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俺たち四人はギジオレのコックピットに収まって、海岸に向かって森を駆けていた。後ろのシートには可奈子が収まっていて、そのシートにしがみつくように捕まったクリオナ。そのクリオナを後ろから抱きしめるように支える晴人。さすがに四人だと手狭に感じる。
補正がかかっているとは言え、走っていれば視界も揺れる。その割にはコックピットは揺れないので逆に酔いそうになる。
それだけはやめてくれよ。後ろの三人に思う。いや、クリオナは酔わないのか?
「相手は固有番号OX9987BB。攻撃と言うより、防御に特化した機体です。攻撃力は気にしなくても問題ありませんが、防御力は先日訓練場で戦った、レベル3と同程度でしょうか」
クリオナは言う。
「機動力はレベル1よりも上でレベル3よりも下、という程度です。しかし三機いる事を考えると、簡単には撃破できないかもしれません」
さすがにトー・レ・ヴィオの軍事関係は詳しい。
「手にはライフルが標準装備されていますが、直撃すると爆炎範囲が広いので、目眩しに使われる事が多いです」
「さすがによく知ってるね」
感心するように晴人が言う。
「トー・レ・ヴィオの兵器は大概ストレージに記憶済みです」
にっこり微笑みながら次々に相手の情報を教えてくれるクリオナ。トー・レ・ヴィオ側の関係者なのに、俺たちの味方みたいだ。
「あと——」
クリオナは一度呼吸を置いた。
「今回はあまり全力を出さない方がいいかと。それこそ、彼らが知りたい情報ですから」
「そのために開いたイベントかもな。俺に加減が出来るかどうか分からないけど。でもそう言う事なら、彼らが約束を守るとは思えないな」
「恐らくは守らないでしょう。博士に新しいギジオレさんを作らせるための方便だと思います」
「パパは知ってるの?」
「はい。そもそもあまり信用はしていない様で」
そりゃあ、簡単に人を信用する人じゃないさ。
「私はそのための人質なんだそうです。人じゃありませんが」
「おじさんも色々考えてるんだね」
もうすぐ森を抜けて積星高校の前に出る。そこまで行けば、海岸はもうすぐだ。ギジオレの操作はともかく、自動車やら人やらを踏まないようにするのに注意しなければ。
夏場と言う事もあり、海岸にはいくらか海水浴客がいた。青い海と白い砂浜は虎杖浜市の自慢の一つだが、今は謎のロボット三体——いや四体が現れている。三体いるダルマに手足が生えたようなロボットと、子供の工作のようなロボットを見るとどこかへ逃げて行った。
ダルマ——OX9987BBを確認する。うむ。この格好から機動力は心配しないでいい事は分かる。クリオナの言った通り長さ十メートルはありそうなライフルを手にしている。
俺はギジオレをジャンプさせて、手前の一体の前に着地。二十メートル程の距離を飛べた。
「おっと、揺れる揺れる」
と言いながらクリオナに寄りかかる晴人はともかく、
「おりゃ」
挨拶代わりのパンチをOX9987BBその1に身舞う。予想通り跳ね返されて、傷ひとつつかない。
『洸平君聞こえるかい?』
源治おじさんのことがヘッドギアに響い。
「聞こえるよ」
『そいつらはこの前のレベル3よりは少し柔らかい程度だ。前程じゃないが、妄想力を高める必要がある』
「出来るかなぁ」
『以前出来たんだから出来るさ。だから可奈子も乗せたんだ』
そう言われると、色々思い出す事がある。
『その調子だ』
やっぱりバレる。幸い、後ろの三人には聞かれていないようなので一安心。なのだが、晴人はこんな時なぜか鋭い。
「洸平、もうちょっと妄想力が必要なんじゃないのか?可奈ちゃんの出番か?」
「何言ってんだよ」
「でもその役割で乗ってるのよね・・・」
何で悩んでんだ。
「じゃなきゃ、俺とクリオナがイチャイチャする事で違う妄想力を」
「それはどう言う意味ですか?」
勝手な事言う三人は放っておいて、どうやら多少は高まったらしい妄想力を以って再びパンチを繰り出す。少しへこんだ。続け様に反対の手で同じ場所を叩く。装甲が少し破れた。地道な戦いになりそうだ。
OX9987BBその1は負けじとライフルのグリップの部分で殴りかかって来る。接近戦では銃は不利と判断したか。腕で受け止めると、鈍い音がした。
「洸平、後ろ!」
コックピットが機体に前から埋め込まれている関係で、背後はあまり確認出来ない。申し訳程度に取り付けてあった小さな窓を確認したらしい可奈子が声をあげる。
俺は殴りかかってきたライフルを掴むと、それで体を支えるようにして背後のOX9987BBその2に回し蹴りを喰らわす。
「おおっ!今の格好良かったぞ!」
背後のOX9987BBその2がバランスを崩したのを確認すると、手にしたライフルをOX9987BBその1から取り上げ、先程少し破れた装甲の隙間に銃口を突っ込んだ。
引き金を引く。
轟音をあげてOX9987BBその1は内部から煙を上げながら崩れ落ちた。
「なんか妄想力関係ない戦い方だな」
いやそんな事はない。妄想力が高まっているからこその動きじゃないか。
「洸平さん、右です!」
クリオナが叫ぶと同時にギジオレの右側に衝撃。コックピットは軽く揺れただけだが、爆炎がギジオレの周囲を覆う。ライフルで撃たれたらしい。コックピットからの視界と、ギジオレの視界が奪われる。
前後左右視界がきかない中、OX9987BBその2が背後から突進してきた。ギジオレはバランスを崩し、前方に倒れて手をついた。
「うわぁぁぁー!」
「大変です」
前に倒れてしまったので、コックピットの前方のハッチに晴人とクリオナが転がって行った。しっかりスカートを押さえているクリオナに押し潰されるような形の晴人だが、なんだか嬉しそうだ。
「悪い悪い」
そう言ってギジオレを立ち上がらせようとした時、
「??」
俺の首の後ろから何かが流れて来た。細い糸の束のような物が、俺の鼻をくすぐる。記憶にあるシャンプーの香り。可奈子の香り——
俺は素早くギジオレを立ち上がらせると、
「わぁぁぁー!ゆっくり立ち上がれよ!」
「悪い悪い」
自分でも意外と冷静なのに驚く。
視界の隅にOX9987BBその2。ライフルを構えている。引き金が引かれるのが見えた気がした。
一瞬で弾頭が発射され、その弾頭の軌道をなぜか俺ははっきり見ることが出来た。見る——と言う言葉とは違う、違う感覚でその動きを捉えていた。これこそが妄想力か。
俺は手を伸ばすと発射された弾頭を掴んだ。そして発射された以上のスピードで投げ返す。爆発四散して、残り一機。
俺は晴人とクリオナが定位置についたのを確認すると、最後の一機に向けて大きくジャンプ。五十メートル程の距離を跳躍して、OX9987BBその3の真上までやって来ると、落下する勢いそのままに拳を叩き込み、最後のOX9987BBその3は真っ二つになって海岸に倒れた。
あっけないほどあっさりと、三機のOX9987BBは全て破壊された。
「ふぅー」
煙が立ち込める中、息を吐く。
「何だ?今の。今までと全然違うじゃないか」
「これをまだ秘密にしておいた方が良かったと思うのですが・・・仕方無いです」
「ねえ洸平」
可奈子が後ろから肩を掴んできた。
「何があったの?まるでこの前みたいに——」
俺は振り向いた。少し強張った可奈子の顔。この前の事を覚えているからかもしれない。
「大丈夫だよ。可奈子。前みたいにはならないよ」
俺が言うと、安心したように笑みを浮かべた。
『何があったかは分からないが、いい妄想力だったぞ。この前のと匹敵する程の強さだ。しかも今回は安定している。妄想力変換機構の安全装置も機能しているようだ』
ああよかった。これで、もう我を失う事は無いだろう。おそらく。
「おかしいなぁ。イチャイチャが見られると思ったのに」
「残念ですね」
晴人とクリオナが笑い合っていた。
俺はふと、太陽が沈みつつある水平線を眺める。太陽が沈もうとしている島影。地球連合軍の極東支部。こんなに近くで騒ぎが起こっているのに、何の反応もしないのは何故だろう。




