18
いつものように俺と可奈子は一緒に学校に向かっていた。ただ違うのは、二人が同じ建物から出て来た事くらい。まあ、可奈子が泊まりに来ているのでそうなる。
「ふぁぁぁ・・・」
大きくあくびする。そりゃそうだろう。
「昨日眠れなかったの?ゴメン、ベッド取っちゃって。起こしてくれても良かったのに」
手を合わせて謝る可奈子から少し目線を外して、
「すっかり寝ちゃってたからね。昨日も疲れてただろうし」
そう言えば昨日は隣町でカーチェイスをしていたんだった。今朝のニュースで流れていたが、思ったよりも扱いが小さかったのは、地球連合軍の圧力だろうか。
可奈子は悪戯っぽく俺の顔を見上げて、
「変な事してないよね」
ギクギクギク。胸が鳴る。
「まさか。可奈子が寝たのを見たら、すぐに下に降りたよ」
胸の高鳴りに気づかれないように、平静を装って言う。
「ふーん。いいんだけどさ」
つまらなそうに言う。なんだ?変な事して欲しかったのか?いやいや、そんな訳がない。ただ、いちいち心臓に悪い事を言わないでくれ。
「おーい。洸平、可奈ちゃん」
「おはようございます」
通りの角で晴人とクリオナが待っていた。クリオナのアパートから学校へ向かう道と、俺たちの家から学校へ向かう道がぶつかる交差点。二人はいつもここで待っている。晴人の家は反対側なのに。
ちなみに可奈子と一緒に連れ去られたクリオナも、安全のためにどこかに匿う事も考えられたが、
トー・レ・ヴィオ側はがクリオナを自分達側の戦力と見ている事もあり、余計な事はしないほうがいいだろうとの結論に達した。
「クリオナ、ここは『ゆうべはお楽しみでしたね』って言うんだぞ」
「それはどういう意味ですか?」
「変な事教えないの!」
そんな感じで始まったのだが、俺は急いで晴人の腕をとって、二人から距離をとった場所で晴人に声を潜めて言う。
「相談がある」
「珍しいな。相談なんて。可奈ちゃんに何したんだ?」
「決めつけるな!」
「じゃあ何だよ」
「・・・可奈子の事だ」
「やっぱりそうじゃないか」
にやにやする晴人。晴人に相談するかどうかは家を出た時からずっと悩んでいた。ただ他に相談出来る人もいなかったし、一人で抱えているのも辛かったので、勇気を出して相談する事にした。
学校に向かいながら、俺は昨日の顛末を話す。
「ほう。いいもん見れたな」
「いや、そうじゃなくて」
正直言ってしまうと、いいもん見れたな、と言うのは認める。ただこの相談の本質は、その出来事の前後にあった、気持ちのモヤモヤである。考えすぎて胸やけがしそうだ。
「そりゃお前」
晴人は当然のように、
「いいもん見れたって、喜んでりゃいいんじゃね。思春期男子なら健全だろ。それよりよく触ってみようとか、チューしてみようとか思わなかったよな。そうなると別の問題が出てくる」
「声が大きいって」
後ろを盗み見ると、可奈子とクリオナは談笑しながらついてきている。
「でもさ、俺今でみたいに可奈子と接していたいんだよ。だから変な気持ちになるのが嫌だから元に戻りたい」
「贅沢な奴め。学校の男子の前でそれ言ってみろ。袋叩きにあうぞ」
意味がわからずきょとんとしていると、晴人がため息をついた。
「お前ら見てるとじれったくてなぁ。まあいいや、親友の相談だからアドバイスすると」
「うん」
「デートに行け」
「何で?」
デートに行く事でなぜ俺の気持ちを元に戻す事が出来るのか。
「分からないか?分からないなら教えてやるが、お前らは今までずっと一緒に遊んだり、勉強したりしてたろ」
そう。その頃に戻りたい。
「他人から見るとそれはデートだぞ」
「そうなのか?」
「・・・これだから贅沢野郎は・・・一緒に学校に行ってるのももはやデートだ」
あまり意識した事がなかった。小さい頃から一緒に学校に通っていたので、当然の事だと思っていた。
「他から見ればどう見てもそういう関係にしか見えないんだよ。お前らがどう思っていようとな。だから変に気を遣って距離感気にするんだったら、今まで通りデートに行け、って言ってんだ」
なになに。今まで日常的にしていたのがデートだったから、ここで改めてデートに行けば以前のような日常を取り戻す、って事か?
「わかった。ありがとう」
「ったく。じれったい親友を持つと苦労するぜ」
晴人は言うと、クリオナの隣に戻った。可奈子が小走りに俺の方に来る。
「なあ可奈子」
気持ちが落ち着いたのか、可奈子の顔を見る事が出来た。
「なあに?」
少し甘えるような可奈子の声。この・・・俺が何を言おうとしてるか気づいてるな。
「今日学校が終わったら映画でも観に行こうか。昨日言ってたしな」
可奈子はふーんと両眉を上げる。
「本当に誘ってくれるんだ。じゃあ、後は任せるからエスコートしてよね」
「ああ、せいぜいおめかしして来いよ」
「今は帰る場所一緒でしょ」
「そう言えばそうだ」
そう言って笑い合う。そう、こんな関係が続けばいいと思っている。
「お二人はどうしたんですか?」
クリオナの声が聞こえる。
「青春してんだよ」
晴人が言う。それはそれで悪くない。




