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秘密基地に到着すると、あの巨大な宇宙船が秘密基地上空に停止していた。とは言えあれぐらいの宇宙船ともなれば町のどこからでも確認出来るし、到着するずっと前から秘密基地の上空を占領してるのは見えていた。
そんな秘密基地に近づくのは危険だ、とも思いながらも、クリオナに促されてここまでやって来た。そもそも、クリオナは何か知っているのか?
「おう。来たな」
秘密基地では源治おじさんが待っていた。テレビの前に椅子を置いて、緊急速報らしいニュースを見ている。そちらを顎で指し示す
『地球人の皆さん、我々は惑星トー・レ・ヴィオの統合軍です。我々はあなた方と交渉に来ました』
とんでもない美少年が機械のように語っている。青みがかった銀髪。深い緑色の瞳。
「私はここから来ました」
言うクリオナ。そう、テレビの中の少年は、クリオナに雰囲気が似ている。
テレビの中の少年は続ける。
『ギジオレと言う兵器を差し出してください。さもなければ、無差別爆撃を開始します。繰り返します。地球人の皆さん——』
少年はそれを繰り返している。
「と、言うわけだ」
テレビを消すと、源治おじさんは言った。
「わざわざここの上空に陣取っておきながらこんな放送世界中に流すんだから、趣味のいい連中ではなさそうだな」
「でも無差別爆撃って。侵略じゃないか」
「な?俺の言った通りだろ」
自慢するような事じゃないような。
「それより、あいつら何者なんだ?トー・レ・ヴィオって言ってたけど、そんな惑星聞いた事がない」
俺は先程の放送を思い出しながら言う。顔を見回すと、可奈子も晴人も源治おじさんも分からないといった顔をしている。
知っていたのかクリオナだった。
「ここから考えると、太陽系の少し外に位置しています。地球との関わりはまだありません」
「さっきから・・・クリオナ、どういう事?」
クリオナと手を繋いだまま、晴人が尋ねた。動揺のいろが見える。
クリオナはそんな晴人ににっこり微笑むと、
「私はトー・レ・ヴィオの統合軍から派遣された、アンドロイドです」
「え・・・」
「私は地球の未知の兵器であるギジオレさんを調査に来たアンドロイドです」
絶句している晴人をよそに、にこにこ笑顔は相変わらすに衝撃的な事を言うクリオナ。あまりの事に俺も可奈子も声がでない。
「先日コロニーにある訓練場で未知の反応を示す兵器が確認されました。これまでのどの兵器とも違うエネルギー、違う動き。訓練場を監視していたトー・レ・ヴィオとしては、看過出来なかったのです」
「あの地球連合軍での訓練の事か?あんなの、監視してる奴がいたのか」
「他の星の戦力を把握しておく事は当然の事です。あの訓練場を監視しているのは私達だけではありません」
「世知辛い世の中だねぇ。俺としては地球連合軍にアピール出来ればよかったんだがね」
あの訓練にはそんな狙いもあったのか。
「その兵器の制作者を調べるのはさほど難しい事ではありませんんでした」
「まあ、訓練場に予約データも残ってただろうからな。別に隠しちゃいなかったし」
「娘さんがいると分かったので、接触する事にしました」
狙いがあって可奈子に近づいたと言われると、あまりいい気はしない。俺達は普通に友達になれたと思ったのに。
「で、ギジオレのデータを覗いたのはクリオナ君だろ。丁度君が昨日訪ねてきた時にアクセスされた形跡があったからね。まあ、まるでどの情報が欲しいか教えてくれたみたいだったけどね」
「ふふふ。どうでしょう」
口に手を当てて笑うクリオナ。まるでアンドロイドだとは思えない。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
可奈子がどうにか声を上げた。
「クリオナがアンドロイドだってどういう事?それに、ディディエじゃなくてトー・レ・ヴィオ?統合軍?ギジオレを調べてたって?色々説明してもらわないと、頭が混乱しそうだわ」
「はい。私はギジオレさんの調査をするために、トー・レ・ヴィオの統合軍から派遣されたアンドロイドです。その言葉の意味の通り、私は人間ではありません」
「でもさっき、ハンバーガー食べてた」
「人間の食料でエネルギーが確保されるように出来てます。不便が無いように」
「でもどう見てもアンドロイドには・・・」
「私はトー・レ・ヴィオの最高の技術をもって作られました。人間と見分けがつかないように、素材から最上級の物が使用されていますし、怪しまれないように感情も与えらえられています」
「感情?」
「はい。トー・レ・ヴィオで作られたアンドロイドで私だけ、成長型の感情回路が組み込まれています。先程映像に映っていたのもアンドロイドですが、彼には組み込まれていません。今はまだ不完全ですが、成長して行くに従い、更に人間に近づいて行くでしょう」
淡々と言うクリオナ。だがその滑らかな唇も、ゆらゆら揺れる髪の毛も、未だに作り物だとは思えない。
「なるほど」
源治おじさんが何かに納得した。
「ギジオレに洸平君と一緒に乗せた時に、洸平君が反応しなかったのがおかしいと思ったんだよ。洸平君は無意識に、彼女が人間ではない事に気づいていたんだ」
そう言われ、思い出す。冷たい手、見た目よりも少し重い体、そして不思議な香り。それらの違和感が、俺の妄想力を反応させなかったのだ。
「対象が生物だろうが何だろうが反応するのが上級者だって言うが、洸平君は上級者には遠いみたいだな」
そんな上級者にはなりたくない。
「可奈子さん」
クリオナは深い緑色の瞳を可奈子に向けた。この吸い込まれそうな瞳が作り物だとは信じられない。
「親切にして頂き、ありがとうございました。まるで皆さんを騙しているようで心苦しかったですが、楽しく過ごす事が出来ました」
「そんな、お別れみたいな言い方・・・」
「晴人さん」
クリオナは晴人の両手をとった。
「申し訳ありません。晴人さんの気持ちを理解する事がまだ出来ません。もう少し一緒にいられれば、理解出来たかもしれません」
「え・・・嫌だよ。お別れなんて」
「洸平さん」
俺の方も見た。
「可奈子さんを大事に」
俺だけシンプルだな。
クリオナはそれぞれに言うと、晴人の手を離すと源治おじさんに、
「では行きましょうか。交渉人が待っていますl。ここからは私が宇宙船までご案内します」
「宇宙船に入った途端に捕まったりしないだろうね」
「そんな事は私がさせません。大事な友達のお父様ですから」
そう言ってクリオナと源治おじさんは秘密基地を出て行く。三人で追いかけると、宇宙船に向かうクリオナが振り向いた。
「安心してください。多分また戻って来ます。役割がまだ終わっていないはずですから」
そう言うと、宇宙船から長く伸びたリフトに乗って、中へと向かって行った。
今生の別れのようなシチュエーションに、俺達はしばらく声が出なかった。クリオナと源治おじさんを乗せるとどこかへ飛び立って行く宇宙船を力無く眺めているだけだった。
「あのさ・・・」
しばらくして、晴人が口を開いた。いつもの軽い調子ではなく、重々しい深刻そうな声。そう、確かに一番ショックを受けているのは晴人かもしれない。本当の気持ちがどうかは分からないが、随分クリオナにご執心だったみたいだから。
これを慰めればいいのかどうなのか迷っていると、
「洸平、アンドロイドとどう付き合っていけばいいのかな。アンドロイドと結婚できるのかな」
あまり心配はなさそうだ。




