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ロボットが桟橋を上がってくる景色を呆然とながめている警備担当者を横目に見ながら、宇宙連合軍極東支部の敷地内に入った。
船から降りた源治おじさん達は、どうやら案内役らしい女性職員に迎えられ挨拶などをしている。
俺はギジオレを駐車場に停めると、みんなと一緒に連絡バスに乗り込んだ。
時折案内役の森野さんに説明を受けながら本館を目指す。
「見学ツアーなんかも行われているので、機会があればぜひ」
そんな事も言っていたので、説明には慣れているのだろう。
この地球連合軍極東支部があるのは十キロメートル四方の人工島で、港や滑走路も揃っている。兵器の開発や製造も行っているようで、大きめな工場もあると言う。案内の森野さんが教えてくれた。
「俺がいたのはあそこだ」
海沿いにの工場の隣に建つ、高さのある倉庫のような建物を指差して源治おじさんがいう。
「あれは特殊技術部ですね」
「ロボットなんかはあそこかい?」
源治おじさんの声に、森野さんは笑みを浮かべて、
「詳しい事は言えません」
「だろうね」
答えは期待していなかったらしい。
バスはふいに広大な何もない場所に出る。学校の校庭がいつくも入るような何もない場所。舗装もされておらず、所々が穴が空いていたり掘り返されたりしている。所々に櫓のようなものも見える。
「ここは地上の演習場です。新しい兵装の実験や訓練に使われます。訓練内容によっては、簡易な建造物が建てられて、模擬都市戦が行われる事もあるようです」
「こんな所があるんなら、何で街中で戦闘なんかしたんだろう」
「ここで出来ない理由があったんでしょうか」
晴人とクリオナが話している。確かにそうだ。
「ここであの試作ロボがテストされたのかな」
可奈子に耳打ちする。
「どうかしら。それなら同志撃ちなんかしないと思うんだけど」
「テストでは問題が発生しないのはよくある事です」
桧山さんがそう言う。そういうもんかね。
「これだけ広ければ宇宙船の発着も可能ですね」
クライナさんが言う。以前見たトー・レ・ヴィオの宇宙船でも発着は可能だろう。
「可能ですね。専用の滑走路があるので、実際に行われる事はないでしょうが」
バスは進む。港を出発してから十分程して、正面に大きな建造物が見えてきた。
「あれが地球連合軍極東支部本館です。漆原副司令官がお待ちです」
「お前は二度と俺の前に現れるなと言っていたが」
漆原副司令官はデスクについたまま言った。
「お前の方が現れるとはな」
「俺が来たかった訳ではない」
漆原副司令官の言葉に、源治おじさんは吐き捨てる。
「私がお願いしたんです」
クライナさんが進み出て上品な笑顔を浮かべる。怪訝そうな顔をする漆原副司令官。
副司令官室は思いの外質素で、デスクの他には空の棚があるだけ。引越しの最中みたいだ。
「トー・レ・ヴィオの関係者と聞いて驚きましたよ。トー・レ・ヴィオの統合軍との協力関係は始まったばかりだったのでね」
「申し訳ありません。しかし、私たちの承諾もなく他の軍と取引するなど、許される事ではありませんので」
口元に手を当てていうクライナさん。ふとした瞬間がクリオナに似ている。
「おいお前ら」
ふいに源治おじさんが俺たちの方を見る。手持ち無沙汰にしているのが見えたのだろう。はっきり言って、ここで俺たちに出来る事はなにもない。
「ここにいても退屈だろうから、見学でも行って来い。興味深いものもたくさんあるだろうし、もしかしたらここが就職先になるかもしれん。いいよな漆原」
本当は頼みたくないという思いがありありと浮かんだ表情で源治おじさんが言う。
「その時は私が上司になる——と言いたいところだが、私はもう解任が決まっているんでね」
「そうなのか?」
「ああ、この間のみっともない戦闘と、そもそも戦闘ロボットの開発に失敗したのが理由かな。お前がもっと協力的ならどうにかなったかもしれないが」
「それは協力しなかった甲斐があったってもんだ」
源治おじさんがにやりとする。よっぽど嫌いなんだな。
「まあ、それを言っても仕方ない。森野君、連合軍候補達を案内してやってくれ。あの、ロボット達なんかがいいんじゃないか?」
俺たちは副司令官室を出て、森野さんについて歩いていた。地球連合軍極東支部の建物は病院のような清潔感もありつつ、学校のような賑やかさもある。
森野さんに通り過ぎる部署を説明されながら俺たちが向かったのは、『機動倉庫』と呼ばれる場所。言葉の通り、動く倉庫だろうか。
「ここは普通は入れないんですよ」
森野さんがウインクする。ちょっと可愛い。
という気持ちがどこからか漏れたのか、可奈子に肘でつつかれる。
「森野さんって、モテるでしょ」
晴人が軽く言う。
「うーん。あなたの彼女ほどじゃないかもね」
と、クリオナを見て言う。
「彼女とは誰の事ですか?」
純粋なクリオナの言葉に落ち込む晴人。
少し笑う森野さんが扉の横にIDカードをかざすと、扉が開錠された音がする。重そうな扉を押し開けると、そこは広い空間だった。秘密基地の四倍ほどの大きさの空間に、様々な人形ロボットが立っていた。
「すごぉーい!」
桧山さんが興奮気味に声をあげる。そう言えばロボットが好きみたいだな。
少し薄暗い空間で、スポットライトのようにに照明が炊かれている。照らされた大小様々なロボットが並ぶその中に——
「ギジオレだ」
懐かしいロボットが膝をついてうなだれていた。まるで反省しているかのようなその姿勢は、その場にある他のロボットとは一線を画している。
「変わってなくて良かったわね」
「研究のために分解とかされてたらどうしようかと」
「ギジオレさんはいくつかの部品が取り外されているようですね」
クリオナが言う。よく見ればコックピットはっちや背中のパネルが開かれている。そこから何かが取り外されたのなら、今は動かないのかもしれない。
「知っているロボットですか?」
「ええ、まあ」
「先日ここに運ばれてきたばかりで、私も詳しくは知らないんですけど、漆原副司令官の肝入りで」
「これを調べて、他のロボットを作ったって事ですかね」
言いながら、ロボットの間を歩く。先日の試作機ロボに似た機体もある。見上げてみるとギジオレよりは小さいが、それでも迫力はある。ロボットを囲うようにフレームが組まれているのは、作業用の足場だろうか。
今は作業員など誰もいない。ひっそりとしていて、夜の博物館のよう。役目を終えた、ロボット博物館。
そして進んだその一番奥。照明も焚かれていないその隅に隠れるように立っている機体があった。
「洸平、あれって・・・」
可奈子が指を差す。
ギジオレにそっくりな黒い機体。
「あいつだ・・・ここにあったんだ」
あの時ギジオレの前に現れた黒いロボット。俺の妄想力を吸い取った、あいつだ。名前は知らない。
あの時はじっくり見る事が出来なかったが、よく見ると結構違う。手足はギジオレよりはスマートで、頭は三角形に近くシャープな印象。全体的ににギジオレよりは細身に見える。
そして一番の違いが、背中に背負ったバックパックだろう。あれはどんな機能が詰まっているのだろうか。
「こいつが例の黒いのか」
晴人が黒いギジオレ——仮にクロオレとする——を見上げて言う。
「また吸い取られたりして」
何で嬉しそうに言うんだよ。
「まあ、結果、悪くなかったよな?クリオナ」
「そうですね。必要な事だったのかなと」
「素直になる事も大事って事だね」
「せんぱい、今度は動画に収めておきますね」
なぜか嬉々とした三人。なんで俺が記憶を無くすような事態を喜んでいるのか。頭の中のものが吸い出される気持ちがわからないのか。
「そんなのいらないわよ」
そしてなぜ可奈子は赤くなって下を向くのか。
とにかく、クロオレにはひどい目にあわされたので、その事についても聞いておかなければならない。慰謝料請求とまではいかないが、せめて説明されなければ納得出来ない。
俺はそう思いつつ、クロオレの赤い目を眺める。って、あれ?
「さっき目が光ってたっけ?」
俺が言うと、全員がクロオレを見る。
「どうだったかな。光って無かったような」
「ギジオレは、メインスイッチが入ると目が光るのよね」
可奈子が思い出す。てことは、
「洸平さん。あの黒いギジオレさん、アンドロイドが乗っています」
クリオナの言葉に応えるように、クロオレはゆっくりと動き出した。




