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妄想ロボ ギジオレ  作者: みつつきつきまる


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3/36

03


 ギジオレが警察署から戻って来たのは一週間後だった。

源治おじさんはその間何度も警察署に出向き、ギジオレの説明をしたり、取り調べを受けたりと忙しそうにしていた。まあ、自分のせいなのだが。


 その一週間ずっと警察署の駐車場にギジオレが立っている様子は中々シュールだった。


 そして保管場所を決めて警察署に届け出をする事を条件に、ギジオレは源治おじさんの元へ戻ってきた。警察としても、持て余していたと言うのが正直なところだろう。

 

 警察署に押収された時もそうだが、ここまで大きいロボだと移動させるのも大仕事。背の高いロボを正座したような状態で動かすのだが、あまり強く引っ張ると後ろへ倒れてしまう恐れがあり、そうなると町に被害が出てしまう。そのため重機でゆっくり移動せざるを得なかった。どうにか一車線を占領するだけで済んだが、その間交通は麻痺。迷惑以外の何者でもない。


 迷惑をかけた当事者であるロボットは、正座して移動させているので、罪人を市中引き回しの刑にしているような雰囲気がある。


 ひとしきり見せしめを受けてやって来たのは、俺と可奈子が通う積星高校の裏山。家から歩いて来れば二十分程で着くだろうが、結局二時間程かかった。そこに体育館ほどの大きさの倉庫らしき建物があり、そこにギジオレは収められていた。身長が高いので、正座して。


「いつの間にここ借りたのよ」


 まるで反省しているかのような姿勢のギジオレは膝をついて両手を膝の上に置いている。そして右踵あたりから太いケーブルが伸びていて、ギジオレをここに運んだ時に使用した装甲車みたいな重機に繋がれている。その周囲には、変圧器であったり工作機械であったり、工具の類であったりドラム缶などが乱雑に置かれていた。


 そんなガラクタにしか見えない物を見回しながら、デニムのショートパンツに黄色いTシャツという健康的な格好をした可奈子は言った。


「借りたんじゃない。買った」


 源治おじさんは胸を張った。


「な、何で勝手に!」


「いや、ここならギジオレが出入り出来るだろうからな。いや、ここを出入り出来る最大限の大きさに作った、と言った方が正しいか」


 まさかの施設合わせ。ここが元々なんの施設だったのかは分からないが、天井は二十メートル以上はありそうで、正面には同じくらいの高さの頑丈そうな扉がある。飛行機でも保管していたのだろうか。


 確かに座った状態ならギジオレを通す事は出来たが、座らせるのが一苦労だった。バランスを保つために一つ一つの関節をゆっくりリモコン操作していき、膝を着くまで三十分かかった。それも到着が遅れた要因でもある。ただ、膝にはしっかりと車輪があった。元々そのつもりで設計されているのだろう。


「だったら最初からここから出さなきゃ良かったのに。わざわざうちに持って来るから、こんな騒ぎなったんじゃないの?」


「なるほど。それもそうだな」


 気付いて無かったんだ。しかも、わざわざ立たせて。


 先日は下半身しか確認出来なかったが、今日は反省スタイルのギジオレの上半身を確認出来る。


 頭はシンプルに六角形で両サイドにはアンテナが立っており、顔の中央付近には目を模したようなレンズが二つ並んでいる。おそらくカメラだろう。胸には観音開きの扉があり、おそらくはコックピットのハッチか。コックピットは透明な球を胸に埋め込んだ様な形状で、三方向から外の様子が確認出来るようになっている。両腕は本当にシンプルな長方形を繋げたような物。全体的にシンプル。


 まるで子供が図工の時間に作ったような見た目だが、少なくとも様々な関節が稼働する事は俺も確認しているので、ただのオブジェではなさそうだ。ただあの様子を見る限り、機動力には期待出来そうに無いが。


「そんな事より」


 正座してうなだれているギジオレを見上げながら、可奈子が腕を組んで言った。


「これをどうするつもりなのよ。ただの飾りにしては厄介で迷惑なんだけど」


「言うねぇ可奈子。でもこれはある意味洸平君自身なんだからそこまで言ったら可哀想だぞ。ほら、似てるだろう?」


「似てるのは情けなさそうな所だけよ」


「ひどい事言うなぁ」


 可奈子は学校では人格者で通っていて人望が厚い。好意を寄せている男子もいると聞いたことがある。ただ俺にだけは厳しい。いや、俺と源治おじさんには厳しい。


「まあ、情けなさそうなのはともかく」


 おじさん、否定してよ。


「こいつに洸平君が命を吹き込むんだよ。充分な妄想力を与えれば、無限の力を発揮するはずだ。必要な情報は全てプログラムしてあるから、あとは妄想力を込めるだけだ。さあ、洸平君」


「え?何何?」


 源治おじさんが手元で何かを操作すると、ギジオレの胸のコックピットのハッチが開いた。リモコンで操作したらしい。


 源治おじさんが黙ってそちらを手で指し示す。


「乗れって?」


「何が起こるか、乗ってみればわかる」


 乗っていいものか、迷って可奈子を見た。可奈子は肩をすくめて首を振った。


「洸平が乗らなきゃ気が済まないみたい。こんな時は頑固なのよ」


 止める人はいないらしい。


 仕方なく俺はギジオレの膝に近づくと、梯子のような出っ張りがある事に気付いた。それを掴んでギジオレの少し傾斜のかかった太ももに乗ると、横に走るモールドを掴んで上って行く。股関節の辺りまで来ると、コックピット内部の手すりに手がかかったので、そのまま体を持ち上げてコックピットに転がり込んだ。


 そうか、ギジオレのこのポーズは反省しているのではなく、搭乗のためのものだったのか。どうせならもっと乗りやすくしてもらいたい。


 コックピット内には自動車から外したらしいヘッドレストの無いシートが二つ前後に並んでいた。違う車種から外したのか、色も形も違う。


「右側にヘルメットがあるだろう?」


「ヘルメット?これかな?」


 顔を露出させるタイプのバイク用のヘルメットが転がっていた。手に取る。


「それを被ってもらえるかい?」


「嫌だなぁ。配線とかあるし。電気とか流れないよね」


 丁寧にヘルメットの内側に張り巡らされた配線に不安を覚える。頭頂部には電極のような物まである。その配線は後頭部の辺りで全てまとめられ、コックピット後部へ繋がっている。


「大丈夫だ。君の妄想力をギジオレの全身に送るための配線だから、電気が流れる事はない。もしかしたら妄想力と言うものは電気のように痺れるかもしれないが、確認してはいない」


「確認しといてよ」


「残念ながら、中年には充分な妄想力は残っていないんでな。研究の結果だ」


 そうかなぁ、源治おじさんにはありそうだけど。


 そう思いながら、仕方なくヘルメットを被る。配線やら何やらのせいで被り心地は悪い。


『では、これからはこちらで指示する』


「わぁ!」


 突然耳元で源治おじさんの声がして、思わず声をあげた。何の事はないスピーカーが仕込んであるだけだ。


『では、ハッチの右側にある緑色のボタンを押すんだ』


 ああ、これか。


 俺が緑色のボタンを押すと、シューとエアシリンダーの音と共にハッチが閉まった。急に息苦しく感じる。


 俺はシートに座る。太ももの間には小さめの操作盤にいくつかのスイッチと計器類、色とりどりのランプがあり、足元には二つのペダル。シートの両サイドにも操作盤はあり、そちらにもいくつかのボタンと、左右にそれぞれ一本ずつ棒が立っている。肘掛けに肘を置いた時に握れそうな位置にあるので操縦桿だろう。


 一応シートベルトもあった。しかも普通の自家用車にあるような三点式ではなく、レーシングカーに使われるような六点式。それを何とか締める。


『ではまずはメインスイッチを入れるんだ。目の前の大きなスイッチがあるだろう?』


 俺の足の間、と言うか股間の辺りにマンガみたいなスイッチがある。出ている方を押すと反対側が持ち上がる、よくあるタイプのスイッチ。

 

 俺がそのスイッチを押すと、ブゥンと低い音と共に全ての操作盤に光が灯った。ギジオレが目を覚ましたのだ。


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