと桧山さんに当たってしまうし、頭を掴まれたら妄想力を吸い取られる。何かと制約が多い。


「妄想力を吸い取るのは両手でしょうか?」


「今は左手だった。前は?」


「左手だったわね」


「じゃあ、まずはそっちを狙おうか」


 言うと俺はクロオレの左手を掴みにかかる。が、するりと避けられ、逆に頭を掴みにかかられるのを手で弾く。どうも、動きが更に速くなっているような気がする。


 クロオレが後方に飛んだ。頑丈そうな壁を蹴る。その時、俺にはクロオレが衝撃波を放ったように見えた。右腕を伸ばしたまま突っ込んでくる。


 咄嗟によろけるように避ける。ギジオレを外れた

右腕は倉庫の壁に突き刺さり、ほぼ壁一面が崩れ落ち、隣の倉庫と繋がった。


「あの時のギジオレみたい」


 可奈子が呟く。


「あの蛇と戦った時みたい」


 あの時か。俺は確か暴走したんだっけか。よく覚えていないが。だが、だとすると普通では勝負するのは難しい。どうするか——


「可奈子」


 俺は隣に立っている可奈子を呼ぶ。


「何?」


「えーと」


「何よ?」


「抱きついて」


「え?何て言ったの?」


 俺の声が小さくて聞こえなかったらしい。


「えーと。俺に抱きついて」


「・・・」


「おお。自分から言うとは珍しい」


「今イチャイチャしてる場合では無いのでは?」


「まあまあ、このロボットには必要な事なんですよ。森野さん」


「これでもう大丈夫ですね」


 後ろで何やら盛り上がっているが、俺としては可奈子が承諾してくれるかどうかは不安だった。この状況を打破するためには妄想力を高めなければならない、そのためには可奈子にそういう事をしてもらうのが効率がいいと言うか、手っ取り早いと言うか。


「・・・」


 いやいや、妄想力とやらを高める為に可奈子を利用しているようで後ろめたくも感じる。でも俺の妄想力を高めるにはこれが一番で——


 むぎゅ。


 柔らかくて温かい感触。


「その代わり、ちゃんと勝ってよ」


 横から抱きついた可奈子の声が耳をくすぐる。俺の中の妄想力がギジオレ中に送り込まれているのを感じる。そして、背後の盛り上がりも感じる。


 俺はギジオレを跳躍させた。壁の瓦礫に紛れたクロオレの目の前に着地する。


 クロオレの左手が動くのが見えた。


 ギジオレはしゃがむと、素早くクロオレの背後に回る。後ろから左肩の関節を固める。


 クロオレは左腕をそのままに身を反転させる。人間ならば不可能な動きで向かい合う。


 ギジオレの背後から衝撃。右手を打ってきたらしい。


 ギジオレはクロオレの腰を掴み、座らせるように押し倒す。そのまま頭に拳を向ける。


 が、クロオレは回転して逃れた。


「やっぱりまだ動きが違うな」


 こちらが古い機体、と言うのもあるが、旧ギジオレは妄想力に制限がかけられているのも大きい。まあ、制限を超えてしまうと俺がおかしくなるのだが。


 それに、桧山さんが人質に取られているのに加え、倉庫内という場所的な制限もある。クロオレはあまり考えてなさそうだが、周囲の物を破壊したらマズイかもと言う意識が働いてしまう。


 場所を変えた方が——


『洸平君、ギジオレに乗っているのか?』


「おじさん!今どこ!?」


『悪い。倉庫に今入れなくてな。だが、外に新型持って来た。乗り換えるかい?』


「もちろん!どこに行けばいい?」


『後ろに壁があるだろう?』


「うん」


『それを壊せ』


 あっさりと言う源治おじさん。弁償とか、慰謝料とかが頭に浮かぶ。


『何も気にする事はない。洸平君は地球連合軍の為に戦ってるんだからな。多分』


「多分じゃなくてさ」


『漆原には一応言ってある。もうすぐ解任される副司令官にどれだけの権限があるかは知らないが、少なくとも悪くはしない。それに、クライネさんも力になってくれるらしいから、気にすんな』


 そこまで言ってくれるなら。


 俺は振り向くと、拳を強く握り、可奈子のぬくもりと匂いを感じながら、目の前の壁に拳を叩き込む。炎を帯びたかのような拳は壁一面を瓦礫に変えた。


 目の前が開けた。先程見た演習場に、ギジオレは跪いて佇んでいた。

 

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