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妄想ロボ ギジオレ  作者: みつつきつきまる


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 蛇ともミミズとも言える機械が、生き物のようにのたうちまわっている。こちらに向かってくる様子はなく、地震もいくらか収まったが、見ていて気持ちのいい物でもない。それに、いつこちらに襲いかかってくるかもわからない。


「何あれ気持ちわるっ!」


 言ったのは、いつの間にかやって来た桧山さん。


「部長達は机の下に隠れてます」


「とにかく無事なんだね。よかった」


「むー」


 可奈子の顔がまた機嫌の悪い顔になる。もういいから、それ。


「しかし、何だあれ?」


 ただただうねるあの物体を、俺たちはただ眺めるだけだった。敵か味方かも、攻撃されるのかどうかもわからない。まして、話し合いでどうにかなる相手でもなさそう。


 地球連合軍にでも連絡した方がいいのだろうか。校舎からうねる蛇を通り過ぎた海の向こう、地球連合軍の極東支部を眺めながら俺は思う。ん?でもこの蛇が向こうから来たって事は——考えすぎか。


 ともかくどうしよう。おそらく先生達が地球連合軍なり警察には連絡してくれているとは思うが、それらが到着するまでどうしようか。


「今は校舎に逃げていた方が——」


「あれは何だー!」


 誰かが叫んだ。正門の向こうに砂煙が起こっている。ラリーなんかで見る、あんな砂煙。その砂煙の主は蛇が破った校門から猛スピードでこちらに向かって来た。跪いた姿勢で。


 白い機体を輝かせながら、ギジオレは俺たちの前で停止した。


 可奈子と顔を見合わせる。


「おおー、ロボットだー!」


 興奮しているのは桧山さん。他の生徒達も盛り上がりを見せている。


「これって」


「私たちにどうにかしろって事?」


 目撃者がたくさんいる。いや、ロボットに乗っているのが知られるのが嫌なんじゃなくて、それがどういう動力源で動いているか知られるのが嫌なのだ。妄想力で動いている——可奈子で——と知られると、まるで幼馴染みをオカズにしているような後ろめたさがある。


「せんぱいたちのロボですよねっ」


 期待に目を輝かせる桧山さん。


「やるしかないようね」


 まず覚悟を決めたのは可奈子。そりゃ、恥ずかしいのは俺の方だし。


「やるの?本当に?」


 出来ることなら避けたい俺。だが、当然おれは可奈子に逆らえる訳もなく、ギジオレの踝にある操作盤をいじる。コックピットハッチが開いた。


「嫌だなぁ」


 気が進まないまま、ギジオレを上って行く。チアガール可奈子も続いて来た。


 見上げている野次馬から『あれ竹浦さんじゃない?』『可奈子ちゃんだ』『チアガールも可愛いな』などと言う声が聞こえて来るが、無視する。


「あ、あ、私も」


 なぜか桧山さんもついてくる。


 『あれが桧山さん?』『みのりちゃんだ』『白なんだ』と言う声も聞こえて来るが、それも無視。


 操縦席に収まり、右隣のシートに可奈子が座る。俺の真後ろのシートに桧山さんがついた。


「何でついてきたの!」


 俺が言うと、桧山さんは舌をぺろっと出して、


「面白そうじゃないですか」


 そう言って笑った。


 俺はため息をついて、


「もういいから、シートベルト締めて」


「これですか?締め方が分かりません」


「あー、もう!」


 俺は一度立ち上がり、桧山さんのシートベルトを締めに行く。


「あんっ、せんぱいっ、変なところ触っちゃ」


「もう、静かにしてくれよ」


 なるべく桧山さんに触らないようにシートベルトを締めると、操縦席に戻って来る。


 可奈子がこっちを見ている。


「私も締め方わからない」


「前締めてたろ」


 言うと、また口をへの字に結んで、シートベルトを締め始めた。


 俺と可奈子がヘッドギアを装着し、全員がシートベルトを締めたのを確認すると、


「可奈子、ハッチを閉めてくれ」


「むー」


 おかしな返事をして、可奈子がボタンを押すと、ハッチがゆっくり閉まった。


「じゃあ、ギジオレ起動・・・って、メインスイッチはどれだ?」


 そう言えば、新型ギジオレを操縦するのは初めてだ。


『メインスイッチは目の前の操作盤の赤いスイッチだよ』


 源治おじさんの声がヘッドギアから聞こえてきて、少し安心する。


「そんな事より、なんでギジオレがあるの」


『近くだったからな。新ギジオレの試運転にはちょうどいい』


 試運転ねぇ。


『操作は前と変わらないから心配するな。機動力と最大出力が上がっているから、前よりも動かしやすいはずだ。あとはいつも通り、妄想力を発揮してくれ』


「それが不安でね」


 言いながら、隣を見る。少し汗ばんだチアガール姿の可奈子が機嫌の悪そうな顔をして座っている。そんな非日常な景色が、なんか胸をシクシクさせる。しかも、後ろには後輩。


「せんぱい、このタブレット何ですか?なんかすごい数値が上がってく」


『他に誰かいるのか?』


「まあ、行きがかり上」


『ふむ・・・ではこれもデータを取る事にしよう。クリオナ君に代わる』


『クリオナです』


 クリオナの澄んだ声に変わった。


『その機械は、おそらくトー・レ・ヴィオの忘れ物のようです。私のデータベースにはありませんが、使われている機構や周波数を考えると間違いないでしょう。攻撃と言うよりは、そこで邪魔して迷惑をかけるだけの存在のようです』


「なんでそんな物が・・・」


『分かりませんが、もしかすると色々な場所にこのような物が残されているかもしれません。帰り支度出来たとも思えませんから』


 そう、帰り支度もなく宇宙の果てに投げ飛ばしたので、忘れ物も色々あるだろう。こんな風に迷惑をかけるものでなければ良かったのだが。


『ギジオレさんならばおとなしくさせる事は可能でしょう。ただ、場所が学校だって事を忘れないで下さい』


「わかってるけどさ」


 俺は背後を見ようとすると、ギジオレのカメラが背後を向き、なにやら随分盛り上がっている野球部やら、チアガールやらが正面ディスプレイに映る

。真後ろも見えるようになったんだ。


 俺は操縦桿を操作して前進。うねる蛇。


「うわぁー、近づくとやっぱり気持ちわるい」


 桧山さんが声を上げる。


「単なる機械でしょ」


 可奈子が不機嫌そうに言う。


 じゃあ、まずはどうすればいいのだろう。武器は搭載されていないので、とりあえず抑えに行ってみる。


「うわっ」


 うねうねに弾かれる。次に体ごと突っ込んで、両手で胸に抱え込むようにして捕まえにかかる。


 胸に抱えて・・・?


「わー、何ですかこの数値ー!すごい上がってる!」


「このやろっ!」


 ギジオレはどうにか蛇を掴むことが出来たが、暴れているために振り回される。ついには持ち上げられ、振り回される。


 なんとか捕まってはいるが、しがみついているのが精一杯で、次の行動に移れない。


「洸平!このままじゃ振り落とされる!」


 白地に赤で『SEKISEI』と書かれたチアガール衣装の可奈子が叫ぶ。いつもはこんなに肩を出す服は着ないよなぁ。太ももはいつもこれくらい出してるけど、ショートパンツとスカートでは趣が違う。それに、少しだけ汗の匂い——


「せんぱい!数値が凄い事に!」


 タブレットから臨界点のような音がするが、俺は冷静に蛇から手を離す。空中で姿勢を整え、校庭端の花壇の手前に着地。


 盛り上がっているのか、歓声が聞こえる。


「・・・っと!」


 瞬間に再び蛇の方に滑るように向かう。姿勢を低くし、手を地面と蛇の間に突っ込むと、


「うりゃ!」


 全部まとめてひっくり返す。


 一瞬動きを止めた蛇は、頭をこちらに向けてくる。いや、尻尾かもしれないが。それを体ごと避けつつ、顎(多分)にアッパーを叩き込む。頭は上空に弾き飛ばされる。

 

「今度は尻尾が来る!」


 可奈子が言う。チアガールの衣装は少し小さめなのか、体のラインがくっきり出る。


 俺は飛び出してきた尻尾を両手で掴み、そのまま地面に叩きつける。そして上から拳を叩き込むと、蛇の尻尾を貫通して地面までえぐれた。


 すると、先程上に弾かれた頭が、今度は螺旋状にギジオレを囲みはじめ、巻きついてきた。ギジオレの関節の関係か、うまく力が伝えられずに振り解く事が出来ない。アニメか何かだと、両手を広げる勢いで蛇を引きちぎったりするのだろうが、ギジオレではうまくいかない。


「洸平!逃げられないの!」


 必死な可奈子の顔。ギジオレが揺れると、可奈子のポニーテール以外にも揺れる場所がある。もっと揺らしてやりたいな。


「でも、うまく力が入らない!」


 ぎりぎりと締め付けられる。各部の関節がみしみし音をたてる。


「だったらもっとパワー上げて!」


「出来りゃやってる!」


「このボタン何ですか?」


 ぽち。


 どう言うわけか、桧山さんは天井にあるわざわざプレートでカバーされているボタンをわざわざ押した。


 ふっ、と。俺の意識にノイズが走る。次の瞬間、空間の全てが止まったように感じる。音も無く、光も無い。ただ、体の奥底で燃え上がる何かがあった。


 ギジオレから何かが流れ込んで来るのがわかる。頭は冷静なのに、体の奥の衝動が俺の体を動かす。


「せんぱい!数値が、あっ」


 パリンと言う音。タブレットが割れたらしい。


「洸平!どうしたの!」


 可奈子の声が聞こえる。体の奥はさらに熱を帯びてくる。


「っらぁぁぁ!」


 叫んで操縦桿を動かすと、それまでびくともしなかった蛇を、ギジオレの腕を広げる勢いで木っ端微塵に砕け散った。吹き飛ぶのではなく、その場で燃え尽きたように風に消えた。まるで紙を燃やすかのような、そんなあっけなさ。


 ギジオレを中心に衝撃波が走る。地面はうねり、先程の地震に負けないくらいの振動が、ギジオレの一つの動きで巻き起こされる。


 騒ぎながら校舎の方に逃げていく生徒達。


「あっ」


 可奈子が声を上げる。チアガール姿の女生徒が躓いて転んだところに木が倒れてきた。


 俺はギジオレを滑らせる。ギジオレが動いたのではなく、向こうからやってきたのではないかと思う程のスピーとで駆け寄り、倒れて来た木を支えると、静かに横に置いた。


 女生徒が起き上がって逃げるのを確認すると、俺は大きくギジオレをまた滑らせる。校舎の反対側、破られた校門を抜け、裏山へと向かう。


 秘密基地と学校の中間辺りで、俺はギジオレを止めた。跪いた姿勢で佇む。


 俺は落ち着いていた。落ち着いてはいたが、体が大きく息を吐くの求めていた。


「ちょっと洸平!」


 可奈子の声がする。怒っているような、心配するような、いつもの声。


「せんぱい!大丈夫ですか?」


 桧山さんの声。あれ?俺は何を心配されているんだ?


「ちょっと洸平、目がおかしい・・・」


 それで可奈子は何か思い出したようだ。だが、意を決したようにシートベルトを外すと、俺のヘッドギアを外そうと手を延ばす。


 その手を俺はとった。優しく。


「え・・・?」


 目の前にある可奈子の顔。もう何千回見たかもわからない、俺の日常の一部である可奈子の顔。目は微かに潤んでいて、唇が震えている。上気した頬は俺を心配しているからだろうか。大丈夫、俺は心配される状態には無いよ。


 俺は可奈子を安心させようと、そっと抱き寄せる。


「ちょ、洸平・・・」


 ゆっくりと可奈子の顔が近づいてくる。頭に手を回し、さらに引き寄せると体が触れ合った。可奈子の体も熱くなっている。


「っ、ダメ・・・」


 触れ合った胸から可奈子の鼓動が伝わる。もしかしたら俺の鼓動かもしれない。そんな柔らかな振動に心地よさを感じながら、可奈子の顔を引き寄せる。


「おおぉっ!せんぱいたちのっ!」


 桧山さんの声が聞こえる。だが、そんなものが関係ないくらいの衝動が、俺を突き動かす。


 吐息が伝わる。鼻が触れ合う。唇が近づいてくる。 


そして——


 ??


「あ、あれ?」


 ふと気づくと、可奈子が俺のヘッドギアを持って立っていた。向こうを向いて。


「あれ?どうしたんだ?あの蛇みたいのは?ここはどこだ?」


 記憶がすっぽり抜けている。あの蛇に対峙して、巻き付かれたくらいまでは覚えているが、それ行以降がはっきりしない。霧がかかったよう。


 チアガール姿の可奈子は後ろを向いている。


 不思議に思いつつ後ろを見ると


「おおおっ。せんぱいたちの、おおっ」


 恍惚とした真っ赤な顔を両手で押さえ、桧山さんは繰り返している。


「俺、どうしたの?」


「えへへへ・・・覚えて無いんですか?あのですね」


「いいのよ。その話は」


 可奈子は言って、顔も向けずに俺にヘッドギアを投げてよこす。そんな乱暴にしなくてもいいだろうに。


「えへへへ・・・せんぱい、知りたいですか?」


「ああ、何があったの?」


「あぁぁ、言いたいなぁ、言いたいなぁ」


 桧山さんが悶えていると、可奈子は素早く桧山さんのシートベルトを外すと、


「あんっ、先輩、そんな乱暴な」


 コックピットハッチが開くのも待てないとばかりに桧山さんをつれてギジオレから飛び出した。桧山さんを森の奥に連れていく可奈子。


 うーん。


「何なんだろう」


 俺はこの時の記憶が未だにない。




 一週間後。


「なあ小山田」


「なんだ関谷」


「こんな事もあるんだな」


「ああ、生きてればいい事もあるものだ」


「何やってるんすか?」


 お化けを模した布から顔を出してしみじみ語っている関谷部長と小山田先輩に、俺は訪ねる。二人が見る先には美術部によるお化け屋敷の受付。人だかりが出来ている。


「三年目にして、初めて女子と一緒に文化祭を楽しむと言うミッションが完遂された」


「ああ、感無量だ、関谷よ」


「これって、一緒に楽しんでるって言うんですかね?」


 お化け屋敷の受付は当然のように桧山さんと、なぜか不満そうな可奈子と、なぜか楽しげなクリオナが担当している。どういう経緯でこうなったかは知らないが、女子三人が美術部の文化祭に参加するのは前代未聞らしい。


 だがこれを一緒と言っていいものか。


「同じ目的の為に同じ方向を向いているのだ。一緒と言う以外に何がある」


「いや、それは屁理屈では」


「屁理屈でも何でもいいんだけどさ」


 そこへ晴人が人魂の作り物を吊るした棒を手にやって来た。俺が応援に呼んだのだ。


「君は別に帰ってもいいぞ」


「そうだな。男は間に合ってる」


「ひでぇ事言う。でもさ」


 晴人は受付を指差す。人だかりは途切れそうに無い。


「可愛い子ちゃんたちに受付してもらってるから、来るのは男子なんだよね」


「むむっ」


「それは盲点だった」


 こうして俺たちの文化祭は終わった。


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