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彼らがパイロットを手に入れようとする可能性については考えられていた。どのような手を使ってくるかは不明だったが、自分達が完全に力を発揮させる事のできない兵器を動かすために、パイロットを欲するのは自然に思えた。
それを心配して俺をこの場に連れてこないという選択肢もあったが、そうすると俺に関わる全てのものが標的となる可能性があった。それは可奈子かもしれないし、源治おじさんかもしれない。
その点俺がここまで来ていれば、標的は俺になる。囮のようなものか。
しかし、ギジオレのコックピットごと連れ去ろうとするとは思わなかった。やはり妄想力の無いアンドロイドでは中々力は発揮出来ずにいるが、時間の経つごとにみしみしと軋んだ音が聞こえ始めた。
「洸平、どうするの!」
「そう言われたって・・・」
全力を出せば手はどうにか出来るだろう。しかし、宇宙船の主砲はどうすればいいのか。
『洸平さん聞こえますか?』
どうすればいいか考えていると、クリオナの声がヘッドギアから流れてきた。
「き、聞こえてるよ」
『トー・レ・ヴィオの宇宙船ゼッツベイン級セオドール997型稼働戦艦の主砲は全先鋭強襲破壊ミサイルです』
「わかんないわかんない」
謎の言葉を並べるクリオナに、抗議の声を上げる。
『つまり、宇宙船の主砲から発射されるのは、物理ミサイルです』
「そう言われれば分かる」
『破壊力は大きいですが、その分発射スピードは速くありません。それに発射の為のエネルギーも大きいため、一度発射したら次弾の発射にはいくらか時間が必要になります。つけ入る隙があるとすれば、そこかもしれません」
「それは、どう言うことなの!?クリオナ」
セカンドシートの可奈子も不安な声を上げる。
『以前OX9987BBと戦った時の経験が役に立つかもしれません。アンドロイドは理屈で考えられない事には思い当たらないものです』
OX9987BB——海岸で相対した、ダルマみたいなロボットの事か。あの時どんな戦い方をしたか。
『しかし、それにはエネルギーが足りそうにありません。もう少し妄想力を高める必要がありそうです』
『洸平、分かるか?多分クリオナが言いたいのは、ライフル弾を投げ返したヤツだと思う』
そうか、そんな事があったか。
「それがどう言う——投げ返せってのか?ミサイルを」
『そういう事です』
クリオナの笑顔が見えるようだった。
「そう言ったって・・・」
「クリオナ、妄想力を高める事が出来れば、それが出来そう?」
可奈子がふいに尋ねる。
『はい。以前のような——いや、破壊力を考えれば以前よりも大きな妄想力が必要になると思われます』
クリオナが一瞬言葉を切った。
『可奈子さんなら、出来ると思います』
「うん・・・」
『洸平、聞こえるか!そんな顔してないで覚悟を決めろ!』
晴人の声。俺の心を奮起させる。
「そうか。どっちにしたってやるしかないんだな。よし、行くぞ!」
俺は言うと、新ギジオレの手を振りほどき、あしを払って横倒しにする。
『エネルギー反応が増大しています。来ます!』
クリオナの声と共に俺は主砲を見る。妄想力を高めなければ——
「洸平!」
可奈子の声と共に背後に衝撃。ギジオレの背後ではなく、そこに収まっている俺の背後に衝撃。
可奈子が俺に背後から抱きついていた。背中に伝わる柔らかな二つの感触。頬に触れるのは滑らかな可奈子の頬。すぐそばに吐息を感じる。そして、いつもの香り。
主砲の筒から何かが発射されるのがはっきり見えた。スローモーションのようにゆっくりと、くすんだ灰色をした弾頭が姿を表す。照準が直接ギジオレを狙っていない事にも気づいた。コロニーを狙っているようで、コロッセオの中心部分に照準が合っている。
ギジオレを跳躍させる。瞬間的に照準位置に移動する。見上げると、ゆっくりと弾頭がこちらに向かって来る。
手を伸ばす。ラグビーでもしているかのように、弾道を受け取り、その勢いを殺す事なくギジオレを一回転させると、宇宙船にそれを投げ返した。
吸い込まれるように弾頭は宇宙船に直撃し、煙を上げながら透明な天井ドームを突き破って墜落してきた。
俺は墜落してきた宇宙船を受け止めると、
「うおりゃぁぁぁぁ!」
宇宙の彼方に投げ飛ばした。
トー・レ・ヴィオの宇宙船は宇宙の星となった。
しばらくして、ギジオレからあの少年たちが出て来た。アンドロイドは大気が無くても行動できるらしい。彼らは乗ってきた偵察機に乗り込むと、宇宙船を追いかけるように飛んで行った。
静寂に包まれる。天井ドームが破れてしまったので、空気が漏れる音だけが響く。
「・・・」
「・・・」
どうやら終わったらしい。終わってみるとあっけない。
『よし、うまくいったな洸平君。トー・レ・ヴィオの宇宙船は、レーダーで観測できない範囲まで飛ばされたようだ。あの様子なら、簡単に戻って来る事はなさそうだ。しかし、今回の妄想力は過去最高だったかもしれん。ちゃんと制御されていて安心したよ』
『やるねぇ、二人とも。やっぱりいいコンビネーションだ』
『二人とも素敵です』
褒められて、すこし照れくさい。
『洸平君、あの、なんだ』
少し歯切れの悪い源治おじさん。なぜか、晴人の笑い声も聞こえる。源治おじさんは言いにくそうに、
『念の為コックピットにカメラを設置しておいたんだが——今回は見なかった事にしておこう』
見上げると、カメラのレンズがウィンクするように光った。
「!!」
急いで俺から離れる可奈子。
「今回は、その。妄想力を上がるために何が出来るかって考えたら——」
「いや、いい、言わなくていい」
あわあわしながら言い訳するように言う可奈子に、同じような反応をしながら言う俺。いろいろ感触を思い出してしまう。
『あーあ、そのまんまにしときゃ良かったのに。まあ、写真とったからいいけどさ』
「晴人!何してんだ!」
『皆んなに見せびらかしてやろう』
『私にもこの写真下さい』
『大っきく引き延ばして、ギジオレに飾ろうぜ』
やめてくれよ。
盛り上がる二人に頭を抱えながら、照れくさそうに下を向く可奈子を見る。俺は内心、以前のように暴走しなかった事に安心していた。以前のようなモヤモヤした気持ちもない。
いい感触を味合わせてもらった、と思う事にしよう。精神衛生上。




