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02


 翌日俺が自室で昼まで寝ていると、チャイムが鳴った。


「はーい」


 母親の声がした。まあ、宅急便か何かだろう。


 夏休みに入ってから夜遅くに寝て昼頃寝る生活が定着してしまっている。夜遅くまで起きていて宿題でもしているかと言ったらそうではない。何となく漫画を呼んで、動画を見て、気がついたら深夜一時二時、と言うのが日常になっている。


 毎日のように可奈子には怒られるのだが、大学進学を目指している可奈子とは心構えが違う。


 幼馴染みの可奈子との最初の出会いは覚えていない。元々家が隣同士で、誕生日も近いために生まれた頃にはすでに出会っていたのだろう。首も座っていない二人が並んで写っている写真があるくらいだから。


 可奈子は俺と違って小学校の頃から勉強が出来、運動も出来る優等生だった。中学時代に勉強で遅れていた俺の事を心配し、家庭教師の如く叩き込んでくれたお陰で可奈子と同じ積星高校に入学する事が出来のは感謝してもしきれない。


 そんな可奈子に未だに宿題を見てもらっているのだが、昨日は邪魔も入った事もあり充分に進まず、今日もまた可奈子の家に行く予定だった。


「そろそろ起きなきゃかなぁ」


 布団の中でもぞもぞしつつ目覚まし時計を見ると、もうすぐ一時になる。そろそろ出ようかどうしようかと考えていると、階段を上って来る足音が聞こえた。


「洸ちゃん、洸ちゃん。起きてる?」


 母親が俺の部屋のドアを叩きながら呼びかけてきた。


「起きてるよぉ」


 こうなったら仕方ない。布団を出よう。


「ほら、竹浦さんとこの」


「可奈子が来たの?」


 約束の時間には少し早い。とは言え、来てしまったのなら早く準備しないと怒られる。急いで着替える準備をしていると、


「ううん。お父さんが。洸ちゃんに用事だって」


「おじさんが?」


 源治おじさんが家に来るのは珍しい事ではない。そもそも親同士が俺達が生まれる前からの知り合いだし、そもそも隣同士なので日常的に互いの家を行き来していた。ただ、可奈子の母親が家を出て行ってからはその頻度が少なくなっていた。


 だから久しぶりだなと思いつつ、俺は準備もろくにせずに部屋を出た。可奈子ならともかく、源治おじさんなら別に怒られる事もない。変な事を言う人ではあるが、やたらめったら怒る人でもない。でも用事って何だろう。


 階段を下りて玄関に行くと、源治おじさんが待っていた。相変わらず薄汚れた作業着を着ている。


「やあ、洸平君」


「あらあら。昨日はお世話になったみたいで」


 源治おじさんの挨拶に、俺の後ろからついてきた母親が答える。この人、ちょっとのんびりしたところがあるんだよな。


「今日は何か?」


 俺は寝癖を直しながら尋ねる。


「昨日の話だが」


「昨日の話?」


 俺はこの時昨日の話をすっかり忘れていた。そう言えば異星人の侵略に備える、とか言ってたっけ。俺も可奈子も源治おじさんの妄言か何かだと思って気にも留めなかったのだが、それに関する用事なのか?


「まあ、来たまえ」


 短く促して、源治おじさんは外へでた。

 

 よく分からないながらサンダルを引っ掛けて追いかける。太陽が眩しい。連日三十度を超える暑さだが、今日も暑くなりそうだ。ただ、俺は家の前に大きく影が落ちているのに気づいた。影が出来るような大きな建物はこの辺には無いはずだ。


「これを見たまえ」


 源治おじさんが指差した先、影を落としている物の正体が判明した。


「何これぇ!」


 近所に響くほどの大声。


「あらあら」


 対照的なのんびりとした口調。


 そこには、地上三十メートルもあろうかという巨大ロボが立っていた。


 我が家の自家用車程の大きな足が大地を踏み締めており、二階建ての我が家よりも上空に股下がある。シンプルな立方体を組み合わせたような形をしているようだが、近くから見上げているので胸から上はよく確認する事が出来ない。


 こんなデカい物をいつどうやってもって来たんだか。運搬するような重機も見当たらないし―—って、巨大ロボを運ぶ重機って何だよ。


「おっきいロボットですねぇ」


 両手を胸の前で合わせて母親が言う。感心している場合ではないと思うのだが。


「苦労しましたよ。こいつを載せられる乗り物なんてありませんからね。足裏に車輪が仕込んでありますが、バランスを保つためにスピードはそんなに出せないですし、結局ここまで二時間かかりましたよ」


「へー、それはご苦労様です」


 なんでうちの母親は自宅前に佇む巨大ロボに動じないのだろう。普段からのんびりしていて慌てている様子は見た事がないが、さすがに度を越しているような気がする。これなら異星人が地球に侵略しに来たってさほど動じないのではなかろうか。


「いえいえ。そうだ、お母様にも一応言っておいた方がいいと思うんですが」


「はい?」


「こいつを洸平君に託したい」


 ええー!どう言う事!?


「まあ、そうなんですか?あらまあ、うちの蒼ちゃんにこんな立派な物を。洸ちゃん、お礼を言わないと」


「ちょ、ちょっと待ってよ!このロボ託すってどういう事?」


「昨日話しただろう。侵略者に備えるから協力してほしいって。そしたら君は涙を流して、是非と」


 そうだっけ?いや、少なくとも涙を流していない事は覚えている。


「早速、昨日徹夜してこいつに洸平君のパーソナルデータから思考パターン、食べ物の嗜好や趣味特技、学校の成績からクラブ活動の実績まで、知りうる限りの情報を入力して洸平君の専用の機体に仕上げておいたよ。あとは、女性の好みや性癖」


「それ以上はやめて」


 母親が見てるから。って、何でそんな事知ってるんだ。


「ともかく、こいつはもう君自身と言っていい。それぐらい君と見分けがつかないくらい同じものと言える。そう、疑似の洸平君だね」


「疑似の俺?疑似って見た目の話じゃなかったっけ」


「疑似の俺。そうか、こいつはギジオレと名付けよう」


 聞いてない。こういうところは相変わらず。


 ともかくこいつ―—ギジオレをどうすればいいのか。そもそも、こんな所に置いておいていいものだろうか。


 母親と源治おじさんが何やら談笑するなか、ふいに声がした。


「ちょっとパパ!」


 長い髪をポニーテールにした可奈子だった。いつものショートパンツに水色のTいシャツと言う涼しげな格好をしている。ああ、約束の時間を過ぎているから、俺の様子を見に来たのだろう。


「こんな物がここにあったら近所迷惑でしょ!普通はこんな物を町中に持ってくる人なんかいないんだから!いつもいつも後始末する私の身にもなってよ!おばさんも、笑ってないで言ってやってよ!」


「まあまあ。可奈子ちゃん綺麗になったわねぇ」


「今そんな話はしてません!」


  激昂する可奈子に母親が笑いかける。昔から母親は、『可奈子ちゃんみたいな娘がほしかったわぁ』と言う程可奈子の事を気に入っている。栗色の長い髪に、少し釣り上がって茶色がかった大きな目。幼馴染の俺から見ても、可愛い方なんだとは思う。


「ちょっと洸平!」


 そんな可奈子は今は随分厳しい顔をして、びしっと俺に人差し指を突きつける。


「あ、はい」


「あんたがはっきり言わないからパパも調子に乗るんだから。そうじゃなきゃこんなロボット持って来ないわよ!」


「今さっき洸平君がギジオレと名付けたぞ」


 いつの間にか俺が名付け親になってる。


「そんなのどうでもいい!」


 手に持っている鞄を地面に叩きつけんばかりの勢いで顔を真っ赤にする可奈子。こうなると、俺にはもうどうしようもない。源治おじさんもそんな表情をしている。なら、怒らせなきゃいいのに。母親は相変わらず、呑気に笑っている。


 怒り狂う可奈子をどうしたものかと思案していると、


「あのー」


 恐る恐る、と言う雰囲気で声をかけてきた人がいた。青い制服を着た警察官。警察官は俺達の顔を見回すと、一瞬で主犯を見抜いた。


「えーと、竹浦さんだよね。これさ」


 と言って巨大ロボ、もといギジオレを指差す。


「こんな所に持って来られたら困るんだよねぇ。交通の邪魔にもなるし、もし倒れたりしたら危険でしょ?ご近所からも迷惑だって連絡もらってるんだよ」


「侵略者に備えるためにはこれぐらいは」


「まあまあそれはいいから」


 警察官はまともに取り合おうとはしなかった。源治おじさんに何やら書類を見せながら、


「ここにあると迷惑になるだけだし、どんな危険があるかわからない。だから、しばらく警察で預かるよ」


 こうしてギジオレは警察に押収された。


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