表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/88

24.神をも超える力


高く昇る日差しが大聖堂を照らす。神殿広場にずらりと並ぶ参拝者達。今や見慣れた光景が次々と通り過ぎていく。


昨日の事件に関して、ゼン神官の裁定も終わり、一旦宿に戻る事になった。

元々の目的であった合同演習も本日で終了となった。というか、今はそれどころじゃないだろう。



王都神殿を背に、メインストリートを行くと王都市場が見えてきた。


「こいつは硬ぇな」

「ほら、さっさと運べ!」

「おーい、こっちも頼む」

かんかんごりごりと響き渡る無機質な音に、汗ばんだ声が混じる。

市場に広がる瓦礫の解体と撤去作業が進められているようだ。


「復興までは、時間がかかりそうだね」

「ああ、だが王都軍も協力しているようだ。通常よりは、早く終わるだろう」

レナルドの目が光る。

王都軍なんて、どこにいるんだ? 俺にはみんな土木関係者にしか見えない。特別な見分け方でもあるのだろうか。



市場の喧騒を横目に過ぎていくと、神妙な面持ちのデライラがいた。


「デライラ、どうかした?」

「あ、その、先程の申し出の事なんですけど」

「宝玉の安置を手伝う事?」

「はい。突然だったので、お二人に迷惑がかかってないかと」

「まあ、びっくりしたけどね。デライラの決意を尊重するよ」

同意するようにレナルドは頷き口を開く。


「マテオ神官には私からも言っておく。ただ、デライラからも手紙を書いたほうが良い」

「はい、ありがとうございます」

やわらかな笑みの中、光る瞳には強い意思が感じられる。



デライラは本当に凄いな。


ゴーレムの残骸から再び現れた宝玉。あの時もデライラは、封印を試みた。でも魔力が尽きてできなかった。悔しさに歪む顔は、今でも目に焼き付いている。

それでもめげず、神官として、レリクターとしての本分を果たそうとしている。


俺はどうだ? 正直恐怖しかなかった。


英雄と称されるレナルドと、氷炎の妖魔と恐れられたクレア。その二人が協力して放った魔法を受けたのに、無傷だった宝玉。

あの宝玉は、どれほどの魔力が内包されていたのか……



「ブラントさん?」

気づくと首を傾げたデライラが目の前にいた。一瞬言葉に詰まる。


「またスカーレリアで会おう」

「ふふ、そうですね」

ありきたりな言葉に、楽しげな表情を浮かべるデライラ。なぜかずきりと胸が痛んだ。



「その時はわたし達も遊んであげるわ!」

「待ってるわよ」

クレアが割り込むようにデライラに飛びつく。方やセイディは怪しく微笑んでいる。

二人の言う“遊び”とは“特訓”であって苛烈を極める。


「た、楽しみです」

“特訓”を思い出したのか、苦笑いのデライラ。これは特訓仲間として、助太刀した方がいいな。


「あまり無茶はしないように」

「何を他人事のように言ってるの、ブラント。あなたも一緒よ」

「はい? 俺も?」

思わず漏れ出た声に、呆れ顔のセイディ。


「当然じゃない!」

ずいっと身を乗り出し加わるクレア。


「そうですよ、ブラントさん……一人だけ逃がしませんよ」

ぐっと手を掴んでくるデライラ。どきりと胸が高鳴る。

いつの間にか三人に取り囲まれている――これは、逃げ切れないな。


「わ、わかったって」

「よろしい」

満足したのか、三人は離れていく。その後ろ姿越しに宿が見えてきた。


ふわりと力が抜け、軽くなる足取りに身を任せた。手の火照りを残したまま。




✽  ✽  ✽




あくる朝、いつもより早めに起き、足早に食堂へ向かう。階下から、ぱたぱたと忙しない音が聞こえ、使用人のお仕着せが目まぐるしく行き来している。


「朝食はわたしたちがやっておくから!」

「あなた達は荷造りと馬車の準備をしなさい」

筆頭使用人のように振る舞うクレアとセイディ。今日は朝から大忙しだ。


というのも、王都に召集された本来の目的である合同演習は、昨日ゼン神官から終わりと告げられた。そのため、王都に滞在する理由がなくなり帰還する事になった――デライラを除いて。


「デライラは王都神殿に移るんだよね?」

「はい、女子棟に空きがあるようで、本日からお世話になります」

「そうか。それなら一緒に出ようか」

「え?」

「僕とレナルドも、ゼン神官に挨拶する予定だったんだ」

レナルドを見ると、静かに頷いた。


「どうかな?」

「ええ、ぜひ」

ほわりと浮かぶ笑みに、気持ちが和らぐ。


「ブラント、喋っている暇あるの?」

「デライラ、あなたも移動の準備があるのではなくて?」

眉間にシワを寄せたクレアと、引きつった笑顔のセイディ。

筆頭使用人と化した二人の圧に負け、急いで朝食を済ませた。



宿を出てメインストリートを通り、見えてくる市場。瓦礫はある程度撤去されているようだけど、土埃にまみれた作業員達で溢れている。

市場を見やるデライラのしかめた表情に、胸がずきりと痛む。



市場を通り過ぎ、しばらくすると大聖堂が見えてくる。相変わらず荘厳な姿。それも今日で見納めか。


「ブラント、何している。行くぞ」

ぼーっと大聖堂を見ている間に、レナルドは近くにいた神官と話し、ゼン神官に取り次いでもらっていたようだ。

神官の案内のもと大聖堂を抜け神殿へ。いくつかの回廊を通り、執務室に着いた。



「これはチェンバレン様。よくお出でくださいました」

恭しく出迎えるゼン神官に対し、レナルドが代表して話す。


「本日でスカーレリアへ帰還致しますので、その挨拶にと。お世話になりました」

「いえいえ、それよりもこちらの事情に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」

レナルドは軽く頷くと一拍置き、口を開いた。


「その後どうですか、王都は」

「まだやらなければならない事は山積みですが、滞りありません」

「それはなにより」

二人して本当に楽しそうな笑みを浮かべる。和やかな雰囲気なはずなのに、凄みを感じるのはなんでだろう。いや、知らないほうが身のためか。



「それと、デライラを頼みます」

「こちらこそ。宝玉の安置にもまだかかりそうですから、しっかりと働いてもらいますよ」

ゼン神官のぎらりとした眼光がデライラに向けられる。


「はい、精一杯勤めます」

真っ直ぐで、力強い視線で応えるデライラ。ゆっくりと体がこちらを向き、視線が合う。


「お二人共、お元気で」

「デライラも無理はしないように」

「ふふ、善処します」

「また、スカーレリアで」

「ええ、スカーレリアで」




✽  ✽  ✽




ゼン神官との挨拶と、デライラの別れが済み、神殿を出て宿に戻る。

大聖堂から神殿広場へと行き来する参拝者が流れを感じる中、一抹の寂しさがよぎる。


そう言えば、レナルドと二人きりで歩くのは久しぶりだな。特に王都に来てからは、みんなで移動する事が多かったから、余計に感じる。

レナルドは王都に思う所があったようだけど、最後は楽しそうにしていたし、少しは気が晴れたかな?

ぼんやりと考えていると、レナルドと視線が合った。


「どうした?」

「いや、ゼン神官とは、随分と打ち解けていたようだったなって」

「そうだな。落ち着いた頃に改めて手紙でも書こうと思う」

「どんな陰謀渦巻く手紙になる事やら」

「人聞きの悪い事を言う」

と、言いつつ笑みを浮かべるだけで否定はしない。悪い顔をしている。


「それよりも君とデライラ、なかなか良い雰囲気だったな」

「はい? 仲間として、友達としてさよならしただけだよ」

「ほほう?」

悪い顔から、にやにやに変わるレナルド。


別れの後とは思えない和やかな空気が漂う中、レナルドの表情が、ゆっくりと落ち着いていく。



「それにしても良かったのか、宝玉は」

俺達は宝玉を転生術のキーと予想している。レナルドも俺の事情を知った上で手助けしてくれている。

確かに“あれ”は、今まで遭遇した宝玉よりも強い力を秘めていた。

もしかしたら、元の世界に帰れる手段になるかもしれない。


「それだけど、少し思うところがあってね」

目の当たりにして実感した強大な力。

でも、本当に足りるのか? その上の力が必要だったら?

天変地異レベル? それよりももっと?

キリがない可能性と、際限なく上昇する脅威度。それは、宝玉に対する恐怖。


ぽつりぽつりと、感じた事を話していると、レナルドは静かに聞いてくれていた。

きっと、彼も危惧していた事なんだろう。安易な否定も、楽観的な希望も言わない。

そんな彼だからこそ、信頼できるし、安心できる。



「でも、レナルドと一緒だったら、いつかできると思っている」

「……責任重大だな」

苦笑を浮かべるレナルド。


「頼むよ、相棒」

「ああ」

力強い答えに、じんと胸が熱くなる。



「やっと戻ってきたようね」

「もう準備できてるわよ!」

呆れ顔のセイディと、眉を上げるクレアが出迎えてくれる。

足早に二人の下へ合流する。



「お待たせ。じゃあ、帰ろうか」



元の世界に戻ることを、諦めたわけじゃない。

今じゃないだけだ。いずれ――



――そうだな、神をも超える力を得る、その日まで。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

このエピソードにて、完結でございます。

元の世界に帰してあげたかったのですけども、技術的な部分とブラント(御剣)の無自覚な部分もありで、実現にはもうちょっとかかるかな。

ということで、もしかしたら、第二部があるかもしれませんが、それはまたの機会になります。

それでは、改めましてありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ