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一章―始― 5

 当日のことを知る人物には、俊元一人で話を聞きに行くこととなった。夜に菫子はその話を伝えてもらう予定だ。話を聞きに行く前、俊元は二冊の資料を届けてくれた。例年の正月の儀式の記録と、今年のもの。


「余裕があればでいいから、目を通してみて。無理はしないように」

 そう穏やかに言い残し、俊元は念誦堂を後にした。毒の影響など全くなく動く俊元を見て、菫子の心もだいぶと落ち着きを取り戻した。菫子に対して、ここまで良くしてくれる俊元に、報いたい、そう思った。菫子は、資料に手を伸ばす。


 例年の資料から目を通し、供御薬がどういうものかをもう一度確認する。供御薬は元日より三日間、清涼殿で行われる。用意されるのは一年の無病息災を願って飲む、霊薬。その中身は、大黄や桔梗などの薬草を調合したものである。儀式の流れとしては、俊元の話の通り。まずは、薬子くすこと呼ばれる童女に試飲させ、その後、銀の瓶に入れて、女官が御盃を持って帝に献上する。帝が飲まれて、女官に返し、後取しんどりと呼ばれる者が残りを飲み干す。


「今回の事件の場合、後取にまで盃は回っていないから、除外していいわね」

 口に出していくと、頭の中が整理される。


「毒が入れられたのは、どの時なのかが重要だわ」

 症状が出たのは、童女と帝。二人の間を渡す女官が毒を入れた可能性、なくはないけれど、多くの目がある中で、誰にも悟られないようにするのは難しい。


「そうなると、やっぱり初めから毒が入っていたと考えるのが自然。でも……」

 童女は、飲んでから時間が経って症状が出たのに対し、帝は飲んですぐに気分が悪くなったという。この時間差は一体何から来るものなのか。年齢か、体質か、毒自体の変化か、不確定なことが多い。

 菫子は、首を振って弱気な考えを追い出す。


「せめて、役に立たなくては」







 俊元は、藤小町へ資料を渡した後、蔵人所の傍にある梅の木にもたれかかった。花の咲きが遅いからか、ここには今はあまり人がいない。人知れずため息をつくには、ちょうどいい場所だ。


「はあ……」

 藤小町には、悪いことをした。あそこで源大臣が来るとは思っていなかった。来たとしても、いつものように流せばいいと軽く考えていた。藤小町が標的になることくらい、予想出来たはずなのに。守る、という意識が足りていなかった。


 自分に触れてしまったことで、過呼吸を起こしてしまった時も、見ていられなかった。本当は抱きしめて背中をさすって大丈夫だと言いたかった。だが、触れること自体が、藤小町にとっては恐怖のきっかけとなってしまう。とても危うい。散る直前の花のように儚い。


「……嫌な思いをさせたかったわけじゃない」

 藤小町を窮屈な籠――あの家から外へ連れ出せたと思っていたが、宮中の念誦堂というただ別の籠に入れただけなのではないか。望みを聞いたら、消え入りそうな声で、幸せになりたいと言った少女の願い、叶えてやりたい。それが難しいことであっても。

 俊元は梅の木から背中を離した。童女の姉に話を聞きに行かなければならない。


「落ち込んでいる時間はないな」



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