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巨大な輸送艦にギジオレが飲み込まれてゆく。小学生が夏休みに作ったような格好の悪いロボットだったが、別れるとなると寂しいものがある。
「あれはあれで味があったよな」
「何か色々あったから、ちょっと悲しいな」
運ばれていくギジオレを眺めながら、しみじみと俺と晴人は言う。
「でも、こっちの方が格好いいんじゃない?」
「こちらの方が高性能だそうです」
「女は浪漫がないなぁ」
身長が多少低くなった関係で立っている事が許された新ギジオレを見上げながら言う女性陣に、晴人が言う。
トー・レ・ヴィオと取引するために作られた新ギジオレだが、期せずして手元に残る事になったので有効利用しようと言う事になった。旧ギジオレが連れて行かれる以上、新ギジオレを新たに使えるようにしなければならない。
「でもせっかくなら高性能な方が良くない?格好いいし」
「そうですよ。兵器って言うのは、常にアップデートされるものです」
女性陣は意外とドライだ。競技場では旧ギジオレも捨てたもんじゃないと言っていたはずだが、心の移ろいとは速いものだ。
「そう言うもんかね」
俺はそう言うと、ギジオレの踝の辺りにある操作盤を操作する。ゆっくりとギジオレは跪いてコックピットハッチが開く。跪いた左足を上り、操縦席に収まる。
旧ギジオレと基本的な配置はほぼ同じ。ただ、どれも洗練されている。自動車のシートを流用した操縦席は専用の物が用意されており、座り心地がいい上に前後共二席に増えている。そのせいか、シートの間に位置するはずの操作盤はなくなっていて、操縦桿だけがシフトノブのように生えている。その操縦桿は左右共に滑らかで、足の間の操作盤には物理スイッチではなく、タッチパネルが配置されている。フットペダルはオイル式なのか、カツンカツンと当たる感触もない。
確かに、こっちの方が操縦はしやすそうだ。
「あんまり広くなってないわね」
可奈子もコックピットにやって来た。操縦席の右隣のシートに座る。広く感じないのは、シートが四つに増えたからだろう。いつも四人で行動しているから、増やしてくれたのだろうか。いや、そうなるとトー・レ・ヴィオに渡すつもりは無かったと言う事か?
そう思いつつ可奈子とコックピットを調べていると、頭上に透明な板で保護された半透明のボタンがあるのに気づいた。火事の時に押すような、板を破ってから押すボタン。
可奈子と俺はそれぞれの席に用意されているヘッドギアを装着すると、
「パパ、上のボタンは何?」
答えはすぐ返ってきた。
『それは、ギジオレのリミッターを解除するボタンだ。本当は別に無くてもいいんだが、念の為用意してある。それを使用すると、その言葉通りギジオレに送り込まれる妄想力の際限が無くなる。その分洸平君に妄想力が逆流しやすくなるから、あまり利用するのは勧めないね』
「つまり暴走しやすくなるって事?」
『ああ、前みたいにな』
言われて思い出す。旧ギジオレでのコックピットでの出来事。俺はともかく、可奈子も下を向いて黙ってしまった。やっぱり忘れてないよな。
『旧ギジオレよりも安全対策は注意したつもりだ。だが、それを超えるような妄想力だと、旧ギジオレ以上の影響を与えかねん。もし使用するなら覚悟が必要だ』
「まあ、使う事は無いだろうね。そう期待してるよ」
「おおっ。俺たちの席も用意されてるのか」
「私もですか?」
晴人とクリオナもやって来て、各々席に座る。
「こっちにはタブレットが据え付けられてるな。ここで洸平の妄想力が観測できる訳だ」
「今も少し反応してますね」
「何か思い出したのかもしれないね」
「何も思い出してないよ」
平静を装って言う俺。そんな中、旧ギジオレは輸送艦に載せられ、どこかへ運ばれて行った。




