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翌日学校では海岸であった一連の出来事が話題になっていた。
「桜川、聞いたか」
一時間目終わりの休み時間に声をかけてきたのはクラスメイトの松原。一年の頃からのクラスメイトで、一緒に遊び行く事はほとんどないが、学校ではよく会話する相手ではある。ちなみに俺の事を洸平と呼ぶのは、この学校では可奈子と晴人しかいない。今はクリオナもか。
「昨日海岸でロボット同士の戦闘があったらしいぞ。隣のクラスの工藤が目撃したらしい。どうも、変なロボットが、変なロボット三機を一方的に撃破したらしい」
変なロボットで悪かったな。とは思いつつ、
「へぇ、そんな事があったんだ。新聞に載ってなかったしな。でもそんな事があったんなら、警察が調べてるところじゃないのか?」
「昨日から警察が現場検証してる。でも話によると一機の変なロボットは、以前町中で目撃された反省ロボらしい」
そんな愛称がつけられていたか。確かに、反省ポーズで市中引き回しされていたっけ。あれ、と言う事は警察にも知られているって事だよな。確か、保管場所を決めて届け出をした事で返却されたんじゃなかったっけ?
「学校の裏山で目撃された変なロボと同じ物なんじゃないかって噂もあるし。桜川何か知ってるか?」
「いや、何も知らないね。興味もない」
と、俺は言うしかない。こんな所で俺があの反省ロボのパイロットだとか、それは妄想で動くとか、相手は侵略者だとか言っても奇異な目で見られるだけだ。
見ると、晴人の席にはクラスの女子が数人来ており、しきりに何かを話している。おそらく、同様の話だろう。
「最近おかしな事ばかり起こるよな」
その時始業を伝えるチャイムが鳴り、松原は自分の席に戻って行った。
ギジオレの存在が町の皆には知られているのは分かってはいたが、それがどう影響するのかは考えた事もなかった。どこか他人事と言うか、公園でラジコンを動かしているような感覚と言うか、あまり現実味が感じられなかった。
しかし、よく考えると巨大ロボが町をうろうろし、他のロボと戦っている状況は普通ではないし、関係各所に迷惑が及ぶかもしれない。そうなると今後のギジオレの所有や運用に関して、新たな問題が発生してもおかしくない。
昼休みに可奈子に相談してみよう。そう思いつつ時間が過ぎるのを待った。
俺たちは昼休みは最近いつも四人で食べている。クラスの違う男女が一緒に弁当を食べている状況——しかも一人は話題の留学生——と言う状況下では目立ってしまうので、天気のいい日は校庭の隅で目立たないように食べる事にしている。
いつもの場所にはクリオナと可奈子が先に来ていた。晴人を連れ立って来た俺を見るなり可奈子は、
「噂になってるわね」
と言って卵焼きを口に運んだ。
「そうだな」
「まあ、あれだけ騒いだらねぇ」
晴人は言うと、いつものようにクリオナの隣を陣取る。自然と俺は可奈子の隣に座る事になる。
「警察による現場検証はまだ続いているようですが、一通りの記録が終わってから地球連合軍に引き継ぐようです。ただ、現場からはギジオレさんの痕跡は見つかってはいないようですが」
クリオナはそう言って、唐揚げを頬張った。
「へへっ、いただき」
晴人はクリオナの弁当箱から唐揚げを一つ摘み上げ、口の中に放り込んだ。
「あ。楽しみにしてたんですよぉ」
珍しく子供のような表情をするクリオナ。
「おいしく出来てるじゃん。でも、弁当作るようになったの?今まではパン食べてたみたいだけど」
クリオナは料理が出来なかったらしく——必要が無いと思われてプログラムされていなかった——これまでは必要最低限のエネルギー補給の出来る惣菜パンを主に食べていた。だが今日手にしている弁当は彩と栄養バランスを考えて作られた手作り弁当に見える。クリオナにとって栄養バランスとは。
「はい。可奈子さんに教えてもらいました。作ってみると楽しいものですね」
「クリオナってば、やっぱり何でもすぐ覚えるのよねぇ。学校の勉強もそうだけど、料理もあっという間に覚えちゃって、私はもう教える事なんか無いわよ」
可奈子は言って、ほうれん草のお浸しを口にする。可奈子が料理上手なのは、実質一人暮らしだからだ。
「俺の分も作ってよ」
「いいですよ。嫌いな食べ物はありますか?」
そんな青春している二人を横目に、俺は菓子パンを嚙りながら可奈子に切り出した。
「思ったんだけどさ」
「何?」
「いや、昨日ギジオレが変なロボットと戦ったって事は皆んなに知られた訳だろう?」
「まあ、変なロボットが変なロボット達と戦ってたって噂にはなってるわね」
やっぱり変なロボか。
「だとするとさ、その変なロボットは源治おじさんの所有するロボットだって、警察とかには知られてるんじゃないかな。それでギジオレが危険な兵器か何かだって考えられたら、このまま見過ごしてもらえないと思うんだけど」
「確かにねぇ・・・警察には届け出が出してあるはずだしね。それに、特に隠してる訳じゃないから、あの裏山の倉庫にあるロボットだって、気づいてる人もいるんじゃない?」
「その割には秘密基地周辺が静かなんだよ
もしかしたら、地球軍もこの件について何か関わっているのか?
「それについてですが。博士から連絡がありまして」
晴人とおかずの攻防をしていたクリオナがこちらを向いた。
「ギジオレさんに関する事象の管轄が警察から地球連合軍に移ったそうです。先日のトー・レ・ヴィオの宇宙船の飛来を受けまして、連合軍から警察への打診があった模様です。ですから、警察は現場検証して情報を連合軍に上げるまでが仕事で、それ以降は連合軍が動く事になります。情報の開示も含めて」
「まあそうなるよな。警察に対応出来る話じゃないだろうし。一先ず現場に被害が出たから警察が動いただけか」
「そう言う事です」
だったらどうなんだろう?軍に目をつけられるとか?それとも源治おじさんが手を回したのだろうか。連合軍に関係していたっぽいし。
「ともかく、ギジオレを運用していくにあたり、細かい事は気にしなくていいと、博士は言っておられました。軍の都合の悪い事でなければ公開されるでしょうし、都合の悪い事であれば秘匿されるだろうとの事です」
「何にせよ、いろいろ軍に握られたって事か。面倒な事になりそうな気もするけど、まあ、気にしても仕方ないか」
俺はため息をついて菓子パンを一口齧る。
「そう言えば」
タコさんウィンナーを口に運んだ可奈子が思い出したように言った。
「昨日、ギジオレは全力を出さない方がいいって言ってたけど、どう言う事?」
そう言えばそんな事言ってたな。それが彼らの知りたい情報だって。
「パパに新しいギジオレ作らせてるんだから、それを手に入れればいくらでも情報はとれるんじゃない?」
そう、おとなしく待っていればおそらくはギジオレは手に入る約束になっている。それが反故にされる危険を犯してしてまでわざわざ無人ロボットをけしかけて来る必要は無いように思える。
「それですが」
クリオナが言う。フォークに刺したブロッコリーを晴人が口で捉えた。
「実は、トー・レ・ヴィオの統合軍は『妄想』を理解出来ていません」
ブロッコリーの無くなったフォークを悲しげに見つめながら言う。おかずはそれで終わりらしい。
「トー・レ・ヴィオには人間はほとんど存在しません。大部分が私のようなアンドロイドで、人間達は中央政府の上層部にいる位なのでほとんど実際に動く事はありません。厳重に保護されていると言えます。ですから、所属する全てがアンドロイドとも言える統合軍は、『妄想力』を知る術が稼働しているギジオレさんを観測するしかないんです」
ほとんどがアンドロイドの星——それはSFの世界のようだ。
「クリオナも理解していないの?妄想って」
「知識としてはありますが、どういうエネルギーでどういう形で、どういう風に気持ちに作用するのかはわかりません。ただ、洸平さんが可奈子さんの事を思うと高まるのは分かります」
「それはいいから」
「そもそも、感情を理解しているアンドロイドもほぼ皆無でしょうから、妄想などという謎のエネルギーが理解出来るとは到底思えません。おそらく、ギジオレさんを観測する事で、どれぐらいのエネルギーか、どれぐらいの熱量か、何かで代用は可能かなどを調査しているんだと思います」
クリオナは言うと、晴人が食べようとしていたおにぎりを咥えて取り上げた。
「あー、やめろよー」
そうは言いながら嬉しそうだな。
「でも、交渉で穏便に手に入れてそれからでもいいんじゃないの?私たちはわざわざ敵対しようって訳じゃないんだし、協力を要請すればいいだけだと思うけど」
「それはそうですが」
クリオナはおにぎりを手に持ち直した。
「交渉で事を納めたい派と、力づくでも情報を手に入れたい派がいますから。軍なんて一枚岩ではありません。統合軍となれば尚更。感情もなく自分にとって一番有益な行動を取ろうとするのが軍のアンドロイドです。交渉で事を納めたい派も、おそらくは進めておいて後ほど覆すのが自分にとって有益だと思っているのでしょう」
早口で言うと、おにぎりを再び口に運ぶ。
せいぜい組織なんてそんなものか。地球の平和を掲げている地球連合軍だって、結局は各国の軍のより集めでしかない。思惑など数えきれない程あるだろう。
「じゃあさ、クリオナ」
少し疑問が浮かんで、俺は尋ねてみる。
「クリオナにとって有益な行動って何?」
様々な思惑が渦巻くトー・レ・ヴィオの統合軍のアンドロイド。クリオナにはどんな思惑があって行動しているのか。
「私ですか」
クリオナは俺たちの顔を順に見回すと、
「友達を助ける事です。友達は助け合うものだと、映画が教えてくれました」
にっこりと天使の微笑みを浮かべる。
「クリオナ・・・」
感動した様子の晴人。
「今度恋愛映画観に行こう。少年と美少女アンドロイドの一途な恋愛映画をさ」
「わぁ、楽しみです」
果たしてそんな映画が都合よくあるのかどうか、俺は知らない。




