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期せずして、ギジオレは有名になってしまった。
結局俺が謎のロボットのパイロットだとバレてしまったし、それを作ったのは源治おじさんだとバレてしまった。
その割にさほど騒がれないのは、地球連合軍が多様なりとも関わっているとされているからかもしれない。時折ギジオレの事を詮索しようとする輩もいるが、地球防衛軍をチラつかせると大抵はおとなしくなる。
現状は、俺が学校でなぜか囃し立てられているだけだ。
「と言うわけで、俺は学校に行きたくなんだが」
秘密基地で、俺はぼやく。今日は文化祭の後片付けという事で半日で帰って来た。明日は日曜日で、月曜日は振替休日となるので、少し落ち着かせる事は出来るかもしれないが。
「別に悪い事してるわけじゃないんだから、いいんじゃないのか?」
全く他人事の晴人。
「褒められているんだと思いますけど。違うんですか?」
こちらも他人事のクリオナ。
「やっぱりちょっと恥ずかしいわね」
半分当事者の可奈子。
「恥ずかしいと言えば・・・うふふふ」
変な笑い声をあげる桧山さん。って、
「何で桧山さんがいるの?」
桧山さんはツインテールを揺らしつつ、顔を両手で押さえつつ何かを思い出している様子。
「だって、来たいって言うから」
言ったのは可奈子。ん?可奈子ならびしっと断りそうなものだが。
「そうです。連れてきてもらいました。ロボットについても説明してもらいました」
「洸平が欲情するたびに強くなるってな」
晴人、そういう言い方をするな。
「だからあの時——」
「待って待って!」
何か言おうとした桧山さんの口を可奈子が手で塞ぐ。ふがふが言いつつ嬉しそうな桧山さんに、可奈子は何か握られているのか?
「何なに。聞かせてよ」
「何があったんですか?」
晴人とクリオナも興味津々な様子で桧山さんに寄って来るが、顔を真っ赤にした可奈子が桧山さんの口から手を離さない。
まあ、桧山さんがいても問題ないかと思っていると、源治おじさんがやって来た。
「彼女だが」
桧山さんを指差す。
「ちょっと危険だ」
「危険?」
小さくて可愛い女の子である。危険とはどう言う事だろうか。
「彼女の妄想力だ。少し調べてみたが、彼女の妄想力は強すぎる」
「強すぎる?何それ」
「簡単に言うと、常に暴走している、と言えばいいかな」
「暴走って」
俺は言って、可奈子に口を塞がれながら体をくねらせている桧山さんに目をやる。まあ、暴走してるって聞くと納得。
「常にではないんだろうが、妄想力を発揮する時は一気に暴走レベルまで高まるようだ。まあ無いと思うが、彼女にギジオレを操作させるのは避けた方がいいだろう」
「さすがに無いと思うけど」
そんなに危険なのか。もしギジオレを操縦したらどうなるのだろうか。昨日の俺のように記憶がなくなる位で済むのだろうか?
「わー、せんぱいと、先輩がー!」
「ちょっと待ちなさい!」
可奈子の手から逃れた桧山さんが逃げ出し、可奈子が追いかける。
その時、
『避難警報。避難警報。こちら地球連合軍。他惑星の侵略行為により、緊急避難をしてください』
虎杖浜市の各部に取り付けられたスピーカーから、けたたましい音と共に電子音声が流れる。
「侵略者?トー・レ・ヴィオか?」
「戻ってきたのか?」
俺は晴人と顔を見合わせる。
「そんな情報はありません。トー・レ・ヴィオの宇宙船は戻っていないはずです」
「ロボットの出番ですか?」
桧山さんが言う。わくわくした目で。
「いや、違うな」
源治おじさんは呟く。
「トー・レ・ヴィオの時は連合軍はこんな放送しなかった。気づいてたはずなのに無視していた。ギジオレの能力を見るんだか、トー・レ・ヴィオの様子を見るかは知らんが、奴らは一切出てこなかった。今回こうやって放送を流すって事は、奴らが動こうとしているって事だろう」
「そっか。前は何も放送も無かったし、見にも来なかったわね」
「だから何か策があるか——ギジオレの偽物ができたから試運転か。もしかしたら、この侵略だって自作自演かもしれん」
「そんな事するかな」
俺は言う。地球連合軍が自作自演する意味がわからない。そんな俺に源治おじさんは、
「平和な世の中で権威を守るために出来る事は限られてるって事だよ。時折こうやって自分たちの存在を示すようなアピールしてないと、忘れられたり、批判の対象になっちまうからな。侵略者はやりすぎだが、こんな事は日常茶飯事だ」
うーん。解せない。自分たちの影響力を保持するために事件を起こすと。それで周囲に与える影響を考えると、いまいち納得出来ない。
「俺は自作自演に賭けるね。まあ、テレビをつけてみな」
おじさんに言われ、可奈子がテレビをつける。
『緊急放送、異星人の侵略!』と大袈裟な文字がテレビに浮かび、その侵略者らしい機械が映し出された。
「ほら、準備のいい」
まるで異星人の侵略を予め知っていたかのように、生放送が始まった。
場所は虎杖浜の繁華街。何度かデートに出かけた、あの場所。あの映画館や画材屋も奥にちらっと映っている。
「何かバッタみたい」
テレビに映る侵略者側のメカを見て可奈子が言う。バッタ頭からバッタの足が生えたような、不気味な造形。横に映る公衆トイレと同じ高さくらい。
「気持ち悪いですぅ」
桧山さんが眉間に皺を寄せる。
「そこで正義の味方の登場かな」
晴人が軽く言うと、それを合図にしたかのようにあカメラが切り替わる。ギジオレ——とは似ても似つかない、骨格標本のようなひょろりとしたロボットが数十体整然と並んでいた。訓練場で見たCK01に似ている気がする。身長は、二階の窓を覗き込める位だろうか。ギジオレよりは小さい。
「ギジオレっぽくないなぁ」
「あんまり防御は重視してないみたいだな。ギジオレの内部構造みたいだ」
俺が呟くと、源治おじさんが付け加える。
「試作機って事かな」
「そうかもな」
試作機は自分の身長ほどの大きな火器を両手に持っている。
「あのマシンガンは・・・」
クリオナがテレビに目を凝らしている。
「ZZC668CPです」
「え?何?何ですか?」
クリオナの呟きに,桧山さんが疑問を返す。
「クリオナが知ってるって事は・・・」
晴人が言うと、クリオナがうなずいた。
「トー・レ・ヴィオの武器です」
俺たちは結局繁華街までやって来た。
俺と可奈子、晴人とクリオナの四人はギジオレに乗って、桧山さんは源治おじさんと自動車に乗って。桧山さんはギジオレに乗りたいと騒いだのだが、後で乗せるからとどうにか説得してこうなった。
「着替えて来れば良かったかな」
可奈子が自分のセーラー服を眺める。セーラー服姿で乗るロボ。なんだか変な気持ち。
「本当に人がいないわね」
ビルの影から現場を覗くギジオレ。周囲を見回してみると人っ子ひとりいない。避難は順調にいったらしい。
「避難してないのは俺たちだけか」
「私たちはすべき事がありますから」
晴人とクリオナはそう言って笑い合う。
『せんぱい。後で乗せてくださいよ』
桧山さんの不満そうな声。桧山さんはギジオレの足元に停めてある源治おじさんの小型車に乗っている。
「それより、家に帰った方がいいんじゃない?ご両親が心配してるんじゃないの?」
警報が鳴っている現状、心配していない訳がない。
『大丈夫です。桜川せんぱいの家に泊まるって言ってあります』
「いつの間に」
晴人が声を上げる。いやいや、そんな事聞いてないぞ。
「私の家に泊まるんだって。何か断れなくて。だからクリオナも誘ったんだけど」
「楽しみにしていまる」
『クリオナ先輩とお近付きになれるなんて・・・』
そんなやりとりにやれやれと思いながら通りを見やる。試作機らしきロボットと、バッタのようなロボットの睨み合いが続いている。動けないと言うよりは、様子を伺っているように見える。
「やはり、あれは——」
クリオナが呟く。
「やっぱりトー・レ・ヴィオの武器?」
可奈子が聞くと、クリオナが頷いた。
「はい。でも、それ以上に気になるものがあります」
いつになく厳しい顔をしている。
「あの試作機らしきロボットに乗っているのは、トー・レ・ヴィオのアンドロイドです」
「え?どういう事?」
「あっちは地球連合軍側じゃないの?」
可奈子と俺が疑問を投げかける。
「おそらくそうですが、トー・レ・ヴィオの武器を持って、トー・レ・ヴィオのアンドロイドが操縦席に乗っています」
「どういう事?」
晴人も訪ねる。
クリオナは首を振ると、
「分かりません。地球連合軍とトー・レ・ヴィオが協定を結んだのか、トー・レ・ヴィオのアンドロイドを地球連合軍側が利用しているのか。分かりませんが、トー・レ・ヴィオと地球連合軍が何らかの形で協力体制を築いていると見て間違いないでしょう」
「そうなるわね」
結局疑問は解消しないまま、可奈子はそう言うしか無かった。
疑問を抱えたまま、俺たちは睨み合うロボット達を眺める。
先に動いたのはバッタロボ。それらは一斉にバッタよろしく身長の倍ほどの跳躍を見せると、試作機ロボに迫る。
『単調だな』
ヘッドギアから源治おじさんの声。そう、バッタロボはただ迫っただけ。
試作機ロボのマシンガンが火を吹く。弾丸はバッタロボに跳ね返される。試作機ロボは整然と広がり、バッタロボたちを囲むフォーメーションを組む。
『おかしいな』
源治おじさん声。
『クリオナ君。彼らはトー・レ・ヴィオのアンドロイドだと言ったな』
「はい」
『向こうでも妄想力のような物が感知された。いや、正確には妄想力ではなさそうだが、それに類するものだ。アンドロイドは妄想を理解していないのではなかったかな?』
源治おじさん後ろから、アンドロイドって何の事ですか?という声が聞こえるが、源治おじさんはあとで説明する、と言って制した。
「はい。理解はしていないはずです。感情回路が組み込まれている私でも理解ができていないはずですから。しかし、あの副司令官さんが気になる事を言っていましたね」
『邪念の事か』
そう言えばそんな事を言っていたな。
「はい。邪念は妄想よりも理解するのは容易なように思えますが、博士はどうお考えですか?」
『妄想力は煩悩と想像力の組み合わせだ。邪念は煩悩に含まれるが、想像力は持ち合わせていない。妄想力はそれだけでエネルギーと制御の両方の性質を持っているが、邪念はエネルギーだけだ。理解するのは簡単だ』
源治おじさんは言う。
『だが、ギジオレの操作となると話は別だ。妄想力ならギジオレの動きを想像すればその通りに動いてくれる。だが、動かすエネルギーしかないのなら、手動で精密に操作しなければ満足に動かす事は出来ない』
そう、俺はいつも操縦桿を握ってはいるが、その操作よりもイメージでギジオレを動かしている。
『それは人間には無理な相談で俺はそれの利用を諦めた。だが——』
源治おじさんは言葉を一瞬切った。
『訓練されたアンドロイドなら、それが可能かもしれん。それを連合軍は確認したいのかもな』




