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妄想ロボ ギジオレ  作者: みつつきつきまる


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「恥ずかしい事を言われてしまった・・・」


 ギジオレを海沿いの国道36号線を南に走らせつつ、俺は呟いた。


「より妄想出来た相手を記憶に基づいて検索する機能か。性癖が丸分かりだな」


 後ろのシートで源治おじさんから渡されたタブレットを操作確認しながら、晴人は言った。すっかり落ち着いたらしいが、そうなると今度は軽口が始まる。


「そこらじゅうで反応しまくったらどうするんだろうな。いや、反応するのは可奈ちゃんだけか」


「やめろ」


 晴人のにやにやが見えるようだ。


「それよりも、足を踏み外すなよ」


「分かってる」


 ギジオレは言葉通り、国道36号線を走っている。一歩一歩踏みしめながら、アスファルトを蹴り上げながら走っている。


 国道36号線が広めの道路で良かった。足を広げなければ一車線を使用するだけで済むし、走行車も避けやすい。まあ、ロボットに頭上を飛び越えられるドライバーの心境を考えると、申し訳ない気持ちにはなるが。


 一歩一歩踏みしめる度にアスファルトが軋む音が聞こえる。道路のダメージが心配だが、これは地球連合軍に任せるとしよう。源治おじさんもそう言ってたし。


 でも、明日にはまた、変なロボットが国道を全力疾走してたって話題になるんだろうな。


 気が重くなりつつも大きなダンプカーと飛び越えると、しばらく前方に走行車は無い。


「今は時速で言うと——百二十キロ位?揺れが少ない割に随分速いんだな。完全なスピード違反だ」


 手元のタブレットで走行スピードを割り出した晴人がそんな事を言っている。


「巨大ロボのスピード違反なんて聞いた事ないから、多分お咎めなしだろ」


「どうせ無免許運転だしな」


「そんなの無いし、運転でもない。そういうのいいから、何か反応は無かったのか?」


「よくわかんね」


 晴人は言うのも無理はない。ギジオレが妄想の対象物——つまりは可奈子だが——に近づいたら何がどう反応するのか、俺たちはよく分かっていなかった。源治おじさんは『その時になりゃ分かる』と言う言葉を信じて足を進めている。


「えーと、これが妄想指数だな。うん、今ぐらいが通常なのか。で、限界値がここで、リミッターがここにあって・・・」


  タブレットを解読している様子の晴人。


「ああ、ギジオレのエネルギーの割り振りや各部の稼働状況もモニター出来るのか。洸平、妄想力がそろそろ足りなくなりそうだってよ」


「なんだよそれ」


「ほら、可奈ちゃんでいやらしい事考えれば」


「やめろって」


「おお、本当にこんな事でちょっと反応するのか」


 いや、だから。


 後ろの親友に心を読まれているようで落ち着かない。


「どんな妄想したんだ?誰にも言わないからいってみろよ」


「だからやめろって」


「おお、また妄想指数がゆっくり上がっていくぞ」


 俺はこれまでの経験上、妄想力とやらは一度何かのきっかけで反応すると、その後雪だるま式に増えていくと言うことが分かっている。先日の戦闘の時も、そう、あの時も——


「わぁ!何だこの反応。近くに可奈ちゃんがいるのか?」


 いや、だからこうなるって。心なしかギジオレの足も速くなったような。


 俺は大きく深呼吸する。落ち着け。


「ああ、戻った。何だ?今の。限界近かったぞ」


「故障だろ」


「今故障されると困るんだけど」


 なんだか晴人のにやにやが見えるような気がする。


「ギジオレを動かすための妄想しながら別の妄想するなんて、器用な奴だよな。俺が敵わない訳だ」


「うるせー」


 言いながら操縦桿を握り直す。


 自分で意識しているわけじゃない。ギジオレの動きを妄想だか想像しなければ機体は動かないが、別の何かで妄想力を上げなければならないって、考えてみれば無茶でしかない。でも、俺はそうやって来てるんだよなぁ。しかも会話もしながら。


 実は俺は多重人格なのではないかと不安に思いつつ、国道36号線は海岸線から山道へと入る。この峠を越えれば錦岡市だ。


 錦岡市は俺たちの済む虎杖浜市よりも小さな市で、四方を山で囲まれている。周囲から見てもあまり目立たない市ではある。


「ここに居そうだな」


「そんな気もするな」


 この周辺なら隠れる場所はありそうだ。そんな事を思いながら山を下る。っと、下り坂はバランスを崩しやすいな。


 市内に入る。さすがに市街地は全力疾走する訳にもいかないので、突然現れた巨大ロボに驚く市民の方々を横目に、制限速度を守って走る。


「何か反応は無いか?」


「うーん、まだちょっと・・・」


 とにかく足を進めるしかない。何か反応が出るまで。


「お?」


「どうした?」


「何かちょっと反応が・・・ん?違うのか?」


 俺はさらに足を進める。交差点を右に曲がり、左に曲がり、無茶苦茶な操縦に自動車を踏み潰しそうになりながら、町を走り回る。


「あ!これだ!大きく反応がした。洸平が変な事考えたんじゃなけりゃ、可奈ちゃん達が近くにいるぞ!」


 俺はさらに足を進める。反応があったと言っても、どれくらい近くにいるかは分からない。


「反応が小さくなってる。こっちじゃない」


 そう言われ、踵を返す。


「反応がまた大きくなって来た・・・また小さくなった」


 また踵を返す。その繰り返し。大雑把な場所しか分からない以上、そうするしかない。


 謎の巨大ロボが町をうろうろしている状況を錦岡市の皆さんはどう思っているのだろうと考えていると、晴人の携帯電話の通知が鳴った。電子メールだ。


「えーと、『外で何か巨大な物が走り回る音が聞こえました。ギジオレさんでしょうか?』近くにいるぞ!」


 俺はギジオレを立ち止まらせる。交通が麻痺しているが、後のことは地球連合軍にでも任せておけばいい。


「洸平、二人は黒いワゴン車の中にいるらしい。見えるか」


 見下ろしてみると、黒いワゴン車が二台見える。俺は目についた一台を掴み上げて、コックピットに近づけて運転席を覗き込んだ。怯えた顔のおじさんが取り乱した様子でこちらを見ていた。


 ごめんなさい。間違えました。


 じゃあもう一台か——そう思って黒いワゴン車にてを伸ばした時だった。突然それは急発信し、ギジオレの手をすりぬけた。


「あいつか!」


 追いかけるギジオレ。


 市街地だと障害物が多くて走りにくい。しかも相手は自動車の隙間を縫うように走り抜けてゆく。乗り物の運転に特化した能力を持つアンドロイドでも乗っているのだろうか。


「ちょこまかと!」


 交差点に差し掛かる。黒いワゴン車は当然のように信号など守らず、左右から自動車に突っ込まれるのをすんでのところで避けて行く。急ブレーキをかけた左右の自動車にさらに後続が突っ込んでいく。ああ、これも地球連合軍にどうにかしてもらおう。


「おいおい、中にはクリオナと可奈ちゃんが乗ってるんだぜ」


 これ以上二人を危険な目に遭わすわけにもいかない。お前が追いかけているからだ、との批判は受け付けない。


 黒いワゴン車は公園通りを抜け、ビルの間に滑り込んだ。そこを抜けて、向こうの大通りに出るつもりだ。あんなところに入ってしまったら、ギジオレでは追いかけられない。


「すげぇ、妄想指数が上がって行く」


 晴人が何か言っているが、取り敢えず無視。


 俺がギジオレを跳躍させると、二つのビルを飛び越えた。着地場所のアスファルトは砕け散ったが、その足元を黒いワゴン車はすり抜けてゆく。


「あー!もう!」


 俺は吐き捨てながら、ギジオレの体制を整える。


 黒いワゴン車は住宅街に向かっていた。


「洸平、向こうに行ったら動きにくくなるぞ!」


「わかってる!」


 言いながらさらに追いかける。時間と共にギジオレを操縦する精度が高くなっているのに気づいていた。妄想力の高まりのせいだろうか、かなりのスピードで走っているのだが、周囲がスローモーションのように感じられる。


 脇道から飛び出してきたRV車を避け、トラックが突っ込んでくる前にジャンプ。飛んできたボールを優しく弾き返し、木にひっかかった風船をとってやる。


 全てがスローモーションで進む中、黒いワゴンに追いついた。もう手の届く所にいる。


 右手を伸ばす。すると黒いワゴンはタイヤを鳴らしながら交差点を左に曲がろうと——した所を先回りして左手を伸ばすと、ギジオレで黒いワゴンを掴み上げた。


 運転席を覗き込むと、


「あの、アンドロイドだ」


 あの時テレビに映っていた美少年が無表情でこちらを見ていた。


 俺はどうにかしてギジオレの大きな指でスライドドアを引き剥がすと、中にはクリオナと可奈子がいた。そしてアンドロイドがもう一人。体を乗り出して銃らしき物をこちらに向けてきたアンドロイドをつまみあげ、近くのビルの屋上に放り出す。


 ワゴン車に横付けするようにもう片方の手のひらを寄せると、二人はゆっくりとワゴン車から降りてきてギジオレの手の上に乗った。


「クリオナ!」


 水色のワンピースに身を包んだクリオナはいつものように天使のような微笑みを浮かべてこちらに手を振っており、白いスカートにブラウスという格好をした可奈子は、手にバスケットを持って泣きそうな顔をしている。


 可奈子のこんな顔を見たのは初めてかもしれない。



 帰り道。


 可奈子とクリオナを後部の一つのシートに詰め込むように座らせて、俺は制限速度を守ってギジオレを走らせていた。


「怖かったんだから」


 可奈子が不満そうに言う。


「捕まった状況じゃなくて、あのアンドロイド、運転が荒いんだもの」


「確かに、乱暴な運転ではありましたね」


 言いながらも、クリオナは動じていない模様。


「でも二人とも無事で良かったよ。連絡とれなくなった時はどうしようかと思ってた」


 晴人は言うが、


「クリオナがいたから大丈夫だと思ったけど。いざとなったらあんな優男、とっちめてやるつもりだったのに」


 可奈子が言った。源治おじさんの言った通りだ。


「そう言えば、私たちでお弁当を作ったんですよ。皆んなで食べようと思って」


「へぇー、やったぁ。食べよう食べよう」


 切り替えが早いな。


 後ろで盛り上がっている声を聞きながら、俺はほっと息を吐く。何にせよ、二人が無事に帰ってきて良かった。ギジオレにはこんな使い方もあるんだなぁ。いろいろな場所を破壊してしまったかもしれないが。


「洸平」


「ん?」


 呼びかけられ振り向くと、


「むぐっ」


 口の中にサンドイッチが突っ込まれた。


「二人で時間かけて作ったんだから、ありがたくいただきなさい」


「むぐむぐ。ありがたいですよ」


 サンドイッチを飲み込みながら言う。


「それより、可奈子がスカート履いてるなんて珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」


 ここ最近で言えば、セーラー服でしか可奈子のスカート姿は見る事が出来ない。


「だって・・・クリオナがこれの方がいいって」


「可愛いと思いまして」


「いいと思うぞ。なあ、洸平」


「う、うん」


 自分で振っておきながら答えに困ってしまう。


「それより——」


 和やかな空気のなか、真剣な声でクリオナは切り出した。


「今回の件ですが、トー・レ・ヴィオの本来の狙いは私や可奈子さんでは無かったようです」


「そうなの?」


 声を上げたのは晴人。俺も、内心驚いている。


「はい、どうやら本当の狙いは洸平さんのようです」


「俺?」


 間抜けな声が出た。


「はい。先日も言ったように、トー・レ・ヴィオは妄想力を理解していません。そのため、洸平さん自身を調査しようと考えていたようです」


「それなら、なんで可奈ちゃんとクリオナが連れて行かれたの?」


「トー・レ・ヴィオの調査で、洸平さんは可奈子さんと一緒に行動する事が極めて多いとの結論に達したようです。可奈子さんのいる場所には洸平さんがいるはずとの考えで行動を起こした結果、その日はたまたま私が一緒にいた、とのことらしいです」


「トー・レ・ヴィオ公認の仲って事か」


「そういう事です」


「何言ってんのよ」


「そう言う事じゃないだろ」


 俺と可奈子が抗議の声を上げるが、クリオナは気にも留めなかった。


「ですので、これからも可奈子さんと洸平さんはトー・レ・ヴィオに狙われる可能性があります。対策を講じておく必要があるかと」


 対策ねぇ。


 そんな事を考えながら秘密基地に帰った俺たちを迎えた源治おじさんから、思いもよらぬ対策を聞かされる。


「しばらく可奈子を俺の家で預かってくれって?」


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